残酷
まーただよ、まーた遅れちまったよ。
「昨日はよく寝れた?」
「あんな高級そうなベットだったら嫌でも寝れちゃうわよねぇ…」
でも安心はできなかった。
小間は違うベットで寝てるし
いつも隣で寝ていた愁がいなくなるだけで
こんなに寂しくなるとは思わなかった。
それほどあたしは愁が好きみたい。
「朝ごはん作るわね」
小間がキッチンにいる隙にちょっと探索しちゃえ。
「ここはどこなのかしら」
ブラインドを上げ、外を眺めてみると
見覚えのある住宅街だった。
愁と歩いた記憶があるからそこまで遠くないのかもしれない。
わざわざブラインドを下げ刑事ドラマのように
隙間に指を入れカッコつけていたら
できたと声が聞こえたのでバレないように
席に戻った。
「どうしたの?」
「なんでもぉ」
下手な口笛を吹いた
そういえば愁も下手だったな。
「はい、フレンチトースト」
「なにこれ」
「あら、食べたことないの?」
「見たこともないわね。
愁は和食っていうの?をよく出すし
外も愁と歩く以外出ないし」
「そんなに愁って人と仲が良いの?」
「仲が良いというか…
一緒にいると安心するし、心が躍るの
だからずっと一緒にいたい。
あんたは嫌いなの?」
「そうね…親でもないのに
親みたいな顔をしているのが嫌い。
あなたの母親は私なんだから」
へぇ、愁を嫌いになる人なんているんだ
あんなに誰からも好かれる人なんて
いないと思ってた。
「さ、冷めちゃうわよ、美味しいから食べて!
早朝から漬けていたの」
「うん、美味しいと思う」
「良かった、頑張って作った甲斐があったわ」
正直愁が作った料理の方が美味しい。
あぁ…イワシ食べたいなぁ
たまに出るベーコンエッグとかも美味しかったなぁ。
「食べたなら、昨日の続きをするけど大丈夫?」
「えぇ、特に嫌なことはないわよ」
「じゃあ始めるわよ」
そして、昨日と同じようにあたしの目に
手を振りかざし、あたしの意識は遠ざかっていった。
「どう?見えてる?」
「はいはい、今起きた。
変な男に連れ去られてるわね」
あれはなんなのかしら
密売者っていうやつ?
なんでもいいけど、悪人なのよね
自分の父は殺されてるわけだし。
「運べ」
「はい」
男が渡すと部下のような男が
あたしを狭いケースにしまって
トランクに放り投げた。
「なんて扱い方するのよ全く
一応レディなのに」
「奴らにはそんなこと関係ないと思うわよ」
「で、あたしはこれからどうなるわけ?」
「見ていけばわかるわよ」
着いた場所は工場、中で市場のようなことが
開催されていた。
「ははーん、ここであたしは売られたってわけね」
「ははーんって…あなた本当に大変な目に
あったのよ?」
「大変な目にあったのはわかってる。
ここを見たら少しは思い出したわよ
でもずっと引きずっていたって良くないでしょ?」
「まぁ、見ていきなさい
少し思い出しただけで
全ては思い出せてはいないのだから」
市場の隅に動物コーナーのような場所がある
あたしはまたそこに放り投げられた。
そこには怪我をしたうさぎ、指が7本ある犬。
いろんなものを抱えた子たちが
怯えながら中に入っていた。
食事もまともに与えてもらえない
糞便の処理も何もかも。
死んでしまった子はすぐに燃やされ捨てられる。
そこに数ヶ月入れられて、死ぬ寸前だった
全身が震え、痛い、苦しい、辛い、悲しい。
いろんな感情があったけど
1番強かったのは、『暗い』だった。
明かりは付いているはずなのに
目で見えていても、心では何も見えなかった。
そして、あたしに飼い主が現れた。
その時は少しだけ晴れたような気がしたけど
そんなことはなかった。
飼われてされたことは
SNSに上げる動画用の芸の練習。
それをやらせるために
殴る蹴るの暴行をたくさん受けた。
市場で売られている時よりもずっと辛かった。
そして暗かった、抵抗もなにもできない
人間には勝てないから。
「今見ると、人間って時に惨いわねぇ
この時のことは思い出したわ。
この飼い主以外にもいろんなところを
転々としていったわねぇ」
「辛かったらまた違う日にするけど」
「続けて、あたしは見る」
これは自分を認めるための試練だと思う。
あたしは愁のことが好き、だから
自分を認めないと、ずっと一緒に暮らすことだってできなくなる。
ここまで読んでくださりありがとございます。
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人間、怖いね。