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黒い雨

 閉ざされた扉を前に立ち尽くす俺。


 ク、クエストか⁉

 いや、特にアナウンスも無いしな……。


 どこかに、蜂蜜があるんだろうか?


 ていうか、もう……飽きてきた。

 やっぱり、俺にはこういう世界は向いていないのかも知れん。

 もっと、力でゴリゴリ行く方が性に合ってる気がする。


「はぁ……」


 帰るか……血で血を洗う修羅の世界へ。

 俺はウィンドウを開き、ログアウトボタンをタップした。 


「ハンバーガー食って、アビス・ロード周回するかな……」


 ステータスウィンドウを呼び出して、ログアウトをタップした。


「……ん?」


「あ、あれ……?」


 ――何だ?

 ログアウトできないぞ?


「おいおいおいおい! クソ運営が! ふざけんなよ!」


 何度試してもログアウトができない。

 いいんだよ、こういう誰も得しない演出は!


「どうしたのー?」

「おこるとだめにゃよ~」

「がるがる」


 ちびっ子獣人たちが心配そうに俺を見上げる。


「あ、いや、こっちの話……あははは、気にしないでねー」


 ちょっと待て、なんなんだこれは!


 どうするんだよ……もし本当にトラブってんだとしたら、俺のマンションなんて誰も来ないぞ⁉ 一日、二日くらいなら、何とかなるかも知れないが、それ以上になるとマジ死も見えてくる。


 ここの運営、マジで大丈夫かな……。

 最悪の場合、緊急通報が救急に発信されるはずだけど……。


 と、その時――。


 急にどす黒い雲が現れる。

 辺りが薄闇に包まれ、遠くから雷鳴が響いてきた。


 おいおい、今度は何だよ⁉


「な、なんにゃ⁉」

「わふぅ?」

「こわいにゃー!」

 ニャベル達が耳を押さえて俺にくっついてくる。


〈モフモフ・オンラインをお楽しみの皆様、これよりこの世界はカオスモードへと移行します〉


 全世界アナウンス⁉

 運営生きてんなら、ログアウトさせろよクソが!


 しかも、なんだよカオスモードって……。

 すると、突然上空に巨大な映像が映し出された。


「あ、あれは、アビス・ロード⁉ な、なんでここに⁉」


 骨で出来た王冠、七つの宝玉が嵌め込まれた漆黒の杖。

 暗黒のローブを纏った深紅の骸骨が現れた。


『ククク……はじめまして、モフモフ・オンラインの諸君――。我は魔王、アビス・ロード……殺戮と狂気渦巻く修羅の世界からやってきました……』


 な、なんだ? 何かしゃべり方がおかしいぞ⁉

 この世界の影響を受けてるのか⁉


『このモフモフで浮ついた世界ですが、(われ)が恐怖の雨を降らしてみようと思います! ククク……泣け! (わめ)いてもいいですよ? さぁ、たった今、この瞬間から、この世界に等しく混沌(カオス)を――!』 


 ――超高次殲滅十三位階魔導術式――

     CHAOS・RAIN(カオス・レイン)

 ―――――――――――――――――


「ま、マズいっ! この装備じゃ……」


 アビス・ロードが言い放った瞬間、天から黒い線が降り注いだ。

 森も、草木も、家も、獣人達も、全てが黒線に覆われる――。


「うわあぁぁぁーーーー!!!」



 * * *



「う、うぅ……」


 頬に触れるやわらか冷たい感触。

 に、肉球……?


「あ、あれ……俺は……」

「目が覚めたかにゃ?」


 目の前には見覚えのある猫獣人がひとり。

 たしか、ニャベルだったか……。

 でも、何か……雰囲気が変わったような気がするな。


「そ、そうだ! アビス・ロードは⁉」


 慌てて起き上がり、俺は辺りを見回す。


「もう、どこかへいったにゃ……」

「そうか……」

 と、目線を落とした時、俺は異変に気付いた。


 あれ……⁉


 思わず自分で身体を触る。


「み、耳……?」


 お、おれ、もしかして、いまさら猫王(ケットシー)族になってる――⁉


「た、確か、ストレージに鏡が……」


 ストレージウィンドウを開いた瞬間、思わず声が漏れた。


「え⁉」


 ストレージ内のアイテム表記がぐちゃぐちゃだ。


 ・ラグニャロク

 ・ふめつのヨろい

 ・エ◇くさー

 ・ハンド鏡

 ・……


「バ、バグってやがる……」


 まるで、モフモフ・オンラインとオヴリビオン・ダスクが混ざってるみたいだ。

 そう言えば、アビス・ロードの奴も口調がおかしかったな……。


 いや、ゲームが混ざるなんてあり得ない。

 サーバートラブルか? それともハッキング?


 ログアウトできないのは俺だけなんだろうか?

 いや、これだけ大規模な障害なら……他にも閉じ込められたプレイヤーがいるかも知れない。


 ハンド鏡を取り出し、自分を見る。


「はは……人間8割、黒猫2割ってとこか……」


 見慣れぬ猫耳をピクンと動かして、ちらっとニャベルを見た。

 こっちは8割が茶トラ猫だな……。


 猫耳型のフードマントに革のブーツ、腰には短剣も差してある。

 よりオブリビオン・ダスクの世界観が強まったという事か……。


「ねこやしき、村のみんなの仇をうつにゃ! 君は選ばれし者、招待コードを持った勇者にゃよ!」

「は?」


 おいおい、急にどうした……村の獣人達は死んだことになってんのか?

 てか、招待コードってここで関係あんの?


 どうでも良いけど、キャラ変わりすぎじゃ……⁉


 ――ちょっと待て、これは⁉ 

 そうだ! オヴリビオン・ダスクのオープニングじゃないか⁉


 確か、始まりの村は魔族に滅ぼされ、生き残りの少年とパーティーを組む。

 オヴリビオン・ダスクではチュートリアル終了後に、その少年がアイテム回収役になったはずだ。

 今考えると、せめてパーティーメンバーにしてやれよと思う。


 間違いない、となると……。


「そ、そうだな、だが、ちょっと待ってくれ」


 俺はステータスウィンドウを開いてみた。

次話、明日12時に更新です。

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