ハウリングに到着
草の迷宮を抜け、俺とニャベルは、平原に続く一本道を、ロックも聴かずにひたすら歩いていた。
「なぁ、この道……いつまで続くんだ?」
「もう少しにゃ~、がんばるにゃ」
「お、おう……」
行楽日和なのはありがたいが、こうも変化のない景色ばかりだとつまらない。
こんな日はピクルスを三枚挟んだハンバーガーと、炭酸の気泡が弾ける音が恋しくなる。
そうだ、こういう時に、使えそうなアイテムを探しておくのは悪くないアイデアだ。備えあれば憂いなし、突然襲ってきたグラスパイダーみたいに、人生にはいつ何が起きるかわからない。それこそ隣のニャベルが、スカイツリーみたいに大きくならない保証など存在しないようにね。
当面の武器はラグニャロクでいい。
持ち手のモフモフが気に入った。
グラスパイダーも一撃で倒せたのだから、攻撃力だって悪くない。
問題は、皆忘れていると思うが、俺がまだジョーカースタイルのままだってこと。
やれやれ、いつだって人は何かを忘れていく。だから、いつまでも俺がこんな格好をしていることに意味なんてないのだ。
嫌なら変えてしまおう。
完璧な装備が存在しないように、完璧な絶望も存在しないのだから。
村上構文で遊んだ後、ストレージを探ってみる。
カウンター系スキルが付与された防具は止めておくか。
万が一、ニャベルを殺してしまったら、一生この世界から出られない気がするからな。
うーん、この辺りかな……。
・ぼうけんじゃのふく
・大地のマソト
・風のブーッ
色々と飽きてきたが、もれなくバグってる。
一応取り出してみるか……。
「ねこやしき! なにそれ!」
ニャベルが食いつく。
「ん? そろそろ、普通の格好に戻りたくてな」
「いまのもかっこいいと思うけどにゃ~」
「そうか? まあ、でもほら、勇者に会いに行くわけだし、こんな格好じゃ驚くだろ?」
「このマントかっこいいにゃぁ~」
聞いちゃいねぇ……。
まあいいか、とりあえず見た目はどれも問題無さそうだ。
これなら着替えても大丈夫だろう。
「ちょっと待っててくれ、着替えるから」
「わかったにゃ」
広い道の真ん中だが、誰もいないし、それに隠れるとこもない。
ニャベルが体操座りで俺を見ているのが気になるが……。
ささっと着替えを済ませ、やっとそれっぽい姿に戻れた。
髪と顔のペイントはどんな理屈かわからんが、スーツを脱ぐと同時に直った。
魔法の一種なのかも知れない。
「さて、お待たせ、行こっか?」
「出発にゃ!」
調子よく歩いていると、ついに建物らしきものが遠くに見えた。
「お! ニャベル、あれは町か?」
「うにゅ! 魔狼族の町『ハウリング』だにゃ!」
*
ハウリングは最初の村よりも随分と発展していた。
並ぶ建物も立派で人通りも多く、魔狼族以外にも色々な種族が歩いていた。
「へ~、色んな奴らがいるんだな」
「そうにゃんよ、この世界には様々な種族がいるのにゃ」
どこか得意げに答えるニャベル。
「で、肝心の勇者は何処よ?」
「ちょっと待つにゃ」
ニャベルはそう言うと、道行く人に声を掛けに行った。
「あのー、勇者ヴォルフはどこにいますかにゃ?」
「ヴォルフ? ああ、アイツなら町の裏手にある金山にいると思うぜ」
金山……?
何で勇者がそんな所にいるんだ?
あれ? 俺、めっちゃ、耳が良いんだが……。
今、猫王族になった事を初めて実感した。
凄い、他の人の会話も全部聞こえるぞ。
俺は両耳に手を当て、その場でレーダーのように回転した。
ほほぉ……、聞こえる、聞こえるぞ……。
へー、宿屋の女将と武器屋のご主人が……。
「ありがとにゃ!」
おっと、ニャベルが戻ってくる。
俺は何食わぬ顔で訊ねた。
「何だって?」
「裏山にいるらしいにゃ!」
「よし、早速行ってみるか?」
「ねこやしき、アクティブにゃ!」
「まあな、これくらいじゃないとプロは務まらないさ」
俺とニャベルは屋台で肉串を一本ずつ買い、頬張りながら裏山へ向かった。