授業
ちゃんと間に合ったので褒めてください。
それにしてもこの店はいつ見ても怖い。だが猫丸は全く怖がらない動物が安心する特殊な匂いでも出ているのだろうか。動物部屋に連れて行くと仲良さそうに遊んでいるのだ、喧嘩とか起きそうだがこれまで一回も起きたことがないらしい。
まぁ喧嘩もなにも起きていないなら大丈夫だろうと思い、店に預ける。
「そういえば名前教えてなかったわね。眠子間よ、よろしく」
「斎藤です」
「はい、じゃあ預かっておくわね♪」
「よろしくおねがいします」
猫丸を眠子間さんに預け、俺は大学に向かう。大学の門まで着くと、丁度エマがリムジンに乗って登校してきた。黒服にドアを開けて出てくる様は漫画だな…あいつの風貌にはいつも驚かされる。
「相変わらず、凄い登場してくるわね…」
「大手会社の社長の娘なのよね、なんでこの大学なのかしら」
など会話をしている人たちの横を通り、エマに挨拶をする。
「よ、おはよう」
「愁様、ごきげんよう」
「毎日あの車で来てるの?」
「さようでごさいます、正直歩きで来たいですわね、私がいいと言っても『お父上様の命令ですので』の一点張り…もううんざりですわ」
ため息をつきながら話すエマ。
「私はもっと俊隆様のように、普通で…自由に生きてみたいですわ」
お嬢様特有の悩みなのか、それともエマ自身の悩みなのか俺にはわからないがたまたま大手の会社に産まれて
生き方を制限されるのはどれほど悔しいのか、俺にはそれが少しわかる気がする。
…たしかに俊隆は自由だよなぁ。初対面の人と話ができないレベルの人見知りだけど。ん?話ができないレベルの人見知りで自由?
「だからこそ、私は愁様と俊隆様と一緒にいるのが、今の心の支えですわ」
「おお、それはありがたい」
俺たちでいいのかという思いもあるが、心の支えになっているのならできる限り一緒にいてやりたいな。それでエマが楽しいのなら。
数時間後…
にしても、バイトの後は疲れる。
「もう十一時半か…」
預けてるとはいえ、さすがに時間が空いてるからな…少し心配だ。そんなわけで…眠子間さんの店の前に来たが、相変わらずどんな遊園地でもやらなそうな外見の店だ。本気で生活費とか気になってきたな。
「こんばんはーって…えぇっ!?」
店を開けると眠子間さんが猫丸含め動物たちに授業をしていた。訳がわからない状況に変な声が出てしまった。
「な…何してるんですか…!」
「あら、びっくりさせちゃったかしら?今この子たちと授業してるの」
「授業…?」
「日本語の授業よ♪」
「は?」
なんか異常ですか?みたいな顔してこっちを見ないでほしい、何言ってるんだこの人は。やっぱり俺はヤバい人に預けてしまっていたのか…?いやいや、俺の心眼は狂っていないはずだ。
「毎日夜に日本語の授業しているのよ♪」
「へぇ…そうなんですね…」
ありえない状況に俺は苦笑いしかできなかった。だがよく見ると、人間みたく椅子に座ってはいないが、猫丸もみんな授業を普通に並んで聞いているのだ。
「普通に授業を聞いてるんですね」
「そうよー、猫丸ちゃん、初めてなのに偉いねー」
学校かよ。
「まず、動物が日本語理解できるんですか?」
海外からみても、日本語はかなり難しい言語。それを動物が理解できるのか?俺も英語はかなり怪しいぞ。
「心を通じ合わせれば、言葉の壁なんて無いのよ」
たしかにそうかもしれない。種族や言葉の壁、それを気にしているのはもしかすると人間だけなのかもしれないな。つまり心を通じ合わせられれば、どんな言葉も理解ができる…ということか…?
「ということで、今日の授業はここまで!ありがとうございました!」
眠子間さんがそう言うと、動物たちが一斉に鳴いた。動物たちが鳴いたのもびっくりだが猫丸も一緒に鳴いたからだ。ダイヤモンドといる時にしか聞いたことない鳴き声だったぞ。
「マジかよ…」
その後、猫丸と一緒に帰っている最中もずっと授業のことが気になっていた。
「なぁ、猫丸」
そう問いかけても、猫丸は反応しない。ただ月を眺めながら歩くだけ…俺と猫丸はまだ心が通じ合っていないのだろうか。
「猫丸、俺とお前で話してみたいことがたくさんあるんだーこれからはたくさんお話ししような、猫と人、言葉は通じなくとも、心を通じ合わせられればもっと…仲良くなれると思ってさ」
通じてなくてもいいや、これは俺のただの独り言。未来でそうなっていたらいいなという俺の理想だ。
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エマの屋敷行きたい。