通商ギルド
「ここが通商ギルドか……」
村の中では一番大きくて立派な建物だった。
扉は開けっぱなしで、大勢の人が出入りしている。
中に入ると、奥に長いカウンターがあり、数名の職員が慌ただしく対応に追われていた。
「へー、随分、賑わってんな」
「ねこやしき、あの列に並ぶにゃ!」
ニャベルが右端の列にモフモフした手を向ける。
周りを見ながら、俺達は列に並び順番を待った。
そして、待つこと小一時間、俺達の番が来た。
「こんにちは、ようこそ通商ギルドへ。本日、ご用件をお伺いしますリリカです、よろしくお願いします」
ほほぅ……リリカとやら、かなりのべっぴんさんではないか。
キャラメイクした奴はセンスがあるな。
「どうも、こちらこそお世話になります。えっと……、魔石の両替と、行商ライセンスを発行していただきたいんですが」
「かしこまりました、では、魔石の両替の方から承ります、今、お手元に現物はお持ちでしょうか?」
「ええ、これです」
俺はストレージから魔石を取り出し、カウンターに置いた。
「――えっ⁉」
突然、リリカが驚いたように甲高い声を上げた。
それに合わせて、周りの冒険者や商人達も何事かと俺の方に目を向ける。
「な、なにか……?」
「す、すとれーじ持ち……まさかSランク冒険者様ですか?」
「ん? いったい何の話を……」
「Sランクだと⁉」
「あんな若造が⁉」
「あの男、猫王族じゃないのか⁉」
野次馬達が騒ぎ始めた。
おいおいおいおい、どういうことだ……?
何で突然、異世界転生漫画みたいな展開になってんだよ!
こんなクソみたいなシナリオ考えやがって……時間の無駄だろ。
「お、お待ちください、すぐにギルド長をお呼びいたしますのでっ!」
「い、いや、いいんで! リリカさんでいいんで!」
「いえ、そういう訳にはいきません、Sランク冒険者様の対応はギルド長直々に行うように決まっておりますのでっ!」
「ねこやしきは勇者にゃ! Sランク冒険者なんかじゃないにゃ!」
ニャベルの一言で、ギルド内が一瞬にして静寂に包まれる。
「にゃ?」
――にゃ、じゃねぇーよ!
これ以上面倒に巻き込まれたくないのにっ!
「おい……勇者って……」
「まさか……」
「いや、でも先日降臨された天使様は……」
ピクンと俺の猫王耳が動く。
天使……だと?
「なあ、天使って何の話だ?」
「えっと……」
すると、リリカから突然表情が消える――。
「先日、村の外れに天使様が降臨したさ……俺ぁ、おどろいて腰さ抜かしちまったんだ。必死に逃げようとしたんだが、身体がいうことを利かねぇ。すると、おめぇ、天使様が俺の身体を治してくれたのよ! 俺ぁ~、びっくらこいちまってぇ、もう、たまげたっつーもんじゃなかとよ! でよ? そしたらおめぇ、天使様がこう言ったのよ、『――来たるべき日は近い、アップデートに備えよ』ってさ、俺ぁ、何の意味だかさっぱりわかんねーども、あれぁぜってー天使様だ、間違いねぇ」
「は?」
何言ってんだこいつ……。
完全にバグってんな。
アップデートっつーことは、イベント告知用の演出か何かが残ってたのかも知れないな。
てことは、リリカもそのイベント用のNPCなのかも……。
恐らく、ここでの会話は支離滅裂で、ストーリーもぐちゃぐちゃになってる可能性が高いな。
こういうバグがあるシーンは下手するとハマって出られなくなるかも知れん。
てっとり早く、用事だけ済ませて立ち去るが吉……か。
「なるほどねー、あ、ギルド長呼んでくれる?」
「かしこまりました、お待ちください」
ペコリと頭を下げ、リリカが席を外して奥へ向かう。
よし、やはりそうだ。
このやり取りに深い意味はないのだろう。
気にしたら負け、ここはスルーで行こう。
奥から身なりの良い男がやって来た。
「お待たせしました! ここでは何ですから……別室にお願いできまへんか?」
「あ、はい、わかりました」
すげぇ訛りだな……キャラ付けすぎじゃね?
などと考え、別室に向かおうとした瞬間、頭の中でピロンと音が鳴った。
【お使いクエスト:ギルド長の悩みを解決しよう!】
え……。
マジかよ! このタイミングでクエスト発生とか……。
ったく、俺の悩みを解決してくれっつーの。
*
応接室に通され、ケツが半分以上沈むソファに座る。
「ねこやしき、ふかふかニャよ~」
「ほら、行儀悪いぞ、じっとしてろよ」
「わかったニャよ……」
【ニャベル→あなた 友好状態:良好→やや良好】
こ、こいつ……。
「いやー、よぅ来てくだはりました! ワイ、通商ギルド長のデリカマッケンいいますねん」
「どうも、ねこやしきです」
「ニャベルにゃ!」
「ほな早速、話させてもらいます。今日は魔石の両替と、行商ライセンスの発行ということですが……それなんですけどね、ちょっとワイからご提案さしてもろてもええですか?」
デリカマッケンは、俺の顔色をうかがうように訊ねてくる。
「何でしょう?」
「おぉ、構いまへんか⁉ おおきに、助かります!」と、大袈裟に喜んだ後、デリカマッケンが話し始めた。
「知ってのとおり、ハウリングでは酪農業がごっつーエグいんですわ。ワイらからしたら、そりゃもう、ドル箱みたいなもんやし、乳絞っときゃ左団扇っちゅーもんなんです。せやけど……最近、舐め腐りおった輩か何か知らへんけど、家畜がぎょうさんさらわれよんですわ。エグいでっしゃろ~?」
「は、はぁ……」
「もうワイ、家畜さんが心配で心配で、夜も6時間くらいしか寝られへん状態なんですわ……心配しすぎて死んでまうでホンマ……」
そう言って、大袈裟に頭を振るデリカマッケン。
「そ・こ・でっ! 勇者であるねこや~しき様に、事件を解決してもらえんやろか、っちゅー話なんですわ~っ!」
頭痛くなってきた……。
「あの、俺は魔石の両替と、行商ライセンスを発行してもらいたいだけなんですよ、クエストなら他の冒険者に頼めばいいでしょ?」
「ええ、ええ、モチロン! それはじゅーじゅーわかっとります! ただ! ただ、ですなぁ、ワイもよーわからんのですが、心の奥からねこやしき様に頼めっちゅーて、指令が飛んでくるんですわ、まぁ、ちょっとスピリチュアルな話なんで、受け入れられないかもしれまへんけど……」
心の奥……?
もしかして、イベントの強制力が働いてるのか?
うーん、でも面倒だし……。
――あ、そうだ!
「あ、ヴォルフに頼めばいいじゃないですか! 彼も勇者ですし、きっと力になってくれると思いますよ?」
「わかります、わかります、ワイもそう思てた時期ありましてん……。でも、ちゃいまんねん、ヴォルフ様じゃアカンゆーて、この心が叫んどりますねん!」
「あー……うん」
だめだこりゃ、どうやっても断れる気がしない。
無理矢理帰って村を出るか? いや、宿代はちゃんと払いたいし……。
「任せるニャ! ニャベルとねこやしきが見事解決するニャ!」
え……。
ニャベルはデリカマッケンに向かって、誇らしげに胸を張る。
「おぉ! ニャベルはん! よー言うてくだはりました! あんた男やで!」
「ちょ……」
「ほな、これが詳しい資料と牧場の地図です。よろしゅう頼んます! 魔石はすぐに両替しますさかい、行商ライセンスはクエスト完了後に『スーパーバイヤー』のランクを付けてお渡ししますよってに」
「ありがとニャ! じゃあ、ねこやしき、頑張るニャ!」
「おい……」
デリカマッケンに地図や両替した金などを持たされ、気付くとギルドの外に立っていた。
マジか……。
てか、スーパーバイヤーって何だよ?




