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顕現っ!!アルヴァジオンッ!!  作者: 当世杞憂
龍獅子相搏つ
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龍獅子相搏つ4

「うん、いい出来ですね」


 クロノが味見をした小皿を置く。彼の前にはグツグツと煮立つ鍋が置かれている。


「完成です」


 そう言って火を止め十分に煮込んだ鍋を持ってくる。正宗達が囲む机の上に置かれれば、クロノがさっさとそれをとりわけ配膳する。各自が協力しながら手渡された器を並べ、そして机の上に広がった食事に息を飲む。


「おお……おおお……っ!!」


 彩り豊かな食欲を誘うその光景に涙しているのはアイシス。鉄家の夕食は、いままでとは一閃を画したように華やかとなっていた。具材の料、そしてなんと言っても肉、肉、肉。スポンサーから資金供給された事がでたことがでかい。


「いままでは切り詰めた上に切り詰めてたからな、今日の鍋は肉もたっぷり入ってるぞ」


 正宗の言葉にアイシスだけでない顔ぶれが興奮した顔を向けた。そして食事に感謝すると、一斉にがっつき始めた。それを見ている忠典は苦笑せざるを得ない。


「仕送りだけでは足りなくて、かなり食費を切り詰めてらっしゃったとか、流石にそんな話しを聞いては……ね。実際命がけの戦いのさなか、空腹で力がでなかったら困るでしょう??」


 忠典も箸を進めながら言う。今後はどうあっても夢生獣の起こす“何か”に息子と彼女達は巻き込まれる。その最中、まさにいざというその時に、空腹であることは忍ばれるだろう……そう忠典は考えたのだ。せめて、せめて最低限のパフォーマンスを発揮できる環境程度は整えてやりたい、という息子への親心だった。助けを求める先もなく、闘う術も持たず、そこからハズされてしまう忠典にできる精一杯の援助であった。食事は体調管理の要の一つ、そこを疎かにはできない。しかし一世帯丸々増えたかのような消費量の拡大である。それだけの資金を新たに捻出するともなれば、経済的には結構な負担となるのは明らかだ。その事にエルマは素直に忠典に頭を下げ感謝を述べた。


「このご恩ー、事態の解決時には当家のご協力に対して是非とも報いたいと考えておりますー」

「金のインゴット100トン位は当たり前と考えて頂ければと思いますわ」

「トトト、トンッ!!」


 エルマとフラウニの話しに目を白黒させる忠典。そして彼女等が提示した数量も、その程度であれば全く問題なく支払われるであろうと推測した物である。ユメミールはこの世界とは別世界なのだから通貨や価値などは流石に共通ではない。つまりは忠典たちにユメミール通貨で報奨金を支払っても意味はない。その上この世界は絶界であり、他の異世界とも交流はない世界なのだから両替も出来ないだろう。ユメミールとの交流はなく、為替による円での支払いもできない。だからこそ、こちらの世界でも価値のある物を……と考えた上での提示であった。


「世界一つを救うのに多大な貢献をして頂いたのですもの、その位は当然、寧ろ安過ぎる程ですわ」

「ちなみに100は最低ラインの話です。場合によっては、200、300になるそうです」


 アイシスの発言にそんなの持ってこられても置き場と換金方法に困ると考えて顔を引きつらせる忠典。いやそれよりも、対面で他人事のようにすまし顔でお茶を飲んでいる正宗を見やる。報酬は確かに大事だ、しかし──、


「うん……まぁ、そんな事より無事に帰ってきて欲しい。ただそれだけなんだがね」


 忠典は視線を落としつつ言う。けれども、それに関してだけはアイシス達は確かなことは言えなかった。息の詰まるような空気が張り詰めるが、当の正宗はそんな事気にしていない様子で箸を進めている。


「夢生獣はあとたった二体、……二体だけなんだ。きっとなんとかなるって」

「正宗は楽観的過ぎます。……ですが、そういう気構えでいないといけないのも確かですね」


 気負いすぎていてもどうしようもない。正宗の楽観的発言に一応の同意を示しつつアイシスは箸を置き、再び器に鍋をよそった。人間には出来ることと出来ない事がある。その場その時に持てる全力を出し、諦めずに最善を尽くす……確かにそれこそが最善最良の方法なのかもしれない。


「兎に角、今はこの豪勢な夕食を楽しみましょう!!」


 クロノに即されて皆鍋を頂く。一つの鍋を大人数で食べるなど、大貴族のアイシスなどはこの世界に来た当初は渋い顔をしたものだが……いや、来た当初からひもじかったので、食べられるのであれば感謝感謝で食べていただろうか??兎も角、今では慣れたもので実に幸福そうな顔で箸を動かしている。


「うまいポッ!!クロノはなかなかやるポねっ!!」


 ぬいぐるみの癖に食事するポッコルの手放しの賞賛にクロノは笑顔で返した。マナ……聖力の関係から家からあまり離れられないクロノは必然的に家事全般をこなす事となった。今は睡眠学習でインストールされた知識を肉体で実体験する、そのことが楽しくて仕方が無いらしい。見た事もない食材や調理法に味、それらを実際にレシピ通り調理し、口にすることで自分の経験へと変えていく。知らない事に興味が尽きないといった様子で、どうやら十二分に異世界を満喫しているようである。


「さてー、食事しながらでいいのでご覧下さいー」


 そう言ってエルマは机の上に紋様の刻まれたコースターを置いた。その上をサッと手でなぞればコースター上の文字が光り紋様が蠢きだす。中空に映し出されたのは二体の奇怪な物体。


「こちらのー、筋肉質なボディービルダーの首だけを獅子に挿げ替えたみたいなのがレオライガー、そして直立歩行する背筋バッチリなゴリラの姿をしたのがコンゴリとなりますー」


 立体映像は正宗達にとっては既になれたものであるが、初の忠典は目を見張りながらそれを凝視していた。


「こんな……頭の悪い着ぐるみのような恰好した奴等がお前達の敵なのか??」

「そう思うだろ??これが残念ながらその通りだからこっちも救われないんだよ。それに実際は想像より数段デカいから威圧感だけは半端ねーんだぞ」


 忠典の問いに辟易とした表情で正宗は答える。姿形が冗談なような存在の為にどうしても緊張感が薄れてしまうのだ。


「格好は兎も角ー、残り体数が絞り込めた事でー、彼等の情報も集められましたー」


 そうしてエルマが指を鳴らせばレオライガーの立体像が拡大化する。クルクル周るサイドチェストのポーズをとったレオライガーの映像は実にシュールである。


「父さんこれ昔のヒーロー番組で似たの見た事あるぞ??たしか……なんとか丸とか言う名前だった気がする」

「似ていますが別物ですー。ただー、ヒーロー……という所は-、なかなかいい点を突いているようですねー。個体名、夢生獣レオライガー。誇りや矜持に重きを置く戦士的気質であると資料にはありますー」


 その解説を聞きながら正宗達は食い入るようにレオライガーの立体像を見つめていた。続いてエルマが横に手を振るとレオライガーは隅へと追いやられ、改めて拡大されるのは腕を組んで仁王立ちする立派なゴリラであった。ただ、その姿勢の良さはゴリラや猿が立っているのとは違い、脳を背骨で支えている……実に人間に近い、人間そのものといえる姿勢の良さである。


「こちらはー、個体名、夢生獣コンゴリ。レオライガーとは対照的に高い知能を使った戦い方をするそうですー。策や罠、武器を使用する……などー、どちらかといえばこちらの方が手を焼く感じがしますねー」

「成る程ですわ。百獣の王と森の賢者……つまり性質、性格が体を成していますのね」


 そのフラウニの言葉にエルマは頷く。


「このニ体はー、ユメミールが封印した夢生獣の中でも特に強力な二体……、力のレオライガーと知のコンゴリという具合な感じで要注意の二体という事でしたー。出来うるのであればー、この二体の力が弱体化している時にぶつかりたいと考えてはいたのですがー……」

「流石、というべきですね。自分達の力が完全に戻るまでただただジッと回復を待っていたわけです。言いかえればこの二体がいるからこそ、今までの夢生獣達は十全でない状態でも先走る必要があったわけですね」

「一番となるには彼等の力が戻ってからでは敵わない。ですからその前に行動を起こし、世界を手中にする事で自身の“格”を上げこの二体に対抗するつもりでしたのね。流石に新たな“格”と力を手にした者、それに連なる世界を相手取るには如何にこのニ体と言えど難しい……そういう事だったのですね??」


 アイシスとフラウニの指摘にエルマは頷いた。


「ですが残念ながらといいますかー、やはりこの二体が残る結果となりましたー。しかしながらわたし達がやることは変わりませんー。レオライガーの力を力で捻じ伏せてー、コンゴリの策を力で引き裂いて進むだけなのですー」

「実に脳筋な発言ですわね。しかしながら、それしか方法はないのですから何も言えませんわ」


 フラウニが皮肉って言うが、皆もそれしかないとわかっている。


「ただー、レオライガーは力で押しでー、コンゴリは狡猾に攻めて来るー。こう把握しているだけでもー、その場その場での判断材料、対処対応は決め易くなる筈ですので頭に入れて置いて下さいー」


 闘う際、選択時の基本方針が立てやすくなる……、確かにそれだけでもありがたい。戦闘中の相手の行動に、相手の思考に一部でも読める部分がある、これは非常に大きなことだ。一同がその理解を深めたことを確認すると、エルマは顔をクロノへと向けた。


「スポンサーの力添えもあり食糧問題が解決しー、アイちゃんは職場消滅りため労働から解放され自由の身となりましたー。そこでクロちゃんとフラちゃんには家の内の事をお願いしますー」


 クロノとフラウニが頷きで返す。つづいて視線をアイシスに向ける。


「ポッコルとアイちゃんはマー君の護衛として出来るだけ常に一緒にいるように行動してくださいー。マー君が授業中の場合、アイちゃんは学校周辺にいるようにー」


 エルマにやはり頷きで返すアイシス。


「わたしは各宝玉等整備メンテナンス等ー、後方支援を引き続き行っていきますー。今後はこういう分担で行きましょー、アイちゃん達には別途夢生獣の詳細な記録データをお渡ししますー」


 エルマに了承を返すアイシスとフラウニ。その時上がった挙手に視線を向け、手を向ける動作で発言を促すエルマ。


「その、罠とかそういうのを敷設しておくのは無理なんですかね??少しでも戦いが有利となるならそれにこした事はないでしょうし……」


 聴き専していた忠典が遠慮がちに口にした。


(以前似たような事して失敗してんだよなー)


 正宗は夏の出来事を思いつつもエルマへと視線を向けた。


「中々難しい所ですねー。現状では相手の夢生獣が全盛期バリに復調しているとみるべきですからー、そうなりますとわたし達が張れる設置術式程度では足止めにもなりえないのですー。効果を期待するのであればー、やはり聖士が聖力を十分練り上げ注いだ攻撃となりますでしょうしー、そのレベルの設置術式となると大規模且つ長期間の時間を掛けての施工となりますー」

「費用対効果も未知数な上、そんな物を設置されている場所はお断り……と、夢生獣達に他県や他国に逃げ出されてしまう恐れもありますわ。残念ながら戦場を選ぶ権利は相変わらず向こう側ですもの。それに今は相手方も最大の障害としてこちらを注視しているでしょうし、夢生獣達に気づかれずにその規模の術式を設置することなど不可能ですわ」

「第一設置するにしても、励起させるにしても、肝心の聖力不足ポよね」


 素人が無駄な口出しをした、とガクリと頭垂れる忠典。


「こっちから夢生獣の潜伏場所を探り出すってのはどーなんだ??前は大っぴらに出来なかったから無理だって言ってたけど、こっちの居場所がバレた今ならやってみる価値はあるんじゃないのか??」

「それに関してはもうやってはみているんです。しかし正直、相手の痕跡が少な過ぎて難儀してる所です。無駄に聖力を使えないですし捜索は続けてはいきますが、先に見つけ出せるとは考えない方が無難ですね」


 続いたのは正宗の提案であるが、アイシス達は既に行動に出ていたようであった。しかしながら残りの夢生獣の数も少なく、それでいてかなり用心して隠れているため見つけ出すのは困難を極めるようであった。捜索活動は続けるつもりでいるが大まかな場所すらわからず、その上で世界のどこかに潜伏している隠れ家を探し出せというのは流石に無茶が過ぎる話のようだ。アイシス達は自身等が見つけ出す前に襲撃される可能性の方が高いと考えている。


「他に何かありますかー、……ではこの方針で頑張っていきましょー」


 エルマが締めながら食事も終了していった。

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