公園の中心の真ん中の所で愛を叫ぶ ②
ワルターの謝罪を受け入れ、再婚約を辞退しようと告げたわたし。
きっとワルターも本当はそれを望んでいると
思っての事なのに、彼を見ると何やら様子が変だった。
真っ青な顔色で絶句している。
“絶望”を感じている人間はこういう顔をするんだな、と思ってしまうような表情だ。
だけどわたしには彼がなぜこんな顔をするのかがわからない。
「ワ、ワルター……?」
ワルターは小さく震えながら言った。
「リ…リスは、この婚約を辞めたい……の?」
「え?それはワルターでしょ?」
わたしのその言葉を聞き、ワルターはガバッと立ち上がった。
「俺が!?なぜっ!?」
「だってジョージおじ様が最初に婚約を決める時もワルターは本当は仕方なく、だったんでしょう?」
「えぇ!?なんで!?どうしてそう思ったの!?」
「だって……婚約者をワルターかボリスかどちらがなるか、ジャンケンで決めたって……それで負けたボリスが嫌がったから仕方なくワルターがわたしとの婚約を引き受けたって聞いたものっ……」
「ジャンケン!?聞いたって誰にっ?」
「……ボリスに……」
「ボッ……!?」
そう言ってワルターは膝から崩れ落ちた。
え、えぇぇっ!?何事っ!?
「あ、あいつ……まさかそんな出鱈目をっ」
「……出鱈目?」
出鱈目ってどういう事?
ステフも怪しいって言っていたけど、真相はそうではなかったの?
わたしがどういう事かワルターに問い質そうとしたその時、急にワルターが起き上がってベンチに座るわたしの目の前で跪いた。
「ボリスがそんな出鱈目を言った理由は……多分、俺の所為だと思う……きっと俺への腹いせに、そんな事を言ったんだろう」
「ワルターの所為?どういう事?」
「あの時、確かに父さんに二人でよく話し合って決めて欲しいと言われた。でも俺は、話し合いをする間も与えずにボリスに言ったんだ。シリスと婚約するのは俺だって。ボリスは勝手に決められて腹が立ったんだろうな。なかなか引き下がってくれなかったよ。でも俺もどうしても諦めるつもりはなかったから、じゃあ勝負して決めようと……」
「勝負ってジャンケン?」
「まさか!……剣で……」
「そんなのボリスがあなたに勝てるわけないじゃないっ!」
「わかってるよ!自分でも年長者としてどうなのかなんて……でもそうでもしないと、白黒ハッキリさせないと、ボリスは諦めてくれなさそうだったから……あいつ、かなり意固地になってたし……。でもどうしてもリスの婚約者の座を誰にも譲りたくなかった。もしフレディ兄さんも対象だったなら、同じように完膚なきまでに打ち負かしていたと思う……」
「あ、あ……呆れたわ……」
「うっ……」
ちょっと待って、それじゃあまるでワルターがわたしとの婚約を自ら望んだみたいな言い方じゃない。
こんな、こんな都合のいい解釈をして痛い目を見るのはイヤよ?
「……ワルター……一つだけ聞くわね?だから、この際だから、正直に答えて」
「わかった……」
わたしの心臓がかつてないほど暴れている。
速く鼓動を打ちすぎて、胸を突き破って出て来てしまうのではないかと思うほどに。
わたしは深呼吸をした。
ここでハッキリさせないと、これからの事なんて決められない。
お互いの人生がかかってるのよ、傷つくのが
怖いからって日和ってる場合じゃないわ。
「ワルター」
「はい」
「あなた、わたしの事がす、す、す…、す、す…好きなのっ!?」
言った!言ってしまった!
勘違いだったらどうしよう、今の話だけでそう思いたいだけのイタイ女だったらどうしよう……!
内心震えながら、わたしはワルターのほうをチラリと見ると、ワルターがまた突然凄い勢いで立ち上がった。
「好きなんてものじゃない……」
「え!?ゴメン、やっぱり違った!?」
「好きなんて言葉だけじゃ足りないんだ!」
「……へ?」
「大好きだっ、いや愛してるっ……俺はずっと、ずっとシリスだけを愛してきたんだっ!」
「えっ!?えぇぇっ!?」
自分で聞いといてなんだと思うけど、わたしは驚き過ぎて思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。
そんなわたしを真剣に見つめながらワルターは続けた。
「いつから好きだったかはわからない。最初は面白い子だなぁとしか思ってなかった。でもいつの間にかリスの事で頭がいっぱいになっていて……もうずっと昔からリスに片想いをしてるんだ。父さんが言い出した時から今回の再婚約まで、無理やり婚約者にさせられたのはリスの方だよ。どちらも断れない状況だったのに……でもごめん、俺からはどうしてもリスを手放してやれない。どちらの時も卑怯だとは思ったけど、それほどまでしてもリスが欲しいんだ……」
こ、これは……現実?
今起こっている事は、ワルターが言った言葉は
現実のものなの?
目、目がチカチカするっ……
「リス、リスもここで答えて欲しい、リスがどうしても俺との結婚を考えられないなら…あ、諦める……。陰ながらリスの幸せを見守るよ。でももし、もし、少しでも俺との将来を考えていいと思えるなら、もう一度だけチャンスを与えて欲しいんだっ……」
この目……ワルターのこの目を、わたしは何度か見た事がある。
剣術の稽古で初めて真剣を持たされたとき。
お爺さまである先先代のブライス子爵から魔力を継承されたとき。
そして今。
彼が本当に真剣な時に見せる目だ。
ワルターのこの目がわたしの迷いなんか一瞬で
払拭してしまう。
参った……本当に参った。
断る理由が見つからない。
わたし自身の答えなんて、疾うの昔から決まってる。
こんなにややこしくなって拗れてしまったけど、本当ならもっと早くに話し合えて解決していた問題だったのにね。
わたし達は随分遠回りをしたもんだ。
でも、わたし達の人生はこれからだ。
少しくらい寄り道しても、ちゃんと二人の道が繋がっていたのならそこから手を携えて歩き出してもいいのかもね。
わたしは立ち上がり、ワルターを見つめた。
真剣な眼差しの中にも捨てられる寸前の子犬の
ような気配を感じる。
思わず吹き出してしまう。
仕方ないなぁ……。
わたしはワルターの首に手を回し、彼の頭を下げさせた。
そしてそっと彼の唇に口づける。
優しく、触れるだけのキスを2回。
気恥ずかしくて堪らなかったけど顔を離して見つめ直すと、ワルターの顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。
「ぷっ」




