ストーカーじゃないの!
公園の中心の噴水の所で愛の告白を受けたわたし。
その返事をキスで返し、ワルターを泣かせてしまった。
ワルターが泣くのを初めて見たわ。
こんなに静かに涙を流して泣くのね。
ぽろぽろ、ぽろぽろと、キレイな涙がとめどなく溢れる。
わたしはハンカチで押さえて拭いてあげるけど、ちょっ……キリがないわね。
「ワルター、泣きすぎっ」
「だって……嬉しくて……」
「もう……しょうがない人ね……って、あっ!」
わたしがいきなり大声を上げたものだからワルターは驚いて、その拍子に涙が止まったようだった。
「ワルター、大変だわ」
「な、なに!?」
「まさかこんな事になるなんて思わなかったから、わたし、半年後に長期出張を受けて、しばらく王都を離れる事になってるの」
「半年後に?なんでまた……」
「だって、ワルターもこの再婚約をある程度したら辞退するつもりなんだろうなぁと思っていたから」
「そ、そんな事を思ってたんだね……」
「だって王命だから仕方ないみたいな言い方したから」
「ご、ごめん……、出張の期間は?」
「4ヶ月から半年の間かなぁ。仕事の進捗状況によると思うけど」
「もちろん待つよ」
「待つの?」
「当たり前だよ、半年でも一年でも、俺はいつまでも待つよ」
「……ワルター……」
あ、甘い……甘いわ。
今日は塩味シリスで通したけど、だめだ、もはや砂糖漬けシリスになってしまった……。
恥ずかしいやら嬉しいやらだけどやっぱり恥ずかしいやらで、わたしの頭の中はもう大変な事になったけど、それでもちゃんとお腹は空くようでわたし達は当初の目的のお店に食べに行く事にした。
ここは以前ワルターと行ったお店とは別の、わたしのもう一つの行きつけのお店だ。
ここのマスターの作るオムレツがもう絶品で、仕事が大変だった日には必ずここのオムレツを
自分へのご褒美として食べていた。
マスターに挨拶して、空いてる席に座る。
……わたしは少し気になっていた事があったので、それを確かめてみる事にした。
「ワルター、わたしちょっとトイレに行きたいから、いつもの料理を注文しといてくれる?」
わたしのそのお願いにワルターは快く頷いてくれた。
「わかった、注文しとくよ」
「……お願いね」
トイレから戻ると丁度食前酒が来た。
「………」
そして料理が次々と届く。
どれもわたしがこの店に来たら必ず注文する
メニューばかりだ。
「……ワルター」
「なに?」
わたしは笑顔を貼り付けて尋ねた。
「この店には初めて一緒に来たのに、どうしてわたしの定番メニューを知ってるの?」
「えっ」
ワルターがあからさまにしまった、という顔をする。
「ねぇ?どうして?」
「…………」
「ワルター……?」
「ごめんなさい」
両手をテーブルに付けて頭を下げながら、ワルターが謝ってきた。
そこからはもう、ワルターの独白フェスティバル。
再会するまでの己の行動を全て白状した。
婚約破棄になり、もうわたしとの関係は断たれたと知ったワルターはそれでも忘れられなかったらしく、わたしの朝の出勤時の道すがら、そして仕事を終えて玄関を入って鍵を閉めるまでの全てを見守っていたというのだ。
わたしが仕事をしている間は自分も騎士として働き、わたしの帰宅時間になると夜番の時でも夕食休憩と称して抜け出して必ず見守っていたらしい。
「……ワルター……」
「な、何?」
「あなた、どこに住んでいるの?」
「うっ……」
うっ?うって何?
やっぱり、わたしの頭を過った事は当たっているというの?
とりあえず食事を終え、わたしはワルターの家へと連れて行って貰った。
「……………………………ここ?」
「うん………」
「このアパートに間違いはないのね?」
「はい……」
「何階?」
「2階、です……」
「何号室?」
「………」
黙り込むワルターに、わたしは極上のスマイルを向ける。
「ワルター?」
「………です」
「なに?聞こえない」
「208号室です」
「わたしの真下の部屋じゃないのっ!!」
わたしは淑女にあるまじき、
ワルターの胸ぐらを掴んで捻りあげた。
「ご、ごめんっ……!でも真下だったらリスに何かあっても物音ですぐにわかると思って……!」
「これはホントに呆れたわっ!これってもはやストーカーじゃないのっ!あなたじゃなかったら自警団に通報ものだからねっ!!」
「ごめんなさいっ!ホントにごめんなさいっ!」
まさか再会する前からこんなに近くに居たとは……。
しかもずっと見張られ……見守られていたなんて……。
でもこれが惚れた弱みというものなのね……呆れはしても怒りはない……。
逆にそうまでしてもわたしの事を想ってくれたと少しだけ喜びまで感じてしまう有り様……。
いけない、こんな腑抜けた状態は断じていけない。
今日はどっぷり砂糖に浸かってしまったわたしは、
明日の朝のカフェオレには砂糖は入れないでおこうと心に決めたのであった……。
そんな大変な1日が明けた次の日の事だ。
その日、わたしは休みで有言実行といわんばかりに砂糖抜きのカフェオレを飲んでいたその時、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい……い?」
誰が来たのかドアの覗き窓から確認すると、そこにはボリスを連れ立ったブライズ子爵家の家令、アーチーの姿があった。
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紆余曲折を経てやっと想いが通じあった
二人ですが、
次回から物理的な
すれ違いになってしまうそうな……。




