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第7話「それいけ!パンゴーレム」

【前回までのあらすじ】

・タイトル回収①

「おい、てめぇらッ!!殺されたくなかったら金を置いていきなッ!!」



「誰ですか?お金ならありませんけど」



──旅に出て2時間。男たちは、盗賊に出会った。



 旅立ちの日は、いやというほど快晴だった。男・エルフのプリン・ショタの3人は、『本当のホットドッグ』なるモノを求め、旧式のオンボロ馬車で街道を爆走していた。



 一行が向かうは、街から100キロメートル以上離れた山の麓にある『パン工場』であった。大魔道士とその娘が営むと言われるその工場で作られるパンは、まさに絶品であると称され、白パン一斤で10万Gを超える値段で取引される超高級品。男の目的は、そのパンを手に入れることであった。



──男の考える『本当のホットドッグ』。それはつまり、超一流のパン、ソーセージ、酢漬け野菜(ピクルス)、ソースを使った『めちゃくちゃ旨いホットドッグ』である。



 出発前に男は次のように言った。「高級食材を使えば高級料理に決まってんだろ」まるで5歳児のように柔軟な思考回路から(はじ)き出された“答え”。これこそ、(バカ)が思い至った、味王でも満足させうる『品のある食べ物』であった。



 しかし、男は平民。高級食材と呼ばれるモノを口にしたことがなく、それ故に今の男の想像力では、生成できるホットドッグの品質にも限界があった。しかし、高級食材をショタに食べさせることができれば、その舌が読み取ったレシピを見ることで、『本当のホットドッグ』のイメージはさらに鮮明で現実的なものになり、男は異能で『本当のホットドッグ』を無限生成できるようになる。これこそ、この旅の真の目的であった──



 さて、その道中で馬車は運悪く盗賊に襲われてしまったのであった。街道とは言っても、街や集落から離れれば、それだけ治安も悪くなり、盗賊やモンスターと鉢合わせてしまうことは決して珍しいことではない。だからこそ旅をする場合は、腕に自信のある剣士や傭兵、冒険者ギルドの日雇いアルバイトを護衛に付けるのが常識なのだが、今回は男が金をケチった為に護衛は居なかった。



「金がねぇなら荷物を置いていきやがれッ!逆らうと殺すぞ!」ボロキレのような黒い外套に身を包んだ盗賊はナイフをむき出しにして男を威嚇すると、声を荒らげた。



「チッ、うっせぇな。金も荷物も無ぇよ。さっさとどけよ。轢き殺すぞ」



「嘘つくんじゃねぇ!馬車()いといて荷物がねぇわけあるか!」



「大体、なんでお前に金やら荷物やら差し出さなきゃいけねぇんだよ。お前は俺の何なんだよ」



 怒鳴る盗賊に怯むこと無く、適当にあしらう男。見上げた胆力(たんりょく)である。しかし、同乗者は男ほど強い精神力は持っていなかった。プリンは恐怖で震えるショタを抱きしめながら声を大にする。「店長、何挑発してんスか!?盗賊でスよ!?ここはお金渡して見逃してもらいましょうよ!」



「あァ?盗賊より風俗の方がよっぽど怖ぇよ。一晩で何万G(むし)られると思ってんだ」



「知らんが」



 だが、彼女の警告も男には馬耳東風。彼は馬車から盗賊を見下ろして嘲るように言った。「っつーことで、分かったかクソ盗賊。お前に渡す金なんざ1Gも無ぇんだよ。失せろカス」



 盗賊のこめかみに青筋が走る。「ふ ざ け やがって、この野郎……」そして次の瞬間、彼は馬上の男に飛びかかった。「てめぇに盗賊の怖ろしさッ!味わわせてやるよッ!」ナイフが男の首を狙う。プリンとショタの悲鳴が響く。だが、男は全く動じずに盗賊の瞳の奥をじっと見据える──自分がこんなところで死ぬわけがない。根拠はないが、彼はそう信じているのだ──そして、実にその通り。男の肌に刃が立つことは無かった。



「パンパァーンチッ!!」突如、遠い空の向こうから屈強な男が飛んできて、盗賊を殴り飛ばしたのだ。「がぁぁっ」痛々しい悲鳴を漏らし、派手に地面に転がる盗賊。しかし、男の追撃は止まらない!



「パン火炎魔法(フレイム)ッ!!」その詠唱とともに、盗賊の身体は勢いよく発火!燃え盛る業火に焼かれ、瞬く間に彼の血肉は灰燼に帰した!



「対象ノ消失ヲ確認!悪、掃討完了!!」彼は高らかにそう宣言すると、キビキビとした動きで馬車に近寄ると、丁寧に頭を下げた。「旅人ノ皆様。オ怪我ハアリマセンデシタカ?」それは、機械音にも似た妙な声だった。



「いや、おかげさまで怪我はねぇけど……」男は、灰になった盗賊と眼下の謎の男を交互に見ながら訊ねた。「何も殺すことは無いんじゃねぇの?」



「何ヲ仰ル。“彼”、アナタヲ殺ソウトシタ。当然ノ報イ。ソレニ……“彼”ハコノ程度デ死ニマセン」灰を横目に見たその男は、一瞬だけ苦虫を噛み潰したような顔をしたが、すぐに元の無表情に戻った。「名乗ルノガ遅レマシタネ……私、『パンゴーレム』言イマス。大魔道士『邪無(じゃむ)』様ニヨリ生ミ出サレタ、ゴーレムデス」



 まさか。謎の男の正体はゴーレムだった。確かによく目を凝らしてみると、その体は固いパンで出来ている。「なるほど、さっきから香ばしい匂いがしてるのはそれか」男は鼻をヒクヒクと動かす。こんがりと焼き上がった小麦の甘い香り。沸き上がる食欲とともに、男はあることに気がついた。「ん?邪無(じゃむ)って……もしかして、『パン工場』の工場長か?」



「ヨクゴ存知。邪無様、曲ガッタ事ガ大嫌イ。ダカラ私、パン工場周リノパトロール任サレテル。アナタモ悪イ事ダメヨ?」



 パンゴーレムは真顔で口をカタカタ震わせて笑う。なんとも不自然な笑い方だが、男は気にする素振りも見せない。「この歳で灰になるのは嫌だな。なぁ、そのパン工場まで連れてってくれねぇか?」



「パン工場ニ?イイヨ、工場見学ナラ何時デモ大歓迎ヨ!」



「マジで!?」男は思わずガッツポーズをした。パン工場には何のツテも無かったので、男は工場長にアポ無し突撃を仕掛ける予定だった。しかし、この作戦は成功するとは限らない。最悪、事務所からパンを盗むことも視野に入れていたのだが、もはやそんな危険を(おか)す必要も無くなった。盗賊に襲われたのは不運かと思っていたが、まさかこんな幸運につながるとは。



「よしッ!お前ら、張り切ってパン工場に行くぞ!」嬉々として叫び、男は後ろを振り向いた。しかし彼の目に映ったのは、目を覆って怯えるショタと、彼を抱きしめてガタガタ震えるプリンの姿だった。



 プリンは叫んだ。



「そいつの存在が一番怖ぇんだよッ!!」

Tips13:『パンパンチ』──魔力を込めて放つ右ストレート。その威力は絶大であり、パンチの早さは音速を超える。また、パンパンチを放つと、摩擦熱により腕が焦げ、小麦のいい匂いがする。


Tips14:『パン火炎魔法』──大魔道士・邪無直伝の火炎魔法。灼熱の業火により、対象を焼き尽くす大技。魔法を放つ際、ほのかにパンの焼けるがする。


Tips15:灰と化した盗賊──パン工場の辺りを根城とする盗賊。パンゴーレムとは何か因縁があるようだが……。

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