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第16話「仙人は湖にいる」

【前回までのあらすじ】

ローションをフル活用した修行に悪戦苦闘する男(法名:法洞)。しかし、そんな彼の苦労をよそに、エルフのプリンとショタはリゾートホテルで優雅な暮らしを満喫しているのであった。


さて、今回からほんの少しの間は、むさ苦しい修行僧しか登場しない男サイドではなく、エルフとショタの方に焦点を当てるとしよう。

「ふぁ~よく寝た……」



朝、ふかふかのベッドの上で起きると何故か二の腕に疲労感。毛布をめくると、私の腕の中でショタが寝ていた。どうやら睡眠中、抱き枕代わりにしてしまったらしい。



「…………」



 かわいい。柔らかいほっぺ、さらさらのおぐし、静かな寝息。腕の疲労感がもう逆に心地いい。こんなかわいい男の子と出会えたことは『ホッドッ屋』で働くことにして唯一良かったと思える。あ、やっべぇよだれ垂れてた。



 このリゾートホテルに泊まり始めてから、もとい店長が修行僧になってから十数日。未だに店長は秘伝のソーセージのレシピを手に入れられていないらしい。時折、その日の修行が終わった後に店長が私達の下に訪ねてくることあるが、基本的に怕無というお坊さんへの愚痴を垂れるだけ垂れて帰る。修行で一体何を学んでいるのだろう、レシピが手に入るのは当分先になりそう。まぁ、私としてはその分この優雅な暮らしが続くので問題は皆無だけど。



 さて、できることならいつまでもショタを抱いていたいものだけど、そういう訳にもいかないので、名残惜しさを感じながらベッドから起き上がる。こんな惚けた顔をショタには見せられない。彼の前ではクールな大人のお姉さんで通っているのだ。



 さっさと顔を洗うと、寝起きの身体を引き締める為にベランダに出る。高原の朝の風は深い森と同じくらい冷えているが、エルフにとってはそれが心地いいのだ。宿泊しているのはリゾートホテルの最上階なので眺望きいており、宗聖寺のある連峰の雄大な景色が一望できるのもいい。



 ふと、眼下にある宗聖寺を見下ろしてみる。たくさんの僧が整然と並んで修行に励む中、境内の隅で全身テカテカに光った店長がリズムよく飛び跳ねていた



「何してんだアイツ」



 見たくないものを目に入れてしまった。ショタの寝顔でも拝んで口直ししよう。部屋に戻ろうと振り返った丁度その時、ジャージの裾がピンと張った。



「おはようプリン」



「あ、おはよ」



 服を引っ張ったのは寝起きのショタだった。ショタは目をこすりながらそう言うと、大きくあくびをした。はい、かわいい。くりくりのお目々かわいい。あくびで浮かんだ涙もかわいい。少し跳ねた寝癖がかわいい。つーか声がもうかわいい。やべぇ吐きそう。



「ちょっと外は寒いね」



「エルフはこれくらいが丁度いいんス。そうだ、起きたんなら朝ごはん取る?」



 内なる衝動を必死で抑えつつ提案する。このリゾートホテルでは、朝食は頼めば好きな時間に部屋に用意してくれる。パン中心の慣れ親しんだ大陸風のブレックファーストでも、米中心の東方的な御膳でもよい。しかしエルフとしては、やはり野菜が多い東方のご飯がありがたい。エルフが野菜好きなのは常識だ。



 自分としては、特に『粥』というお米をとろとろに煮込んだ料理がお気に入りだ。味は似ても似つかないが、どことなく故郷の母が作ってくれたポリッジを思い出す。野菜を塩水とスパイスで漬けた『泡菜』と一緒に食べるとなお美味しい。



「それとも朝風呂でも入る?」



「僕は卵とソーセージがいいな」



「…………」



 少し欲望が漏れてしまったことを反省しつつ給仕に朝食を頼む。ものの十分程でワンプレートとお粥の定食が運ばれてくる。流石リゾートホテル、素早い。



「まさか豆の乳がこんなに旨いとは……」



「このグリルソーセージも肉厚で美味しいよ!」



 ショタが小さなお口でソーセージを頬張る。ほほにパンくずなどが付いているのも、いとうつくし。これ半分ポルノだろ。



「この後どうしようね?」



 さて朝食後。ここはリゾートなので色んな遊びが楽しめる。温泉でゆっくり身体を癒やしてもいいし、スポーツで気持ちのいい汗を流すのもいい。ホテルは湖の畔にあるので、湖の周りの森を散策しても、砂浜で日光浴するのも良き。もしくはホテルの中のカジノでスリルを味わうのも一興。ちなみに宗聖寺の観光は二日で飽きた。



「釣り!近くの湖で美味しい魚が釣れるんだって!」



「ん、じゃあそうしよっか」



 ホテルの人に釣り竿とボートを借りていざ湖へ。道中、浜辺で大量のスライムにボコボコにされている店長を見た。何やってんだアイツ。気づかれると面倒なので、さっさとボートに乗って湖へ漕ぎ出す。



 数分も漕ぐと湖面はすぐに深い青色へと変わった。さて、ショタの好奇心を優先して一緒に釣りをしに来たものの、自分としては特別フィッシングに興味は無いので、基本はボートの漕ぎ手、あとは船上でのショタのかわいい顔を堪能することにした。



「店長も早く修行が終わるといいね」



 釣り糸を垂らしながら、なにとはなしにショタが言った。冗談ではない。こんな優雅な暮らしを早々手放してたまるか。



「そう?ウチとしては別に」



「僕そろそろホッドッが食べたくなってきたよ……ん?」



「どうかしたの?」



「引いてる!すごく重たい!もしかしたら龍魚かもしれない!」



 そう言うショタの竿はアーチのように曲がっていた。龍魚というのは、なんというかすごいでかい淡水魚だ。魚にはあまり詳しくないが、フライにすると美味しいらしい。しかし、龍魚は普通は網で獲る魚。こんな細い糸ではいつ切れてもおかしくないし、ショタの小さな体では逆に湖に引きずり込まれる恐れもある。



「手伝うよ!」



 ショタの後ろから身体を覆うようにして釣り竿を構えると、私の手が彼の手に少し触れた。え、柔。なにこの手、超すべすべもっちもち……ハンドクリームだって同じホテルのアメニティ使ってるのにどうしてこんな差がでるの?これが若さ?



「ありがとう!よし、『せーの』でいくよ!」



「……え、あ、うん!分かった!」



「「せーっのっ!」」



 気を取り直して、私達は渾身の力を込めて釣り竿を引っ張る。確かに重い。最近ホテルでだらけきった生活を送っていたので、なおさら重く感じる。



「んぬぐぐぐっ…………」ああ、それにしても真剣なショタの凛々し可愛い顔もいとおかし。おっといけない、今は龍魚に集中しなければ。ここで龍魚を逃せば、きっとショタは悲しむだろう。私は、そんなショタの顔など見たくはないッ……いや少しは興味あるけれど、涙目のショタ!!あ、ヤッベ鼻血ッ!!「ふんぬぁっ!!!」



 バシャア!!



 血の滲む激闘の末、遂に私達は重いソレ(・・)を釣り上げた!!大きな水しぶきを上げ、私達の前に姿を現したのは──



「ようこそ仙境・黄龍湖へ!我が名は道聖寧(タオ・ショウネイ)、この湖に住む仙人である!お主らを待っておったぞ!!」



「…………あン?」



──全身ずぶ濡れの仙人だった。唇真っ青。

Tips34:ショタコーン……通常種のユニコーンは処女が近くに居ると従順になるが、稀に幼い男児が近くに寄ることで大人しくなる個体が居る。そのような個体を地元ではこのように呼ぶ。だからなんだという話ではある。


Tips35:エルフは基本的に野菜が好きだけど、肉や魚も普通に食べる。ただし海鮮・生魚は食わず嫌いな者が多い。森に住む種族だからしょうがないね。


Tips36:仙人……修行して神に近い、もしくは同等の力を得た人間のことらしい。不老不死なんだって、すごいね。

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