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外伝9・レイとジョシュア

 月日は流れるように進み、七年後。


「いよいよ今日ね。ジョシュアの団長昇進試験」

「うう~~ん…すごく複雑」

 朝、ベッドの中で女王であるサラからそんな言葉を掛けられ、隣で寝ていたレイは仰向けのまま両手で顔を覆い、唸った。


「ふふ、パパの顔になっているわよ?今日は団長モードでいなきゃいけないんじゃないの?」

 サラから覆っている手の甲をつんつん、とつつかれ、レイは情けない顔を見せながらその手を解いた。結婚して二十五年は経つというのに未だにそんな情けない顔にすらきゅんてくるとかどうかしてるわ、とサラは自嘲気味に思う。最近はレイの顔にも渋みが出てきてますますイケてるおじさんになってきたわ…と。


「だって~~。ジョシュアが団長になったら婚約認めなきゃいけないじゃない…」

「リーネとハイネで娘がほかの男のモノになるのには慣れているでしょう??」


 第二王女と第三王女のリーネ・ハイネは双子の姉妹だ。二人ともすでに結婚し、国内の然るべき貴族から婿を迎え入れて同じ敷地内の離宮に住んでいる。誠実で信頼できる男性をサラが婿として選んだだけあって二人ともかなり夫婦仲は良好だ。

 ブリタニカでは基本的に王女は他国へ嫁がない。女王制の為、当代に何かがあった時に備えるためだ。もちろん望めば他国へ行くこともできるが、リーネもハイネもおうち大好きっ子だったため他国に行くなど考えもしなかったのだ。


 基本的には長子の結婚が先なのだが、そこまで厳しくはない。アナがなぜ婚約をしないのか民や貴族からは疑問の声も上がっていたが、「諸事情により、相応しい相手を見極めている途中である。しかるべき時に知ることになるだろう」ともっともらしくサラが説明したおかげで、あまり深くは突っ込まれなかった。


「だってー…」

 ごねるレイにサラはくすくす笑ってしまう。レイの気持ちも分かる。初めての子どもであるアナをレイはそれはそれは溺愛に溺愛したのだ。もちろん他の四人の子どもにも同じように愛情をかけてきた。

 でも初めての子ども、というのはそれだけで他の子よりも余裕がない分構い倒した感がすごい。

 やはり、手塩に掛けた娘が他の男性に取られる気がするのは否めないのだろう。でも、そんなの今更である。


 ブリタニカ王国交渉団団長の立場は、指名、立候補どちらでも狙うことが出来る。七年以上在籍し、尚且つ隊長格以上であれば団長試験に立候補する機会が年に二回与えられている。団長が直々に指名する場合も条件は同じく七年以上在籍の隊長格以上だ。

 だが、団長が直々に指名しても、相手が了承しないと団長職に就けさせることは出来ない。団長が死亡もしくはどうしても体力的に難しい場合であれば、指名された人間はそれに応じる義務があるが、それ以外の場合は断ることが出来る。

 マシューはすでに退団した。最近は副団長のセリナに何度も団長に就くよう打診していたのだが、


「娘を賭けた父親と幼馴染の対決だなんてそんな創造意欲駆り立てる展開を死んでも見届けなければなりませんので死んでも断固固辞します」


 とどんだけ死ぬんやと訳の分からない文言でずっと断られていたのだ。


「ジョシュアのことをすでに認めているあなたが婚約させてあげないといけないことで悩んでるわけじゃないでしょう??」

 サラがレイに言い、レイは渋々うん、と頷く。

「だってさぁ…ジョシュアは息子みたいなもんなんだよ。そんな子と団長の座を競い合いたくないし、かといって国のことを思うと絶対に手を抜いちゃいけないし、かといってジョシュアは『絶対に指名しないでね、レイさん。ぼくは実力であなたを抜いて見せる』とか気概は褒められたものなんだけどさぁぁぁ~~~もし俺がジョシュアより優秀点取っちゃったらアナから絶対白い目で見られるし!もうーーーーセリナの馬鹿ーーー!!」


 どうにかして団長の座をセリナに渡し、ジョシュアと直接競うのを回避したかったのだ。セリナはとんだとばっちりである。

 だが、団長として冷静に見ても、今この団に属する者の中で団長にふさわしいほどの実力を持っているのはセリナとジョシュアだとレイはひいき目なしに考えている。


「言ってみればマリアさんとエルグラントさんのサラブレッドだもんなぁジョシュアは。…そりゃ優秀なはずだよ」

「ふふ、楽しみね。今日の試験」


 立候補はジョシュアと、ちょっと野心家の隊長の人間が三人くらい、だったか。とレイは思い出す。

 団長試験は、交渉術と人心掌握術のペーパー試験。護身術試験、そして最後に参加者同士によるトーナメントの心理戦がある。すべてにおいて団長であるレイモンドの点数を上回らなければ団長試験に合格し、団長になることはできない。

 

 レイはペーパー試験で満点以外を取ったことがない。ジョシュアも、定期的に行われる試験でもほぼ毎回満点だ。そこは互角。護身術も内容的にも人を攻撃するものではないから、そこも互角だろう。

 ――――問題は、心理戦だな。間違いなく俺とジョシュアの一騎打ちになるだろう。


「あぁぁぁ~~~やだなぁ~~~」

 また半泣きになりながらレイは苦笑している最愛の妻を抱き枕にしてぐりぐりと頭を押し付けるのだった。


――――――――


 試験はおおむねレイの予想通りに進んだ。

 まずペーパー試験は、レイとジョシュアのみ満点。この時点で他の人間は即座に落とされることになる。護身術に関しても、二人同時に合格点を叩き出した。


 そして、最後の心理戦。


 心理戦は毎年変わるのだが、今年はお互いカードを引き、自分が引いたカードに書いてある内容の言葉を相手に言わせたら勝ち、というものだった。相手に望む言葉を言わせたら即座にカードを提示する。先に提示できた方が当たり前だが勝者になる。


「ジョシュア、先に引いていいよ」

「失礼します、団長」

 レイの掛け声でジョシュアが机の上に複数並んでいる封筒を一枚手に取り、中身を確かめる。それに続いてレイも封筒を手に取り、中身を確かめた。


「言葉のみならず、この部屋にあるものだったらボードゲーム、お酒、食べ物、カードゲーム、どんなものを使っても構いません。それでは、―――開始してください」

 見届け人であるセリナの言葉により、いよいよ心理戦が始まった。

 

 この心理戦には女王であるサラ、第一王女であるアナ。宰相であるカール、宰相補佐であるヘイリー、歴代団長であるマリア、エルグラント。その他交渉団の隊長格以上の人間が観戦できることになっており、全員が二人のやり取りを見ている。

 そのプレッシャーもあっての心理戦なのだ。ちりちりと肌を焼くような緊張の中、いよいよ最後の試験が始まった。

心理戦うまく書けるかな…


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