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アレン三兄弟



俺の生家、アレン家は子爵位を持つ家だ……


「あ!ごめんなさいっ!ちょっと待って!」


語り始めたリックさんの声を遮って、

わたしはストップをかけた。


「リス?ど、どうかしたの?」


「……あの……」


は、恥ずかしい……


わたしはワルターにこそっと耳打ちした。


「……あぁなるほど……アレン、

 トイレはどこかな?」


代わりにワルターに聞いて貰っている間、

わたしは両手で顔を隠していた。

オ、オトメですからねっ……!


「あ、ゴメンね、気が利かなくて。

この部屋を出て右、廊下の突き当たりだよ」


「……お借りします………」


「どーぞどーぞ」


「リス、付いて行くよ」


「なんでっ!?」


「だって心配だし」


「要らないっ!」


ワルターの申し出を(はた)き落として

わたしは急いで部屋を出た。



◇ ◇ ◇



「お待たせしました」


「リス……大丈夫、だった?」


「もちろん」



「じゃあ、改めて、始めさせてもらうよ」




俺の生家、アレン家は子爵位を持つ家だ……


もっとも今は落ちぶれて、名ばかりの貴族だが。


俺は三兄弟の末っ子で、上に二人の兄がいた。


長兄のアイザックは俺より7つ年上だ。

魔力量が高く、最も高度とされる変身魔術の

使い手だ。


次兄のジャックは3つ上。

頭が良く、幼少期に積み木よりも先に

術式を組み立てたという逸話を持つほどの

天才術式師なのだ。


そして魔力量も少なく、幼い頃から剣を振る事しか出来ない脳筋男の俺。

まぁ魔術学校で転移魔法の取得は出来たが。


アレン家は俺たち三兄弟と、

働き者で優しい母親との四人で構成されていた。


父親?


あぁ……いたな、そんな奴。


ウチに居たメイドと駆け落ちして出てったきり、

生きているのか死んでいるのかもわからん奴が。


子爵位は長兄のアイザックが継いだから

なんの問題もなかった。


貧乏なのはもともとだったし、

貴族だからと踏ん反り返っているわけにもいかず、

俺たち家族は色んな仕事をしながら皆で力を

合わせて生きてきた。


剣を振るうしか能がなかった俺をいずれは

魔術学校に入学させるために、母親も兄達も

懸命に働いて金を貯めてくれていた。


貴族らしい生活は何一つしていないが

明るく前向きな母の下、俺たちはいつもみんなで笑って楽しく暮らしていた。



でも来年にはいよいよ魔術学校に

入学するという時、母が病に倒れた。


自分の持つ魔力が体内で異常変質し

それが自らの体を蝕んでいき、やがては死に至るという特殊な病だった。


特効薬も治療法も対処療法もなく、

俺たち兄弟はただ、日に日に弱っていく母を見守る事しか出来なかった。


どうして母さんなんだ。


どうしてウチの母親がこんな目に

遭わなければならない。


ずっと働き尽くめで苦労ばかりしてきた人だ。


俺たち兄弟で、早く楽な暮らしをさせてやろうなと

言っていたばかりなのに。


どうして……


どうして。




そんな中、次兄であるジャックが言った。


禁術とされる魔術に近い術式を組み立てたと。


王立図書館で禁術についての本を読み漁り、

そこからヒントを得て、自分なりの理論で術式を

構築して完成させたというのだ。


その魔術の名は 『時間氷結魔法』


術を掛けた人間の

時の流れを遅らせるという魔術だ。


術を掛けるとその者は眠り続けるが、

その事により時が止まったように時間の流れが

他者よりも遅くなるものらしい。


その魔術を母に掛け、

時間を完全とはいかなくても遅らせている間に

次兄のジャックが病を治す薬を作る術式を構築させる。

これしかない、俺たち兄弟はその方法に

一縷の望みを賭けた。



だがその魔術には膨大な魔力が必要だった。


俺たち三人の魔力を合わせ全部出し切っても

足りない程の魔力を要したのだ。


どうする?



……足りないのであれば補えばいい。



しかし魔力の売買は禁止されている。


そんなものはクソ喰らえだ。


犯罪とわかっていても、

その手段を取る事に躊躇いはなかった。


それだけ俺たちにとって母の命は大切だった。


変身魔術に長けたアイザックが

銀行や質屋などでいかにも金に困っていそうな

魔力保有者を見つけ、売買の話を持ちかける。

魔力を買い付ける金の元手はジャックが構築した

術式を売った金だ。


禁術紛いの術式は、

陰で悪事を働く奴らに高く売れた。


その金で魔力を買う。


犯罪行為に躊躇う客も、多額の札束を見せれば

大人しく言う事聞いた。


一度魔力を売ってしまえばそいつも共犯者だ。


皆、怖がって口を噤む。

好都合だった。


魔法省に捕縛された客も多かったが、

変身魔術で多数の人間に化けていたアイザックの

足取りを掴むのは容易ではない。


アイザックのお遊びで

ファーストコンタクトは必ず背の高い女にする、

という謎の拘りには呆れたが。


そうやって買った魔力を

母さんに掛ける『時間氷結魔法』に全て注ぎ込む。


術式を売り、金を稼ぎ、魔力を買い、魔術を掛ける。


そのループを延々と繰り返した。


魔術学校に入った俺は

学校に通ってる奴らに裏で術式の売り込みをした。


魔術学校に通ってる奴らは大概が金持ち貴族の

馬鹿ガキ共だ。


普通では手に入らないような術式を

チラつかせると、目の色を変えて飛びつく。


滑稽だった。


いいカモで、いい金蔓だった。


そんな中、一人の女子生徒に声をかけられた。


「秘密裏に魔術を売っているのはあなた?

わたし、誰にも跳ね返せないような強力な術式を

探しているの。お金ならいくら払ってもいいわ」と、その女子生徒は言った。


女子生徒の名はマリオン=コナー。


そいつが求めた術式は『魅了』、


禁術の中でも最も禁忌とされる魔術だ。


魅了か……マジかこいつ、ヤバくないか?


しかしいくら払っても良いというのは捨て難い。


俺は次兄のジャックに相談した。


ジャックの話では術式は用意できるが、

より強力なものとなると術者の体の一部を

魔力の糧としなければならないらしいのだ。


俺はその事をマリオンに告げた。


彼女が出した答えは……


二つある臓器の一部を差し出しても良いと。


なんて悍ましい奴だ。


吐き気がしたが、悪事に手を染めている俺が

マリオンの事を蔑むのはおかしな話だと

思い直した。


そうして大金と引き換えに

マリオン=コナーに魅了魔術を渡した。


その後どうなったかは、皆も知るところだろう。



騎士団に入ってから知り合った魔法省の女が

俺にご執心でな。


その女を通して、魔力継承や魔法税滞納者の

リストを手に入れる事が出来てからは

より魔力の買い付けが捗った。


その女はオールドミスだが、

案外可愛いところもあるんだ。


こんな俺でいいと言うのだから

まぁいいかと逢瀬には付き合ってる。


誰なのかは自分で考えるんだな。



母か?


母はまだ『時間氷結魔法』で眠ったままだ。


薬の術式の構築がなかなか進まず、

まだ病を治せてはいない。


あ、そうそう。


そろそろ頃合いだから言っておくが、


この家にもう母はいない。


母だけでなく兄達もだ。



本当はワルターの婚約者を人質に取って、

交渉の真似事でもして時間を稼ごうと

思ったんだけど、ストーカーワルターが

付いて来ちゃったからな。


おまけに閣下まで押し寄せて来るし。


こうなったら作戦変更で昔語りをして

時間稼ぎに切り替えたわけ。



え?今頃気づいた?


はははっ!


俺らがこうやって話をしている間に

兄貴たちはとっくにトンズラしてるって事。


次兄の組み立てた転移魔法でな。


俺はどうなってもいいよ。


俺の家族が無事に逃げ(おお)せるならね。


俺はいなくても平気だけど、


母さんを生き長らえさせるのに

長兄と次兄の能力は絶対に必要だからね。


俺を拷問して吐かせようとしても無駄だよ。


家族のためなら殺されても絶対に吐かない。


なんなら試してみるか?




ん?なんだよ?なんでそんな憐れむような顔を

するんだよ。



は?


三人はもう捕らえてある……?


は?ウソだろ?


そんなの不可能だ。どうせハッタリだろ?



………なぁ、ウソだろ?





「嘘じゃない」



ワルター?お前、何言ってるんだ?



「嘘じゃないよアレン。

お前の家族は国境付近で捕縛された。

お前も観念して、大人しく罪を償うんだ」



そんなはずはない。


そんなの不可能だ。


どうやって転移先を知れるんだ。


ホラ、やっぱりウソなんだろ?



「………アレン」



………ウソだ。




「ウソだっ!!」





















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