龍獅子相搏つ6
「待て!!待ってくれテッちゃんっ!!」
近藤が胸を押さえ搾り出すように言う。蹲る近藤に寄り添う正宗。
「どうしたんだよ近藤っ!!しっかりしろっ!!胸か??AEDいるか??」
しかし、近藤の動悸は治まらず呼吸も荒い。
「違う、違うんだよテッちゃん。近ちゃんと僕が言いたい事はそういうことじゃないんだっ!!」
その横で涙しているハカセも口を押さえながら全身を痙攣させていた。
「何がだっ!!もっと解るように説明してくれっ!!」
二人の顔を交互に見る正宗。だが、当の二人のダメージは想像以上のようであり、その場から動けないでいる。
「どうしたんです正宗??彼等は情緒不安定のようですが??」
その二人を覗き込むように、アイシスが怪訝な顔を向けた。
(アンタだよっ!!アンタのせいだよっ!!)
(ホントどういうことだよっ!!なんで野郎だけで盛り上がる悲しみのクリスマスに女連れてきてんだっ!!)
二人の心の声は正宗達には届かない。
「そ、その、アイシスさんはどうしてテッちゃんと一緒に??」
「あー、ちょっとしたこっちの都合でついて来る事になってな」
「はい。正宗と離れるわけにはいかないですから」
近藤の問いかけに答えた二人。特にアイシスのその回答にハカセも膝から崩れ落ちた。
「どうしたハカセッ!!」
「何か悪い病気、流行病ですかね??一度医者に行ったほうが良いかと??」
「そ……そうだね、君り言う通りだ。悪いけどそうさせて頂くよ」
心配する正宗とアイシスの言葉にフラフラと立ち上がるハカセ。顔色も悪く足元などはボディの効いたボクサーのようにガクガクしている。
「そうだな、そうだよなっ!?俺が送ってやる。悪いなテッちゃん、これは……これは二人で食ってくれよ
っ!!」
近藤が手にしていた箱を正宗へと押し付けると、ハカセに肩を貸し歩き始めた。
「お……おいっ!!今日のパーティーはどうするんだよっ!!」
「そんなの…………そんなの中止にきまってるだろおおおおっ!!」
「テッちゃんの裏切り者おおおっ!!」
戸惑う正宗を余所に近藤とハカセは走り去っていってしまった。
「やはり面識のあまり無い私がついて来たのがよくなかったのでしょうか??」
「そんなことで遠慮する二人じゃないと思うんだが……」
手の中に残された箱は赤色に飾られて、所々にクリスマスツリーとサンタの絵が散りばめられている。どうみてもクリスマスパーティー用のケーキであった。
「体調不良じゃ仕方が無い、か。そうだアイシス、ついでに買い物してってコイツは家で皆とご馳走になろう」
箱を眺めながら言うと、中のケーキに興奮気味に頷きで返すアイシス。確かに今までは軍資金の関係上ケーキやスイーツなんて滅多に食えなかったわけだが、そこまで食い意地を張らなくとも良い気がする。
(……??いや、そうでなくとも別段常日頃からケーキを食う習慣なんてなかったか)
正宗自体スイーツや甘味が嫌いなわけではないが、もともと普段からケーキなんて買って食っていたわけではない。思えばケーキを食うときなんて誕生日とクリスマス以外あまりなかったと正宗は妄想にふけっている。だからこそ、アイシスが目の前で立ち止まるまでその状況を理解できなかった。アイシスの背中に軽くぶつかり意識と視線を戻す正宗。顔を上げれば、アイシスが厳しい表情で繁華街の奥を見つめていた。
「どうした??」
「──敵です」
アイシスの鋭い一言に緊張する。二人の先には街灯が一つ、闇夜を裂く様に光を燈している。その光の中に、ゆっくりと現れるのは筋骨隆々の灼熱の雄獅子。橙色の鬣をたなびかせ、オーラのように赤い蒸気を纏い歩み来る。感じるのは圧、そして熱気っ!!
「じんぐるべーる、じんぐるべーるっ!!我がお前達に敗北というプレゼントを持ってきたレオッ!!」
カップル渦巻く街の中、ライオンのきぐるみを着たような奇怪な物体に絡まれる。しかし、辺り一体のカップル達は何事かと視線を向け、何かのイベントが開始されたのかと興味津々となっている。
(ちょーとっ!!これ物凄く困る状況なんだけどっ!?)
(私にふらないで下さいよっ!!ああああああマジどうしましょう正宗!?ううう……周りからの視線がイタイ!!)
渦中にある正宗とアイシスは堪った物ではない。まるでさらし者にされている気分であった。
「んん??言葉が通じておらぬのか??じんぐるべーるじんぐるべーるっ!!レオライガーが闘争と敗北のプレゼントを送り届けに来たレオ!!」
筋肉ムキムキのきぐるみモドキが小首を傾げながら、かわいらしい雰囲気をかもし出すポーズで寄って来る。それに伴い、何かが始まるのだろう!?と周囲の興味と期待が一層掻き立てられていく。時はクリスマス、特殊なサプライズイベントが起こってもおかしくない特別な日なのだっ!!人はそのサプライズという言葉に弱い。なにせ自分が……自分達だけが“特別”な何かにめぐり合い、体感できるのだと勘違いしてしまうからだ!!
(正宗、正宗っ!!貴方夢生獣とは仲良く話せるじゃないですか!!何とか交渉してくませんかっ!!)
(俺がっ!?アレとっ!?無茶苦茶言うよなお前っ!!)
先程までとはうって変わり、正宗の後ろに回り彼を押し出すように突き出してくるアイシス。戸惑いながらも正宗はレオライガーに歩み寄ると、
「えーと、レオライガー、だっけ??」
「いかにもレオ」
「なんか戦いがプレゼントだとかなんとか言ってたけど??」
「その通り、その通りレオッ!!レオライガーは正々堂々、コレにて決着をつける為、あえてこちらの現実空間で勝負を挑みに来たレオッ!!」
そうして拳を魅せるレオライガー。バスケットボール程はあろう大きく固く握り締められた拳骨。無骨で鍛えられ、磨き上げられたかのような塊感満載のソレは、確かに得も言われぬ不思議な魅力を醸し出している。ニヒルなライオンヘッドに力強い拳と筋肉、アメリカンヒーローの姿そのものであった。
「いやいやそりゃ困るよー。こっちだとリアルに被害がでちゃうだろ??そんな事されたら逆に俺等萎縮しちゃってまともに戦えないじゃないか」
「っ!!……そうレオか。うーん、向こうだと我等側に優位に働いてしまうと思ったレオからこっちにしたんだが……少々浅はかだったレオ。この通り謝罪するレオ」
きっちりと頭を下げてくるレオライガー。こうまで筋を通してくるのなら悪い気はしない。その光景を顔を青くして眺めているアイシス。
「……正宗、日常会話のように夢生獣と話をまとめれるとは……やはり貴方は夢生獣と通じているのでは……」
なにやら不穏な言葉をブツブツ言っているが今はそれどころではない。
「いや謝罪はいい、こっちの事情に疎いことは十分知ってるから。それより目立つ方が困る、とりあえずアッチ側にするかそれとも場所を移してにするか、どうする??」
「んんんー、そうレオねぇ……お主達がアチラの方が全力を出せるというのであれば、アチラにした方が良さそうレオねっ!!」
言うが早い、レオライガーはその咆哮を世界へと響かせた。周囲の者達は突然の猛獣の大咆哮に仰天し、その耳を覆おうとし……その姿のまま動かなくなっていった。ノイズと耳奥に響く耳障りな音、歯車達が夜空に浮かび上がればその回転は緩慢となり、直ぐにその時を止めていく。
「さぁっ!!さあさあいざやいざっ!!ご要望通りに因夢空間へと移行したレオッ!!これで文句は無いでレオッ!!」
レオライガーがガハハと笑いながら顔を見せてきたのだが、正宗は蹲ってしまっている。
「……どうしたレオ??」
「で、でかい声で吠えるなら予め言ってくれっ!!……鼓膜が破れるかと思った」
「……すまんレオ」
しゅんとするレオライガーを見て、正宗はポンポンと腕を叩いて慰めてやった。
「次からは気をつけてくれよ」
「っ!!勿論レオッ!!」
正宗が突き出した拳にレオライガーもコツンと拳をぶつける。そうして距離を取ると、アイシスの裏へと回った。
「と、言うことで後は宜しく」
「ちょっと待てっ!!なんというか正宗、貴様夢生獣共と仲が良さ過ぎないかっ!?白状しなさいっ!!貴方どこかで夢生獣と繋がっているんですよねっ!!」
「お前こそ何言ってるんだっ!!第一言葉が通じるんだから意思疎通できるに決まっているだろ!?」
「納得がいかない……なんだか納得がいかない……」
ぶつぶつ言いながら一歩前に出るアイシス。それを見てレオライガーも構え直す。その顔は、アイシスという強者を前にして喜びに満ちているようである。犬歯をむき出しに、口角を上げるレオライガー。
「我はレオライガーッ!!夢生獣にして輝ける一匹の戦士レオッ!!」
その挑戦的な瞳と闘気に当てられたか、アイシスもパラディンソードを空間から抜き放ち高らかに声を上げた。
「私はユメミールが夢聖士アイシス=ニール=ダイキスッ!!夢生獣レオライガー、僭越ながら討たさせて頂く!!」
「その息やよしっ!!されば変身するレオ」
「なんと!?」
「堂々、正面より貴様達を打ち破ってこそ、その勝利に価値はあるレオッ!!」
アイシスに聖法衣の装着を促すレオライガー。圧倒的な自信、そしてそれを裏付けるであろう強烈な存在感。正しく百獣の王、威風堂々たる王の姿がそこに在る。そこまでされては生粋の聖士であるアイシスが引く筈がない。
「ならばそうさせてもらいましょうっ!!ポッコル」
「呼ばれて飛び出て、ポッコ──」
アイシスの手に煙と共に妖精が召喚される。しかしポッコルが限界した、その瞬間であった。
「あ──」
正宗の間の抜けた声が聞こえる中、目に映るのは驚愕に溢れるアイシスの表情。その視界の隅から現れた姿は、あまりに早すぎて正宗には認識できてはいない。ただ、何か塊がポッコル目掛け……そして正宗自身目掛け飛来したとだけ、その目には映し出していた。
「正宗っ!!」
アイシスの悲痛な叫び声が聞こえる。無理も無い、虚を突かれた彼女はソレに全く反応できていなかった。その飛翔体が激突し爆裂させる衝撃波に体制を崩し、爆心地に居た者の安否を確かめるため……燃え広がる炎の中にかの者の姿を必死で探すアイシス。明らかな騙まし討ち、正面からぶつかり合いたいのだと言っておきながらの狼藉。
「レオライガーッ!!貴様謀っ……」
「──やれやれ、これはいったいどういうことレオ??」
アイシスの怒声は炎と煙の中から現れたその姿にかき消された。そこにはムキムキの腕の中に匿われ、無傷でいる正宗の姿。
「あぶなかったレオね、無事レオか正宗??」
「ああ、レオライガーのおかげでなっ!!まったくいい筋肉しているぜっ!!お前の腕の中なら安心だっ!!」
「そう褒められては照れるレオ、暫らくそのままでいるレオよ正宗っ!!」
「……」
言われた通り腕の中で大人しく座っている正宗、そして颯爽と雄々しく立ち上がるレオライガー。その姿を見てアイシスが憮然とした表情をしているのは何故だろうか??しかし、距離を置き彼等の周囲を嗅ぎ廻る影の群れへと視線を向ける。同じく視線を向けているレオライガーだが、そこには怒気が含まれていた。
「コンゴリめっ!!崇高な戦士の決闘にケチを付けるとは、恥を知るレオ!!」
「猿??いや、猩猩ってヤツかっ!!」
「コンゴリの刺客レオ。正宗に脅威を覚え、我との闘いの間に虚を突いて討つべく暗躍したレオね」
正宗を護りつつ唸り上げるレオライガー。建物の影を飛び回るその姿はオランウータンにも似た赤毛の人の姿を執る化生。ソレ等が無数に、再びビル間を飛び移るように移動しながら手中の物を投擲する。
「っ!!」
レオライガーの爪に阻まれて、鋭利な槍が粉々に粉砕される。矛先には金属で錬成された鋭い刃、明らかに野生動物が使う得物ではない。
「おのれっ!!武人同士の決闘を邪魔立てするだけでなく、我の誇りにまでも泥を塗るレオかっ!!」
激高し吠え渡るレオライガーは正宗を置いて飛び出して行った。




