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第15話「宗聖寺、ただいま修行中」



────『秘伝のソーセージ』のレシピを求めて宗聖寺を訪れたホッドッ屋一行。しかし、寺の都寺(つうす)怕無(はむ)の手によって、男は修行僧生活を余儀なくされてしまう。男がレシピを手に入れる為には、修行の成果を怕無に認められ、かつ彼の出す『問題』に答える必要があるという。



「修行なんて嫌だ!」そう泣き喚き、地団駄を踏み、土下座し、怕無に縋りついた結果、男は無事スキンヘッドムキムキモンクの群れの中に叩き込まれた。



「たしか、貴様は『ホッドッ』なる食べ物の職人らしいな」怕無はモンクの群れの中で怯えてうずくまる男をじっと見据える。



「ならば『問おう』……真の『ホッドッ』とは何だ?」彼はそれだけ言って、その場を後にした。



 こうして、波乱の修行僧生活が幕を開けたのであった────



 修行僧の朝は早い。日の昇る前から修行は始まっているのだ。



「宗聖寺流修行・その一!『夢幻王(ムゲンワン)夏溥(ナップ)』!左右の壁に反射し続ける亀の甲羅の上をタイミングよくジャンプして踏み続けよ!甲羅が割れるまで続けるのだ!」



「老師!何故亀の甲羅が地面を滑っているのですか!?」



「ローション撒いたからな」



夢幻王(ムゲンワン)夏溥(ナップ)』!!──古代東方大陸に存在したとされる幻の()王朝。その皇帝・夏溥(ナープー)が発明したと言われる修行法である。



 その極意は、ロクに踏ん張りも効かない不安定な甲羅の上でジャンプし続けることにより、強靭な足腰を鍛えるとともに、高い跳躍力・卓越したバランス感覚を身につけることにある。

 

 

 余談ではあるが、古代ではこの修業に用いた甲羅が割れた時に生じたヒビの具合により吉凶を占ったとも言われ、俗に言う『亀甲占い』はこれに由来する。




 さて、大抵は昼に差し掛かる頃に午前の修行は終わるが、修行僧に休息の時間は殆どない。ほぼ栄養補給に近い昼食を摂った後は、すぐにまた過酷な午後修行が始まるのだ!




「宗聖寺流修行・その二!『滅絶磨磊武(メタルスライム)』!修行場内を素早く駆け回るスライム100体を全て倒すのだ!!魔法や武器は使ってはならぬ!己の拳のみで攻略するのだ!」



「老師!スライムを殴っても表面が滑ってろくにダメージが入りません!」



「ローション塗ったからな」




滅絶磨磊武(メタルスライム)』!!──物理攻撃に強いスライムを、あえて拳のみで倒す修行法である!下手な物理攻撃は効かない上、すばしっこいスライムを打倒していくのは骨が折れるが、その分大量の経験値を手に入れられる。



 柔軟なスライムの身体を『滅』する程に鍛えられた剛力は、まさに『磨かれた石』であり、その身一つが『武』そのもの。故にこの名が付いたとされている。



 ちなみに、この修行で倒したスライムは、適切な治療を施した後、外界へ放たれる。だが、修行僧たちと戦ってきたスライムも、また多くの経験値を溜め込んでおり、経験値を稼ぎたい冒険者達に狙われることが多い。スライムの戦いは続く。



 そして、日が暮れる頃、最後にして最凶の修行が始まる!



「宗聖寺流修行・その三!『ローション百人組み手』!」



「お前さっきからローション使いたいだけじゃねぇか!!」



「法洞!ここでは老師(ろうし)と呼べと言っただろう!」



「うるせぇハゲ老師!そのピカピカ頭にローション塗りたくって、一層テッカテカにしてやろうか!?」



「喝ッ!口の減らぬ奴め!其の方ら、今宵も法洞をみっちり指導してやれ!」



「「「承知!」」」



『ローション百人組み手』!!──ぬるぬるローションに塗れた床の上で組み手を行う!最後まで立っていたものが勝者である!!



 以上!!



「法洞!一人も倒せないとはなにごとか!」



「いや、無理に決まってますって。だって修行はじめたの一昨日ですよ俺。スライムも倒せてないし……むしろ亀の甲羅の上でジャンプできたことを褒めて下さいよ」



「喝ッ!甘えたことを言うでない!法洞、今日の薬石(やくせき)は抜き!堂で座禅を組んでおれ!」



 怕無に罰として飯抜きで座禅を命じられた男。だが、彼が素直にそんな命令に従うはずもない。



「あぁ~だりぃ~~~俺も温泉入りてぇよ~~~くそ坊主がぁ~~~」



 人気のない寺の裏手で、生み出したホットドッグをぱくつきながら男は愚痴を垂れる。三日間の修行で、彼は何一つとして成長も矯正もしていなかった。



「ちくしょう、でも真面目に修行しねぇと、アイツもレシピを明かさないだろうしなぁ~~~めんどくせぇ~~~」



 だが、彼は未だ修行を諦めてはいない。元来あきらめの悪い性格というのもあるが、男はどうしても自分をこんな修行生活に陥れた怕無に吠え面をかかせてやりたかった。こんな時、いつもなら『ホッドッ』が全てを解決してくれた。

 

 

 しかし、今回は『ホッドッ』を生み出せるというだけの異能ではどうしようも無い事態。初めて男に訪れたピンチであった──なんとか『ホッドッ』を活用することはできないだろうか。

 

 

 男は掌の『ホッドッ』に目をやる。だが、齧りかけのそれは、なんとも答えてはくれなかった。



──こうして、修行の成果を認められることも無く、そもそも怕無の出した『問題』などには思いもよらないまま夜は更けていく。男の修行はまだまだ終わらないようだ。


Tips31:ここまで殆ど登場してないが、この世界にもモンスターや魔王や勇者は存在する。だからどうということはない。


Tips32:ローション組み手の勝者には夕食のプリンおかわり権が与えられる。


Tips33:薬石……坊主の夕飯。宗聖寺では肉も出る。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 毎回面白いです。 たぶんあれのパロディ…と思われるものが登場してきますが、それの背景がめちゃくちゃしっかりしていて、さらなる笑いに襲われましたw 次回も楽しみにしております!
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