サブクエスト完了
くましーの家に着いた俺達は、早速ドアを叩いた。
「おーい! くましー! 起きろー!」
「そこの植木鉢の下に鍵があるのにゃ」
「え、勝手に入るの?」
「大丈夫にゃ、ニャベルとくましーはともだちにゃ!」
ニャベルがエヘンと胸を張った。
おいおい、はちみつ取る必要あったのか……?
「あ、うん……、じゃあ入るけど……」
俺は植木鉢の下から家の鍵を取った。
ドアに鍵を差して回すと、ガチャリと鍵の開く音が聞こえた。
「おじゃましまーす……くましー?」
「くましー……起きてる?」
なぜか二人とも小声だ。
家の中は森のログハウスといった感じで、中々小洒落た雰囲気がある。
暖炉の前にはラグが敷かれ、ロッキングチェア、本棚、ランプ、壁に飾られているのは釣り道具と魚拓だ。
「へー、こんな大きな魚釣ったのかぁー」
なかなかの大物……。
二メートルくらいあるんじゃないか?
「くましーは釣りが上手なのにゃ」
「ふーん」
と、そこへくましーが、目を擦りながらやって来た。
「誰だ? 人の家で……なんだニャベルかよぉ」
でかい……近くで見ると威圧感があるな。
水色に白色のストライプ柄が入ったパジャマを着ている。
「ぬがぁーーーーっ⁉ だ、誰だよ、この変なのぉっ!」
俺を見てくましーが叫んだ。
「落ち着くにゃ、くましー! 彼は勇者ねこやしきにゃよ」
「勇者ぁ? こんなの変なのが……? んー、まぁ……いっか、で、何の用? 俺眠いんだよぉ……」
俺の事は覚えてないのか?
まあ……この格好じゃわからなくても無理はないか。
ストレージからはちみつの壺を取り出して、くましーに見せた。
「はちみつ持って来たんだ」
「えっ⁉ それ早く言ってよぉ!」
――はちみつチャンス!
な、何だ⁉ 今のアナウンスは……。
急にカッと目を開いたくましーが、テーブルの椅子を引き、俺とニャベルを座らせる。
「ほら、座って座って! 何飲む? あ、はちみつ炭酸で割るぅ?」
「お、おぅ、そうだな」
「わーい、はちみつソーダにゃ」
「おっけー、すぐ作るぅ」
くましーは、はちみつの壺を大事そうに両手で持ち、台所に向かった。
てか、サブクエスト終了じゃないのか?
くましー起きてるけど……。
「おい、ニャベル、くましー起きたぞ、何か無いのか?」
「ん? にゃにを言ってるにゃ?」
駄目か……とりあえず喉も渇いたし、はちみつソーダはご馳走になっておくか。
「おまたせぇー、このはちみつは当たりだぁ、ほらぁのんでみ?」
――はちみつチャンス!
ま、また変なアナウンスが……。
くましーが嬉しそうにテーブルにグラスを置き、自分も席に座る。
「いただきますにゃー」
「……いただきます」
恐る恐る口を付ける。
お! イケる! これは爽やかで美味しいな!
「ぷはーっ! 美味しいにゃ~!」
「んー! 最高だなぁ!」
【サブクエスト:くましーを起こせ! をクリアしました】
【えがお:F+1→えがお:E+1 ワンランク↑】
お? これでクリアか⁉
えがおが上がったが……そもそも何を表す項目なんだろ?
とにかく、ここにもう用はないはずだ、先を急ぐか。
「ごちそうさま。よーし、ニャベル、ヴォルフとやらに会いにいくぞ」
「せっかちにゃよ~」と、ニャベルが渋る。
「ヴォルフに会うのぉ?」
「ああ、ヴォルフ以外にも何人かの勇者を捜さないと……」
「そうだぁ、もし破王熊族のベアードくんに会うことがあれば、これを見せるといいよぉ」
くましーは【くましーの手形】をくれた。
「これは?」
「それがあれば、おれのともだちだってわかるんだぁ」
「ともだち……?」
へへっと笑って、
「だって、おれたちはもう、はちみつフレンド――、だろぉ?」とくましーが照れくさそうに頭を掻いた。
あまりの台本展開に俺は言葉を失う。
呆然とくましーを見つめていると、ニャベルが声を掛けてきた。
「ねこやしき……?」
「あ、いや……、すまん。そうだな、はちみつフレンドだ」
俺はくましーと固く握手を交わした。
【くましー→あなた 親密度5%↑】
【ともだちリストに"くましー"が追加されました】
色々と突っ込みどころがあるが、こういうのも悪くない……か。
「よし、じゃあそろそろ行くか」
「おっけーにゃ!」
「ばいばぁーい! 気を付けてねぇ~!」
くましーに見送られながら、俺達は魔狼族のヴォルフに会いに向かった。
次話、4/14(水)12時に更新します。