龍獅子相搏つ9
その光景には流石に度肝を抜かれたということであろう。エルマ達は唖然として、開いた口が塞がらないでいる。何故ならば、居間に入ってきた正宗とアイシスに続いて入ってきた者が、その場にいてはいけない存在であったからだ。
「えっ??あの、そちらは……、え??あの、一体どういう……」
クロノが戸惑い、動揺しながら正宗に声をかける。その正宗だが、彼としても少々想定外だったのか苦笑している次第であった。
「まぁそういう反応になるよなぁ。……どういうつもりかは、ホラ、すまんけどもう一度説明してやってくれ」
正宗が彼の横に立つ巨体、異形の者へと視線を向けた。それを受けて彼は頷き破顔する。
「おおっ!!コンゴリのヤツがどうもにも信用できず、まだ何やら企んでおるようでな、不安があるレオから世界の疲労が溜まってしっかり快眠し、深い夢を見られるようになるまでの暫らくの間お世話になるつもりの……夢生獣レオライガー、レオッ!!」
威厳を放ちつつ胸を張る筋肉ライオン。──しかし、正宗以外の反応は冷めた物である。
「いやいやーっ!!アナタ、夢生獣ですよねー!?わたし達の敵ですよねー!?」
「細かいことを気にしていたら禿げるレオよユメミールの王女。これはそちらにもメリットのあることレオ」
自信満々の筋肉ライオンの返答に、エルマは頭皮を気にしながら顔を顰めるしかない。それを横目で見ると、フラウニが疑問を引き継いだ。
「結局その、どういうことですの??」
「んん??ようは我等の決着がつくまでの間休戦協定を結ぼう、ということレオ。その間我がここに住まうことでコンゴリへの牽制にもなるレオし、当然ヤツも手を出せなくなるレオ。まぁ用心棒のかわりみたいなものレオね」
要約したレオライガーの言葉を聞けば、フラウニはエルマと視線を交わし黙考を始めた。というのも昨日の一件でレオライガーとコンゴリの確執、夢生獣間でも意見の食い違いがあるのは見て取れていた。そういった事からレオライガーの言葉にはある程度の説得力は感じられるのだ。しかし、その一件も含めての謀略と言う事もありうるので慎重になっているのだ。というのも敵陣内部に侵入し内部から相手側を破壊する手段は良くある手立ての一つだからだ。相手に策謀を張るコンゴリという存在が見えているからこそ、疑心暗鬼気味に疑り深くなっているのである。沈黙で息苦しくなる中、ビビリながらクロノが顔を上げる。
「夢生獣レオライガー殿、我々としては正直“ハイそうですか”といくわけないと、貴殿ならご理解いただけますな??なにかこれが策謀でないと、証明できる物はありませんか??」
「むっ、ドーベルのヘタレ貴族よ、そなたの言い分も確かレオ。しかし証明と言われてもレオなぁ、そこは信じてもらう他ないレオ。──ただ、レオライガーは我が名のもとに確約すると宣言するレオ。我がいる間にコンゴリが手を出してきた場合、いかなる手段を持ってしても我はヤツ等を叩くレオッ!!その場合共闘しても構わないレオよ!!」
ヘタレ貴族と言われ胸を抉られたクロノであるが事実なだけに反論の余地はない。ただ、レオライガーが自身の名を出して宣言したことにはエルマもフラウニも視線を向けた。武人気質であるという前情報があるレオライガーが、己の名にかけて宣言したのである。
「その時はヤツを討ち滅ぼすところまで付き合うレオよ!!決闘の邪魔をするなと釘を刺したのにもかかわらず、尚も手を出してくるようでは容赦する必要は最早無いレオ!!正面切っての決闘、それに勝利してこそ、そこに価値は在るレオッ!!」
「……と、まぁこう言っているんだがどうだろう、と思ってな」
吼えるレオライガーの横で正宗が困った顔で言う。流石に自分一人の意見でどうこうというわけには行かないと理解しているようであった。その他の者達の意見も聞こうとレオライガーを居間まで案内してきたのだ。もう既にあきれかえっていたアイシスが溜息をつく。
「チャイムにつられ玄関に行ってみれば、夢生獣が普通に尋ねて来ていたという……正直我が眼を疑いましたよ」
彼女は悩ましげな顔のままフラウニ達へと顔を向ける。その視線を受け、フラウニは頷いて見せた。
「確かに、悪い案ではありませんわ。決闘の時まで横槍は無し。その上で、コンゴリの介入があれば共闘しこれを討つ……この確約はわたくし達にはメリットがありますわ」
「ですがーそのー……、デメリットの方が……」
エルマが視線を正宗へと向ける。しかしその言葉に疑問があったのか、アイシスがエルマににじり寄った。武人気質のレオライガーが名にかけて宣言したのだからコンゴリの策謀を疑う必要は無くなったといっていい。ともなればデメリットなど存在しないのではないかとアイシスは考えていたのだ。
(デメリットとは一体何の事だ??)
(マー君への心理的影響ですよーっ!!一緒に生活なんてしたら情が移ってしまうじゃないですかー。そんな状態で決闘なんか出来ると思いますかー??)
二人は顔をつきあわせひそひそ話をする。そう言われればエルマの言い分には一理ある。一理はあるのだが……、
(私は……、その点については寧ろ全く問題ないと考えてます)
(えーっ!?アイちゃんなんでそう言い切れるんですかー!?)
(エルマは知らないでしょうが、正宗は、アレは非常に非情なヤツなんです)
(非常に非情、……こんな時にギャグですかー??)
(違いますよっ!!なんというか、正宗はトンテッキの時やカッサーナの時などでもなんか……こう……夢生獣達と親しげに会話をするんですが、実際関係は割り切っている??……そんな対応するんですよ、彼は)
アイシスの言い分を聞き悩むエルマ。そんな彼女等とは別に、新たな来訪者がドアを開け中に入って来る。
「なになにどうしたポ??またなんか問題が発生したポか??しかし今ポッコルは重傷の身、なんの役にもたてないポよ??残念だけど他を当たるポ」
一息に自分の言い分だけ言う糞妖精が姿を見せた。その腹には包帯が巻かれており、中はというとその胴体は縫い合わせた縫合状態である。そのままほかっておけば裂けていた布地もくっつき合い、元に戻り次第抜糸すれば問題ないというのだからちょっと埒外の物体と言えよう。そんな物体も意気揚々に居間へと入ってきたものの、鎮座している異形の筋肉ダルマの姿を見て足を止める。途端に全身から汗を噴出し始め、痙攣するように身震いを始めた。
「ギョエアッ!!む、夢生獣ポッ!!夢生獣ポよっ!!一体全体どういうことポよっ!!なんで夢生獣がポッコル達の根城にいるんだポよっ!!」
「ム??妖精族ではないレオかっ!!無事だったレオね??重畳重畳、これで全力を出し戦えるということレオね」
叫び喚く声にレオライガーが縮み上がるポッコルの背中を軽く叩けば、くの字に曲がりながら壁へと叩き付けられる程に吹っ飛ぶぬいぐるみの身体。
「酷い……あつかいポ……」
ズリ落ちるようにポッコルが沈む。しかし他の誰も彼には注目していない。
「正直に言えば私はどうメリットデメリットがあるにせよ、敵となれ合うのは反対です。が、状況が優位に運びそうなのは判ります。ですので正直どっちつかず……と言う所ですね」
「それを優柔不断というのですわ。──で、わたくしとしては賛成致しますわ。夢生獣二体を同時に相手にしないのであれば、彼のの申し出には応じるべきと考えますわ」
「ちゃんと決定できないヘタレアイちゃんは置いておいてー、一部に不安はありますがーわたしも賛成意見ですねー」
「なんで二人して私をディスるんだっ!!」
エルマとフラウニが意見を言い、アイシスが涙目で正宗を見た。彼女等の意見を聞きつつ思考を奔らせ、
「よしレオライガー、暫くたのむぞっ!!」
「っ!!心得たレオッ!!」
正宗がレオライガーに拳を突き出せば、それにチョンと拳を合わせ笑うレオライガー。ここに人類と夢生獣との共存協定が結ばれたのだ。それを、凝固した身体と心で呆然と見ていた忠典。
「これが……こんなハチャメチャがお前の日常なのか。──本当にマジもんで大変なんだな」
あまりの非現実、あまりの常識外れに忠典は言葉を失い固まるしかなかったのだ。忠典を置いて事態は、奇っ怪な現実はどんどん進んでいく。自分の息子は彼の見たことのない、それこそ“この世界の者達が見たことのない景色”の先へと進んでいくのだ。その姿に寂しくもあり、そして羨ましくもある。
(若さは可能性で、人生はいつだって冒険だ。誰も見たことのないその先へ、お前は我武者羅に進んで行け、正宗)
先の補償はない。だが、それこそが生きるということであり、誰にでも訪れる常であろう。忠典はもう正宗の進む先に口を出すことはしない。助言を求められれば返すであろうが、はたしてそれがこの奇っ怪な事態の前にどれだけ役に立つのであろうか??まだ見ぬ異世界など話が大きすぎるし、夢の中の話など荒唐無稽なのだ。ただそれでも、正宗の背中だけは押せるように、そう心に決めるのであった。




