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外伝6・サラとレイとジョシュア

 3人で向かい合って座ると、まずサラが口を開いた。

「ジョシュア、私は気付いているけれど、レイは知らないわ。もしよければあなたの口から話してほしいの」

 サラの言葉にジョシュアは静かに頷く。


「僕は、アナのことを愛してます」


 決意に満ちた、その言葉にレイの目がみるみる開かれる。

「それ…は、今までみたいな、幼馴染として好きとか…妹のように…とか、じゃないんだよね?」

「違います。ごめんね、サラさん、レイさん。あなたたちの大事な娘を僕は小さい頃からそういう目で見てきたんです。一朝一夕の想いじゃないんだ」


 にこやかに笑うジョシュアの目に、驚きに満ちたレイの顔とただ静かに見守るサラの顔が映る。


「本当に、多分2人がびっくりするくらい、そしてアナもびっくりするくらい、僕の愛情は深いんだと思う」

「でも、なにもアナから離れることは…」

「言ったでしょう?びっくりするくらい愛情が深いって。アナの傍で、アナが王婿となる人と愛を囁き合う姿を見られる自信はないんだ」


 ジョシュアは、ひっそりと笑う。

「交渉団という立場に属した以上、アナの傍でする任務も増えてくると思う。それはそれ、これはこれで割り切れる自信はある。でも、プライベートでこれ以上近寄っちゃだめだ。…どんどん、どんどん好きになってしまうから」

「…なんとか、ならないの?」

 サラの言葉にジョシュアはふっと笑った。


「サラさん、サラさん程聡ければ、どうあがいたって無理だってわかってるんでしょ?」

 ジョシュアの沈痛な言葉に今度はサラの瞳が伏せられる。事実だから。


「僕もね、簡単にあきらめたわけじゃないんだ」

「交渉団、団長になれば。そこまでの立場になれば…身分を言う人間はいなくなるよね…?」

 レイの言葉にもジョシュアは頷く。そんなの、何回でも何万回でもシュミレーションした。


「ありがとう、2人とも。それでも応援してくれようとする2人が大好きだよ。でもね」

 そこまで言ってジョシュアははぁ、と溜め息を吐いた。うっすらと笑っているのはもう諦めにも似た自嘲の笑いだった。


「今、アナは16歳。交渉団は団の規定で最短でも7年経過しなければ団長、副団長職に就くことは出来ない。レイさんが最短だもんね。そうなると、アナとの結婚を認められるのはうまくいって23歳。それでも、婚約期間は1年設けなければならない。そうなるとアナと結婚できるのは24歳。…遅すぎるんだよ」

 

 レイもサラも俯いて何も言えなくなる。

 そう、この国では女王の身を案じて、30歳以上の出産は禁止されている。出産を29歳のうちに終わらせなければならないとなると、単純に計算して28歳の時に最後の懐妊としなければならない。つまりは、4年の間に女児を生まなければならないのだ。


「僕が7年で団長になれる確証もない。4年の間にアナに赤ちゃん、しかも女児が産まれる確証もない。…すべてがうまくいけばいいけれど、それはすべて机上の空論だ。100%確約されたものじゃないから」

「でも、その可能性にかけてみることもできるんじゃないの?」

 レイの必死の言葉にジョシュアは首を横に振る。


「ねえ、サラさん?」

 ジョシュアの突然の問いかけにサラの肩がびくりと震える。ジョシュアが何を問おうとしているか、すぐに分かったからだ。


「アナは、僕をどういう目で見てる?」


 サラの顔色がどんどん悪くなるのをレイは見過ごさない。そして、ああ、そういうことか。と妙に納得してしまう。『それ』があれば、ジョシュアは頑張ったはずだ。どんな手を使ってでも、どんな努力をしてでも王婿の立場を得ようと努力したはずだから。それだけの能力はあるから。でも、逆を言えば『それ』が無ければ、どんな努力をしようが無駄なのだ。

 

「…完全に、兄としてしか…」


 アナからジョシュアに対しての恋愛感情。

 これが無ければ何をしたって無駄なのだ。

 ジョシュアだって馬鹿じゃない。アナがジョシュアを見るように、彼女だけを甘やかして、ときには優しい言葉をかけてきた。自分を好きになるようにずっとずっと仕向けてきた。だが、彼女がジョシュアをそれ以上として見ることはなかった。


 アナの方に恋愛感情がないのに、ジョシュアが王婿になる理由はない。ただ単に小さい頃から一緒に育ってきた仲のいい兄のような男性だというのは王婿の座につける理由にはならない。

 それで決めるくらいであれば、もっと身分の高い貴族から選べと反発が来るのは必至だ。


 だがアナからの惜しみない寵愛を受けていて、平民であったが王婿になるために努力を重ねてきて、功績を収め続けて誰にも認められるようになってから満を持して王婿になる、というのであればいくらでも国民を説得できるだろう。いくらでも臣下を説得できるだろう。むしろ民にとっては身分違いの愛として、かなりの好意を持って受け入れられるだろうし、支持を集めるという意味では最高のストーリーを作り出せるかもしれない。


 だがそもそもアナには恋愛感情がない。ジョシュアのことはただ単に本当に兄としか見ていないのだ。


 それをジョシュアも分かっているから、もう身を引くしか道はないのだ。


「…でしょう?結構かんばってきたんだけどな。あはは、伝わらなかったんだぁ」

 沈痛な面持ちを見せるアナの両親にジョシュアはあっけらかんと笑って見せる。


「ねえ、サラさん、レイさん。お願いがあるんだ」

 ジョシュアは、努めて明るく話しかける。サラもレイも、今にも泣きだしそうな顔でジョシュアの意見を受け止めようとする。


「もちろん結婚は政治的な意味合いを大きく持たせる必要があるってのはわかるよ。生半可な立場の人間を選べないってことも。…でも、だからこそ。アナを心から愛してくれる人を見つけてあげて欲しい。…僕より強くて、賢くて、僕以上にアナを愛してる人。いつでも彼女を笑わせてあげられる人。彼女が泣いている時には優しく抱きしめてあげて、大丈夫だよって言ってあげられる人」

 本当は、僕がその立場になりたかった。そうつぶやくジョシュアにレイもサラも何も返せない。


「…お願いします」


 ジョシュアはそう言って2人に深く深く頭を下げた。

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