龍獅子相搏つ11
大晦日。日を跨げば新年を迎えるという年末の最終日。それは運命の日ともなった。
「世界の疲労もしっかりと溜まったレオ。明日を迎えると同時に、いよいよレオライガー達の決着が始まるレオよっ!!」
居間に陣取るレオライガーが四肢をコタツに突っ込みながら言う。正宗が視線をエルマに向ければ、それに気づいたエルマも頷きで返してきた。
「確かにー、因夢空間の展開は可能とはなっていますー」
レオライガーが言うように準備は整ったということなのだろう。!──だが、正宗には危惧していることがあるのだ。
「それ……もう少し時期を伸ばすことは出来んのか!?」
「ムッ!!何を怖気づいているレオッ!!我等の戦いは運命であり宿命っ!!これは避けることの出来ない生存権をかけた戦いレオよっ!!」
決闘に消極的な正宗に吼えわたるレオライガー。しかし、
「だって……だって寒いだろうっ!!外は冬真っ只中なんだぞっ!!変身する際こっちは全裸にされ、暫らく放置されるんだぞ!?こっちの身にもなってみろっ!!また死んだら、ヒートショックで心臓麻痺起こしたらどうするっ!?この間はエルマの蘇生聖法術が間に合ったから良いものの、そう何度も何度も死にたくないわっ!!第一、そんなコタツの住人になっているお前に言われたくねーっ!!」
「そ……そうレオねー、外は寒いレオよねー……寒いんレオよねー……」
激昂する正宗の怒声にコタツに突っ伏してレオライガーの声が小さくなっていく。流石は猫科の夢生獣というべきであろうか??どうやらレオライガー自身も寒いのは苦手のようである。彼の灼熱の決心が、凍えるような寒さに揺らいでしまっている。正宗としても、もうすこし暖かくなってからが好ましいのである。
「まー、マー君実際のところー、この頃死ぬ機会上がってきてますからねー」
心臓麻痺に内臓破裂、普通なら何度か人生終ってしまっている。ただ、異世界の技術のおかげで奇跡的に助かっているだけなのだ。
「い、いやっ!!寒かろうと決着をつけるレオよっ!!レオライガーは決意を覆さないレオよーっ!!」
そう言いながら意識を奮い立たせるレオライガー。しかし逆に四肢をコタツ深く忍ばせる様は気持ちと肉体が相反している証拠ではないだろうか??そんな姿を見た正宗は溜息をつくと、成り行きを見守っていた女性陣へと顔を向けた。アイシスは気合い十分という様子で鼻息を荒くしている。
「いよいよというべきですね。正直決闘の結果はどうなるか分かりませんが、とりあえず前回の戦闘は参考にはなるでしょう。あの爪と牙は矢張り脅威ですよ正宗。あの時の戦い、レオライガーの動きや攻撃パターンをちゃんと覚えていますか??」
「覚えてるわけねーだろっ!!あんなの早すぎて俺の目じゃ捉えられるわけねーよっ!!」
「えーと、そうなりますとー毎度の事なんですがー、やはりぶっつけ本番という対応になってしまいますよねー。それでもレオライガーの性格傾向だけでもー、この数日間の共同生活で体感出来た事はよかったと思いますけどー」
「考えてみれば相手側はいままでのこっちの夢生獣との戦いも観戦していて散々研究してきてるんだろう??卑怯じゃねーか」
「その点は致し方ありませんわね。……それとは別件なのですけれど、一つわたくしには懸念材料があるのですけれどよろしいです??」
フラウニの思わせぶりの一言に彼女に視線が集まる。眉を寄せたアイシスが代表して問いかける。
「懸念……とは??」
「つまりですわね……」
フラウニは一端視線をレオライガーに向けた後、コソコソと彼女の意見を提示した。その内容はシンプルだが確かに一理ある話の内容であった。
「確かに一理ありますね」
「ええ。フラちゃんの意見は至極まっとうな物だと思いますー、特にわたし達はそこに注意しておかなければいけませんからねー」
「しかし、そうなると……」
思案に目を瞑るアイシス。
「以前の要領じゃダメなのか??」
考え悩む彼女に正宗が視線を向けたが、その横でエルマが首を横に振った。
「難しいですねー。ですがー、フラちゃんの事ですから何か一案あるのでしょー??」
「一応は、ですけれどもね」
エルマの問いに頷いたフラウニは案を語り、その意見を元にアイシスとエルマが補足をしながら詰めていく。そんなフラウニの元にまた一匹の猫又がやってくる。真っ白なその身体を彼女へと摺り寄せ泣き声を上げた。
「はー……。貴方はこれから敵となるのですから、レオライガーの元へと戻りなさいな」
猫又を抱え上げたフラウニがその毛並みをなでながらそう猫又に語りかけ、レオライガーの方へと促した。しかし猫又は一鳴き拒否するように鳴き足を進めない。
「その事であるが年齢外見詐称夢聖士、そこな猫又はどうやらそなたの事が気に入ったらしいレオ。我と敵対してでもそなたと主従の関係を結びたがっておるレオよ」
レオライガーの言葉にニャーと肯定を示す猫又。
「主人を変える程ですか。余程フラウニの事を気に入っているのですね」
「……全く。貴方それで本当に宜しくて??」
羨ましそうに眺めるアイシス、その横でフラウニが真っ白な猫又を抱え上げる。その言葉を理解しているらしく、猫又は嬉しそうに二本の尾を立て、ニャーと鳴き声で返した。フラウニは微笑するとその頭をなでてやる。
「なら貴方に名前をつけてあげなくてはなりませんね、正宗さん、何かよろしいのはなくて??」
「えっ、名前??猫の名前か……」
咄嗟に素晴らしい名前がでてくる程正宗に主人公補正はない。
(ラノベとかの主人公が武器や聖獣とかにあんなポンポンかっこいい名前をつけれるのは引きこもり中二の為だろうけど……)
正宗はそこまで猫の神様とか知っているわけではない。
(猫の神様、なんだっけバス……バステス??いや何か違うような……。それならスフィンクス……いや横文字じゃなくとも……)
必死に考え出した結果、
「ネ、ネコエモンでどうだ??」
「かなりギリギリでアウトだと思いますわ」
フラウニに即座に却下されてしまった。結局猫又は招き猫から取って「マネキ」と名づけられた。
「安直過ぎるだろうっ!!ネコエモンとどっこいだろうっ!!」
「そんな便利道具出してくれそうなタヌキ体型になってもらっては困りますわっ!!」
「もー。フラちゃんが面倒見るんだからフラちゃんが気に入った名前でいいじゃないですかー」
「マネキですか……マネキ~」
「ニ゛ャッ!!」
猫なで声で撫でようとしたアイシスの手を鋭いネコパンチが叩き落す。正宗は納得のいかない顔をしつつアイシスに問いかける。
「それで??作戦案は煮詰まったのか??」
「え??ええ。フラウニの案に手を加えたモノでいくことにしました」
アイシスは憮然とした表情をして、距離を取って逃げるマネキを目で追いながら言う。結局の所、彼女の放つ強力な力に、鋭敏な感覚器官を持つ獣達は警戒を強めるのであろう……、一行に彼女に懐く子達は現れなかったのだ。
「しかしなんだな、折角明日は新年だって言うのに……年明け早々に命運をかけた戦いかよ……」
「いずれは決着はつけねばならなかったですから、来るべき時が来たというだけです」
「その間の忠典殿の護衛は私が勤めましょう」
正宗の愚痴とアイシスの返しにクロノが入ってきた。正宗達はレオライガーとの戦いに精一杯、総掛かりである。当然にしてその間に正宗の親族である忠典が狙われる可能性があった。それを防ぐ為にクロノが護衛を買って出てくれたのだ。流石に聖士程ではないが、クロノとてドーベルの貴族であり獣士である。時間稼ぎぐらいは可能であると判断されたのだ。
「それよりもー、本当に大丈夫なのでしょーかー??」
「何がですの??」
「マー君ですよーっ!!レオライガーとコレだけ仲良く生活していたのですよー??本当に戦えるのか心配なのですよー」
「確かに、少々心配ですわね」
不安顔のエルマの視線を受け、フラウニも正宗の顔色を伺った。正宗は鍛え上げられ戦場を駆けてきた猛者ではない。その辺りで平凡に暮らしてきた一般市民なのだ。エルマやフラウニ達のように命のやり取りを日常的にしてきた戦士達とは違うのだ。ともなれば、親しくしてきた相手と生死をかけた戦いをするなど心に重大な傷を受けるに違いない。それを慮ってエルマとフラウニは神妙な視線を向けるのだ。
「安心しろっ!!コテンパンにのして封印してやるからなっ!!」
「そうはいかんレオッ!!レオライガーが勝利してこの世界をいただくレオよっ!!」
正宗の突き出した拳に拳を触れさせて応えるレオライガー。二人の顔には獰猛な笑みが浮かび上がっており、既に一触即発の雰囲気をかもし出していた。
「……全然大丈夫そう……ですわね」
「アイちゃんの言った通りですがー……やっぱりなんかこう、どこか欠落しちゃったんじゃないかと思うんですよー」
「まぁ、普通はそう考えますわね。……一度休養を取らせてはいかがです??」
「取る前にコンゴリが来ちゃう気がしますけどねー」
「……ですわね」
レオライガーと威嚇し合う正宗を見ながらフラウニとエルマが合掌する。何かが壊れかけているかも知れないが、世間がそれを許してはくれないし、治るのを待ってもくれない。ただ、それは正宗だけに言えることでもなかった。不慣れな異世界で孤立奮闘しているアイシス達も聖士とはいえ相当に消耗しているのも事実で、相手が怪物である以上いつどんな負傷を負ってもおかしくない状況なのだ。
(どうか壊れる前になんとか全て解決しますように……)
ただただ、彼と自分達の人生に幸在れと祈り上げるだけなのであった。




