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顕現っ!!アルヴァジオンッ!!  作者: 当世杞憂
龍獅子相搏つ
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龍獅子相搏つ7

 獣王の放った一撃に猩猩達は群れごと身体を引き裂かれ、更にビル群をも斬り裂き倒壊させていく。他の群れの猩猩達が木々を渡るように街灯へ、電線へ、ビルへ、看板へと跳び移り逃げるが、猛獣の猛追からは決して逃れられはしない。瞬く間に追いつかれ、次々にその姿を消していく。


「正宗の護りは任せたレオよ!!ユメミールの夢聖士っ!!」

「貴方に言われるまでもありませんっ!!」


 レオライガーがビルの壁面を駆け立体的に追撃していくのを眼にしながら、アイシスはパラディンソードを振るった。彼女と正宗を中心に180度、様々な場所、角度から猩猩の鉄槍が投擲され、それらを全て斬り飛ばし正宗を護る。迫る鉄槍の一投一投はまるでバリスタの矢の如く。更にはその同時掃射による矢の雨を、超人的な剣捌きで薙ぎ払う。その破片が撒き散らされる中、正宗が匍匐前進で進む。


「ポッコル、しっかりしろっ!!」

「も……もう駄目ポ……このままでは……死んでしまう……ポよ」


 先程投げ槍の直撃を受け、アイシスの手元から落下したポッコルの姿。胴体半分、正に布一枚残し斬り裂かれ、中からは白綿を大量露出させていた。ポッコルを拾い上げる正宗だが、その状態から決して無事ではないことは理解していた。しかし現状でどうにか出来る手段は無く、咄嗟にダッフルコートのポケットの中へ突っ込んでおく。多少ビリビリと何かが破れる音と、ぐもった嗚咽が混じっていたが空耳だろう。されどその間にも正宗達を囲う猩猩の数は増す一方である。


「ちぃっ!!」


 相対的に数を増した投擲される槍の数にアイシスも顔を顰めた。聖法衣解錠の鍵となるポッコルを狙い撃ちされ、現在アイシスは変身出来ないでいる。勝機とばかりに彼女と正宗を討つべく増えてくる猩猩の数。街路樹の影、車の影、止まった人の影から猩猩達が躍り出てきた。


「っ!!」


 猩猩達は槍を投擲すると直ぐに下がり、その裏から新たな猩猩が現れ槍を投擲してくる。決して近寄ってこず、まるで機械のように忠実に命令をこなしているように見えた。しかしレオライガーの己の魂を注いだ決闘に、無断でコンゴリが介入して水を差してきたのだ。そんな謀略の出汁にされ、勇猛果敢なレオライガーが憤慨しないはずがない。彼方此方で轟音と爆風が踊り、粉砕された群れの影と、駆け回り牙を振るう狩人の姿がある。


「貴様等がっ!!どれだけこのレオライガーの顔に泥を塗れば気が済むレオかっ!!」


 闘志が刃と化してレオライガーから放射され、レオライガーを中心にその周囲一帯が粉微塵に斬り裂かれ破壊された。ビル群から路上の車両まで含め、クリスマスに彩られた街並みごと猩猩達は切り刻まれ赤いオーラに焼かれ気化するように燃えてゆく。広範囲に広がる破壊の刃と業火の炎はアイシス達の元まで届き、粉砕されるビル群を視界の隅に入れながら彼女の障壁で正宗はそれをやり過ごした。同じくして囲っていた猩猩達が塵芥のように消し飛び激減していく。


「今ですっ!!行きますよ正宗っ!!」


 レオライガーの作った間隙に正宗を抱え上げ走り出すアイシス。獣王の爪と牙から逃れた猩猩達がよろめきながら体勢を立て直し、その影からまた別の個体を引きずり出してくる猩猩。アイシスは瓦礫の上を飛ぶように走り、蹴り上げるように転がっていたバイク車両を起き上がらせた。即座に跨がる彼女に続くようにアイシスの背後へとしがみつく正宗。猩猩達が追撃すべくアイシス達へと迫る。しかしその槍が投げられるより早く、パラディンソードを仕舞い込みエンジンをかけ、瞬く間にクラッチを繋ぎつつアクセルを捻り上げた。スキール音を上げさせアイシスと正宗の二人を乗せた車体を猛烈な勢いで加速させていく。強烈なトルクに前輪が浮き上がるのを強引に押さえ込み、飛来する槍を置き去りに二人を乗せた大型自動二輪が走り去る。その姿を追い、粉砕されたビル間を跳び、大地へ降りると疾走し追撃する姿勢を見せる無数の影達。


「しっかり掴まって舌を噛まぬようにっ!!ヘタに口を開けると舌を噛み千切りますよっ!!」


 アイシスは叫びつつ車体を左右に振り回す。直後その横を通り抜け、前方の方で路面へと突き刺さると爆裂する鉄槍。


「あの場では四方八方から狙われましたが、こうしてこちらが移動してやればっ!!」


 狩り場から高速で遠ざかろうとする標的、猩猩達は追うしかない。追いながら逃げる相手を狙い投擲を加えるともなれば至難を極める技術が要る。ともなれば数任せで飛来してくる鉄槍の雨。アイシスは気配で察知したかのように本来ならハイサイドでぶっ飛ぶ速度で強引に交差点を曲がり躱していく。


「!!」


 瞬間的にかかったGに正宗が吹き飛ばされそうになるが、いつの間に回したのかアイシスの手が正宗を掴んでおりなんとか耐えることが出来た。術式が仕込まれた猩猩達の槍はロケット弾のように着弾点を吹き飛ばし、幾本もがビルや車道へと突き刺さり爆裂して街並みを崩壊させていく。だがその景色を置き去りに、狭い日本の車道を尚も加速しながら走り去るアイシス達。遂にはその前を遮ろうと眼前に現界してくる猩猩も発生する。されど影から這い出てくるより早く、アイシスは車体前方に障壁を展開しアクセルをそのままに突撃する。


「邪魔ですよっ!!」


 障壁の直撃に強烈な衝撃を受け、砕け散るのは猩猩だったものの姿。アイシスは車体を暴れさせる事もなく進み続ける。しかし超高速でぶん回される正宗としては堪った物ではない。吹き飛ばされぬよう無我夢中でアイシスへとしがみついていた。


「痛っ!!痛痛っ!!コラ正宗っ!!肉を掴むな肉をっ!!」


 アイシスの怒声を無視して渾身の力で腹の肉を掴み上げている。道路状況は良くはないと言っていい、なにせ走行中のまま時間停止している車両等が障害物となっているのだ。それをスラロームのように限界ギリギリで走り抜けいく。


「まじかよっ!!」


 正宗の叫びの先には信号待ちで車線が車両で埋まった光景。アイシスは驚きを表すこともなく即座に前輪下に障壁を展開させ即席のジャンプ台を造り上げた。そしてそのまま中央分離帯を飛び越え車体をスライドさせながら着地、戻ったグリップにモノを言わせ反対車線を再び強烈な速度で突き進む。飛び交う槍と支障上の群れを引き連れつつ、レッドゾーンギリギリの速度で郊外へと向かうルートを辿る。交通量が少なく障害物としての車両がなくなった道路へ入れば一気に速度を上げ、引き連れていた猩猩達を一瞬引き剥がした。猩猩達はなんとしても仕留めるべく、そこら中から集まり猛追してきている。それは生者を追う、蜘蛛の糸に群がる亡者のよう。


「ここですっ!!」


 猩猩達はアイシス達へと追いすがり、ある程度纏まって姿を見せていた……見せてしまった。それてアイシスの想定通り。その瞬間を見逃さず、猛烈なスピードからのブレーキングアクセルターンを決め大型二輪の車体を一瞬で急反転させる。そしてアイシスは何時の間に抜いたのか、その手の中のパラディンソードの切っ先を追いすがってくる猩猩達へと向けた。パラディンソードに術式が紡がれ紋様と化し、展開された術式に猛烈な聖力が注がれ紫電が放たれる。急激に発生したその耀きを眼に、危機を感知した猩猩達が足を止め即座に退避行動に移る──が、遅い。


「ラブリーフラッシュッ!!」


 極光が先頭の猩猩もろとも群れの奥まで貫き駆け抜けていく。そしてその莫大なエネルギー波を受け、猩猩達は宙を舞い陣形は崩壊した。その間にアイシスは次射の砲弾を装填する。切っ先をそのままに、再び強烈な閃光を撃ち放つ。


「ラブリーシューティングスターッ!!」


 再度放たれた閃光は流星雨と成り空を舞い、地表を駆け逃げる猩猩達目掛け飛翔する。鋭角に飛ぶソレは瞬く間に猩猩達を穿ち、忽ちにしてそこら中に爆裂の華が咲いた。戦果を確認することもなくアクセルターンで方向転回すると、再び車速を上げていくアイシス。暫くそのまま走るが、追ってくる影はない……いや、一体迫って来ている。その一体はそのまま速度を上げるとアイシス達の横へと並び付けた。四つ足で駆けてきたのは灼熱の獅子王、レオライガー。


「どうやら追撃は無さそうレオ、流石は筆頭夢聖士というところレオね」

「貴方もですレオライガー。所詮眷属程度の群れでは夢生獣である貴方の足止めすら敵わなかったようですね」


 アイシスの言葉に笑うレオライガー。


「されど無念にも無駄な時間を取ってしまったレオ。今回はこの辺りで引き下がるレオよ」

「ええ。次までにご同胞へはしっかりと釘を刺しておく事です」

「言葉もないレオ。それではその時まで勝負は預けておくレオよっ!!」


 そう言うと、速度を上げたレオライガーの姿は霞へと化して消えていった。逆に速度を落とし、アイドリング状態でそれを見送ったアイシス。


「……ん??という事は世界を元に戻すのは私の仕事なのですか??」

「……そりゃそうだろ。それに置いてきたケーキは回収したい」


 それもそうか、とアイシスは再び方向転換すると来た道を戻っていく。


(今までは、他の夢生獣が現界している時は不干渉であった筈なのに……コンゴリも形振り構っていられない、という事なのでしょうか??これからは十分注意しなければなりませんね。今、正宗を失ったら私達は完全に勝機を欠く)


 他の夢生獣による横槍、今までになかったものだけに改めて気を引き締めるアイシス。コンゴリのその行動にエルマから渡された夢生獣の資料を思い出す。


(策謀を好む夢生獣ですか……厄介ですね)


 まるで人間のように、裏を掻き隙を突こうとするコンゴリのやり方に警戒を強める。今までの夢生獣達が誇りや信念を大事にする武人タイプであるとすれば、コンゴリは間逆な策略家タイプなのであろう。一番最後に厄介なタイプが残ったことに舌打ちするアイシス。いや、厄介なタイプだからこそ最後まで残ったのであろうか。


「なあおいアイシスッ!!それよりこの糞妖精は大丈夫なのか!?」

「ん??ああ、重傷であるのは違いありませんが、縫って繋げてやればその内回復しますよ」

「そういうもんなのか、凄いな糞妖精」

「実にしぶといとも言います」


 アイシスの心からの感想に、違いないと笑う正宗。


「しかし収穫はありました。あの様子であればレオライガーは正面切っての決闘を望んでいるようです」

「裏を返せば力に自信があるってことだぞ??楽観視するなよ」

「相変わらず正宗は屁理屈こねますね……。それよりも問題はコンゴリの行動の方です。漁夫の利を狙ってくるかもしれない、要注意です」


 幾ら強力とはいえアルヴァジオンの根幹は正宗である。詰まる所戦闘経験に乏しく、それを埋める為にいつも必要以上の力を引き出しているのだ。強引な力技で切り抜けてはいるが、その消耗度合いも右肩上がりとなっているのは確かなのだ。仮にレオライガーに勝てたとして、その消耗しているところをコンゴリに狙われては話にならない。そしてポッコルを狙いアイシスの力を発揮させなかった点、即ち正宗個人を狙ってくる可能性が高まったと言う事だ。


「何か対策を用意しておかねば、帰ったらエルマ達と相談ですね」

「世間はクリスマスだってのに、世知辛いなぁ」


 溜息をつく正宗。こんな世界の終わりかの瀬戸際だというのに、相変わらず緊張感がかけているというか……、


(まぁ、実際の所は事が大きすぎて実感できていないのでしょうが)


 もうかれこれ9ヶ月近い付き合いなのだ、性格も知ったものである。だが、それはそれで構わないと彼女は思う。もうすぐこの夢生獣達を含めた一件には片がつく。果たしてその時彼がどうするのか、その後アイシス達とどうなるのかは定かではない。


(でも、その時でも結局ドタバタしているのでしょうね)


 そんな自分達の姿が想像できて笑いがこみ上げてきてしまう。


「なんだ??急に笑い始めて、なんか笑うツボあったか??」

「なんでもありません。兎に角さっさと帰ってクリスマスパーティーです。こっちの世界は寒くてかなわないんですから」


 真冬の夜の下をバイクでかっ飛ばせば背筋も凍る。アイシス達はバイク用の防風に優れた素材の衣服を身につけているわけではないのだ。しかし、そんな寒空の下、時間の止まった街中を二人っきりで疾走するのもまた乙なものであるなとアイシスは思いふけるのだ。そうすることで自然に笑みがこぼれてしまうのであった。

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