始まりの物語11
ピンク色の鋼の豚がその巨体を振るう。二足で直立するその姿はまさしくトンテッキを巨大化させたかのような外観である。30メートルクラスのその巨体は動くだけで周囲を破壊する。ビル群などはまるでロッカーや自販機程度の大きさだ。手頃なそれ等を、調子を確かめるように破壊するっ!!破壊するっ!!破壊するっ!!
「ブッヒッヒッ!!次いくでブヒよっ!!」
その内部に鎮座するのは核たる夢生獣トンテッキ。トンテッキはその絶対なる力の解放にその感触を確かめているのである。短めの、それでいて力強い前足。重量級を思わせつつ、それでいながら敏捷さを維持する足腰。丸々と太った胴体は硬質さと芳醇な栄養の実りを期待させ、二本突き出した牙こそ獣性を露わにし敵を威嚇する。豚こそ至高!!速さと強さを兼ね揃えた究極の肉体であるっ!!そう自負するトンテッキ。
「よしよし、いい感じブヒー。それではそろそろ豚人達の世界へと塗り替えていくブヒよーっ!!」
不適に笑うトンテッキが操作すれば、金剛魔導夢想兵装ビッグトンテッキが両手を天へと掲げ挙げた。それを一気に振り下ろすビッグトンテッキ。その衝撃は地震のように大地を伝い、忽ちにして街の大部分の人間が、豚から進化した豚人間、いや、異世界で言うところのオークのような姿に変化した。ドンドンと大地を叩く度にその変化は広がり、拡がって行く。
「広がれ!!広がれブヒーっ!!そうして始まるオークキングダム!!我等豚族の世界の幕開けブヒよーっ!!」
ビッグトンテッキが大地を叩く。次に変化したのは自動車だ。それがまるで豚を模したようなフェイスグリルに切り替わる。高層ビルもレンガ造りのファンシーな建物へと変化する。世界の見る夢の中で、トンテッキが世界を改変し塗り替えていく。
「さぁさぁ、トンテッキの世界侵攻は進んでいるブヒよ……」
大部分の準備は済んでいる。後残るのは最後のファクターだけであった。そして、そのトンテッキを阻むべく、突き進むビッグトンテッキに急接近する存在がいる。それを敏感に、金剛魔導夢想兵装の五感を通じてトンテッキは感じ取っていた。
「むっ!!来たブヒね夢聖士っ!!今度こそトンテッキの野望が叶うブヒよっ!!」
脂ぎった汗をたらしながらトンテッキは吼える。前回はその望みが叶うことなく倒され、封印されてしまった。更生の岩戸の中で善性を延々と説かれ生まれ変わっていく……それを待つのみであった身に振って沸いたこの好機。
「見逃す術は、ないブヒよっ!!」
金剛魔導夢想兵装を駆る。そう、それは夢幻の機神。夢の中では何でもできる!!世界の見る夢を操作して、己が野望を現実化せしめる可能性の獣。それこそ夢生獣、それこそトンテッキっ!!
「より強く、より大きくっ!!この夢の世界をトンテッキ色に染めるでブヒよっ!!」
鋼の巨神、ビッグトンテッキが今吼える。相対するその者を討ち取らんとっ!!
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眼前には仁王立ちする鋼の豚。ピンク色の機体色が鮮やか過ぎていささかウザイ。されどその破壊力は無視できない。それはその巨体の周囲を見れは一目瞭然。破壊されたビル群は瓦礫と化し、その巨体を中心にして日本の街並みという景色はファンシーなおとぎの世界へと移り変わっている。夢生獣がいよいよ本領を発揮し始めていた。ヤツ等は夢を改竄し、改竄結果を現実と化す事象操作の怪物達。その危険性は見てわかるであろう。ヤツ等は世界を知らない間に塗り替えていくバケモノなのだ。それ故に危険視され、それ故に封印された。
「解き放たれた怪物共っ!!私が浄化し再封印してくれるっ!!」
ラブリーアイシスのラブリー力が跳ね上がる。エルマの調整により以前よりも高出力を出せるようになったその法衣に彼女は期待を寄せていた。
(コレなら……いけるっ!!)
高まる力に自信も満ちる。相対するその巨体は30メートルはあろう鋼の豚である。だが、
「負ける気がしないっ!!」
「言ってくれるブヒっ!!」
ラブリーアイシスの呟きに、鋼の豚が応答した。声にあわせ眼がピカピカしている。
「待ちわびたブヒよ??これでこそトンテッキの野望が叶うブヒ!!」
「……野望??……オークの国を作り、他の異世界へと侵攻しようとでも言うのですかっ!!」
視線を移せば……人の衣服を着た……いや、服はパンパンに膨れ上がった身体に裂けちゃってる者もいるのだが、兎も角二足歩行する豚人間、所謂オーク共の姿が見て取れた。およそにしてこの星の市民達をオークへと変貌させたに違いない。
「チッチッチッー、それはまだまだ先。まずは第一段階ブヒ」
「第一段階??」
器用に前足を左右に振って否定するビッグトンテッキ。
「そう、それは第一段階でブヒ。トンテッキの本当の野望……それは……」
ゴクリと息を飲むラブリーアイシス。満を持したトンテッキは高らかに野望を告げたっ!!
「姫騎士をとっ捕まえて、クッ……!!殺せっ!!って言わせる事ブヒっ!!」
力説する巨大な鋼鉄の豚。理解が及ばず固まるラブリーアイシス。その姿を見てトンテッキは自分の言った事が相手に通じてないと理解する。懇切丁寧に説明すべく、トンテッキは言葉を選んで語り始めた。
「つまりブヒね??オーク王国を創りそこの頂点に立つトンテッキ。オーク達はトンテッキを褒め称え、そしてトンテッキ王国は人間共を制圧するブヒよっ!!そしてそれを討伐しに来た姫騎士を捕らえるブヒっ!!」
恍惚と語る巨大豚ロボットの姿は実に滑稽だ。
「捕まっても尚も反骨心を見せる姫騎士、その前に姿を現す我、即ちトンテッキっ!!そして屈辱を受けるのであればと姫騎士は言うブヒ!!」
クワッと視線をアイシスに向けるビッグトンテッキ。
「くっ…殺せ!!と嘆き叫ぶブヒよ!!」
「えーと??……それにどう私が関係してくるんです??」
語るトンテッキにラブリーアイシスが問いかける。待っていた……と言う事はラブリーアイシスも関係してくると言う事だ。
「んん??もしかして……」
「そうブヒっ!!トンテッキは考えた……姫騎士なんて今のご時世存在しないブヒ!!だが、それでも我等を追いかけてくる聖士はいるブヒっ!!そこでお前達夢聖士を捕まえて姫騎士の代わりにしようと思ったブヒよー」
興奮した感じで熱く語るトンテッキっ!!しかしトンテッキは急にテンションを下げた。
「しかし前回は失敗したブヒよー。準備万端で待っていれば、来た夢聖士はお前んトコの女王だったブヒ。思わずBBAって言った途端ボッコボコにされたブヒ。年甲斐もなく夢聖士やってるんじゃないブヒよー。お前もブヒよ??そろそろ年齢的にラブリーとか大概にキツイブヒよ!?」
ラブリーアイシスの中で何かがブチブチと引きちぎれていく。
「わ……私にそん恥ずかしい事をしろ……と??捕まえ屈辱的な言葉を吐かせた後、お前達に辱めを受けるのでしょう??」
怒りが高まるにつれ聖力も高まっていくラブリーアイシス。だがトンテッキはその事には気づいておらず首を横に振った。
「そんなことはしないブヒよっ!!第一お前等人間なんて陵辱してなにが楽しいブヒか??美的センスが壊滅的に狂っているブヒね??お前は相手がカバでも興奮できる特殊性癖ブヒか??お前等は肉付きが足りないブヒよー。もっと脚は太くっ!!もっと腹回り、バラ肉の肉付きを良く!!今の3倍……いや、5倍は豊満でピッチピチでなければ話にならないブヒっ!!自意識過剰すぎるブヒよド級ブスっ!!」
「ラブリィイフラッシュッ!!」
有無を言わさずに先制した。ラブリーフラッシュが豚の頭部に直撃し大爆発を起こす。尻餅をつくように倒れ込むビッグトンテッキ。
「くっ!!不意を突かれたブヒっ!!それじゃあこちらも……」
体勢を起こそうとする鋼の巨体。だが、それより早く跳び込むラブリーアイシス。
「黙って寝てろこの豚野郎っ!!」
怒り狂ったラブリーアイシスの強力な斬撃がビッグトンテッキへと叩き込まれ、巨体が弾き飛ばされるように後方へと吹き飛んだ。ビル群を巻き込みながら倒れ込むビッグトンテッキが瓦礫に埋もれていく。
「~~っ!!相変わらずお前達夢聖士は頭おかしい強さブヒねええっ!!起きろっ!!ビッグトンテッキっ!!」
トンテッキの声と共に瓦礫を押しのけ立ち上がるビッグトンテッキ。大した攻撃を受けたようにも見えたが、その装甲には一部の切り傷すらついていなかった。興奮するトンテッキに感応し、その眼の色が黄色から獰猛な赤色に染まり上がっている。
「行くブヒよっ!!ウリボウタックルっ!!」
クラウチングの姿勢をとれば、猛然と突進する鋼の豚。急速に迫る鋼の塊を視界に捉え、
「っ!!」
それをマタドールのように直前で躱すラブリーアイシス。豚の鉄塊が通り過ぎ巻き上げた暴風をその身に受けつつ、ラブリーアイシスは剣を振るった。
「ラブリー、シューティングスターッ!!」
振るった剣筋から放たれる何本もの星の煌めき。それらは尾を引いて走る鉄塊へと強襲する。ビルの間隙を縫いつつ押し迫った流星は忽ちにして鋼の豚に襲い掛かり、幾つものを光の球を造り上げ花火のように炸裂した。再び煙を上げビル群を巻き込みながら横転する鋼の巨豚。
「……なんという……威力ブヒっ!!」
瓦礫をふるい落としながら、膝を付き起き上がるビッグトンテッキ。対するラブリーアイシスもまた……、
<まずいよーまずいですよーラブリーアイシスー!!出力上げすぎですよーっ!!ジュエルが持たなくなっちゃうーっ!!>
「今のままなら押し込めますっ!!なんとか出力維持してくださいっ!!」
意識下に伝わってくる念話に応答するラブリーアイシス。エルマイールからの返答も聞かず、より強く聖力を練り上げ再び流星を撃ち放った。光速で飛ぶそれが鋼の巨豚に直撃すれば、チカチカと光り……強烈な圧力を放つ花を咲き乱れさせる。その波動に建造物が粉砕され、街路樹は消失していく。駆け抜ける衝撃波に幾つものビルが倒壊し、コンクリートの砕けた灰色の煙が四方へとまき散らされた。立ち上るのは黒煙だけでなく、それら破壊の跡、塵芥も多数交じっている。
「…っと、これ以上はよくないですね」
ラブリーアイシスは視界の隅に奔った瞬きを見逃さなかった。聖法衣が一瞬火花を上げたのだ。エルマイールに高出力方向へと調整されたラブリージュエルであるが、そのラブリーアイシスの出す聖力に根負けし……いよいよ大分負荷がかかっているらしい。だが彼女のその眼は依然として前を見据えている。粉塵をかき分け、その巨影が歩み出る。
「恐ろしくは夢聖士ブヒっ!!その状態でこれだけの聖力を弾き出すとは……正直驚嘆に値するブヒねっ!!」
トンテッキの言い分など耳にも入れずラブリーアイシスは剣を振りかぶり、猛然とビッグトンテッキ目掛け空を駆けた。それを眼にし、トンテッキがその前足をぶつけ合う。酷く鈍い重低音を響かせて……、
「やられてばかりはいられないブヒよっ!!」
ビッグトンテッキが両手を広げれば幾つもの魔法陣を描き出していた。そこから現れるのはビッグトンテッキの足。その巨大な鋼の足が、360度方向からアイシスへと襲い掛かる。その魔法陣と豚足の間を、縫うように飛ぶラブリーアイシス。
「ラブリーパワーマキシマムッ!!ラブリー……ハートフル──」
縦横無尽に飛ぶアイシスからオーラが放たれ、その手の中のパラディンソードへと注がれる。刀身がピンク色の極彩色を放ち、アイシスはその剣で迫る豚足を迎撃した。剣に叩き付けられた豚足は拉げるように分解し、金属片をまき散らし、それらは粉と化していく。数足の豚足を吹き飛ばし、視界の開けたラブリーアイシスが本体目掛け飛翔する。
「──ボンバアッ!!」
そのアイシスを打ち落とさんとするビッグトンテッキの拳。それとラブリーアイシスの剣が激突する。途端に隣接するビルが残骸となって弾け跳んだ。周囲一体を更地に変えつつ両者の力が拮抗する。いや、接触点はピンクに耀き、ハート型の波動が空を染めるように空間に描かれる。アイシスがそのまま剣を振り抜けば、ビッグトンテッキの右前脚は粉砕され、その身体ごと吹き飛ぶように押し返された。
「なんつー聖力ブヒっ!!」
「もらったあっ!!」
倒れ込むビッグトンテッキに向け、ラブリーアイシスがトドメとばかりに襲い掛かった。




