アリーの店
「あ~! ヴォルフさま、お帰りなさ~い!」
「わー! ヴォルフさまーっ!」
「おぉ、ヴォルフ殿、採掘の調子はどうですじゃ?」
「ヴォルフヴォルフヴォルフゥッ!」
「ひょっひょっひょ……ヴォルフや、戻ったのかい」
「きゃー、ヴォルフさまよー!」
「ヴォルフじゃね?」
「ヴォルさま!」
「よう、ヴォルフの旦那! いい魚入ってるぜ!」
村に戻ると皆がヴォルフに声を掛けてくる。
「えらい人気者だな……」
「よせよ、毎日これを聞かされる身にもなれってんだ、ウンザリするぜ」
ヴォルフはそう言って、ひらひらと手を振る。
「ヴォルフは勇者なのにゃ! ねこやしきも勇者なのにゃ!」
ニャベルが嬉しそうに声を上げた。
ヴォルフが小声で俺に耳打ちする。
「おい、このNPCは何だよ?」
「……ニャベルは、まあ、その、ともだちだ」
「はぁ? おいおい、ショックでどうかしちまったんじゃねぇのか? NPCだぞ?」
「おい、やめろって、聞こえるだろ……」
「ハンッ、ねこやしきとあろうもんが、NPCと友達ごっこかよ? それよりもどうやってクソ運営に連絡を取るかが問題だろッ⁉」
「それはそうだが、ニャベルは……」
ニャベルはしょんぼりと耳を前に垂らして、俺達の後ろを付いてくる。
うーん、絶対、聞こえてるだろ……。
例えNPCでも、一緒に旅をする仲間だ。
定型文を話すならともかく、ニャベルにはちゃんと感情があるように見える。
それにこの現状では、NPCか生身かなんて大した意味が無いと思うんだが……。
「ニャベルは俺の旅の道連れだ、あまり虐めないでくれ」
「……ふーん、まあいいけどよ、お! 着いたぜ」
見ると、西部劇に出て来そうなバーがあった。
外に置かれたテーブル席では、既に村人達が酒盛りを始めている。
「アリーの店、か……」
看板のフォントは丸っこくて緑色だ。
「行こうぜ」
「ニャベル、行くぞ」
「ま、まってにゃー」
ニャベルは俺の服の端に爪を引っかけた。
酒盛りしている大人が怖いのかも知れない。
バーの中には、いくつかのテーブル席と長いカウンターがあった。
壁にはカラフルな酒瓶が並んでいて、白シャツに蝶ネクタイのワニ獣人がグラスを拭いている。
ヴォルフはカウンターの近くの席に座り、ワニ獣人に声を掛けた。
「あらヴォルフ、いらっしゃい」
「よお、アリー、俺はいつもの頼む」
「そちらのお客さんは?」
アリーは、黄色い爬虫類特有の目で俺を見た。
「何があります?」
そう訊ねるとアリーはグラスを棚に置き、
「猫獣人達に人気のカクテルがあるわ」とカウンターに片手を置き、片目だけパチッと瞬膜を閉じた。
「じゃあ、それを二つ」
アリーはOKと頷き、酒を作り始めた。
ゴツゴツした手で器用にシェーカーを振り、乳白色の少しとろみのある液体をカクテルグラスに注ぐ。
「さぁ、どうぞ、『ルーチュ・ド・イバーナ』よ……」
目の前に置かれたカクテルグラスを持ち、匂いを嗅いでみる。
うん、予想はしてたんだが……海鮮系の匂いがするな。
ヴォルフが黄色いお酒を手に、
「さぁ、乾杯だ」とグラスを向ける。
「ああ、乾杯」
「かんぱいにゃ~」
あれ、ニャベルってお酒飲めるのかな?
そう思った時には、ペロペロとカクテルを舐めていた。
「にゃにゃにゃ! すごいにゃ! ねこやしき、これ癖になるにゃ~!」
「お、おい……あんまり急いで飲むなよ」
余程気に入ったのか、ニャベルは猫が変わったように高速でベロを動かしている。
「はは、気に入ったようだな」
「大丈夫かな……」
「それよりねこやしき、お前、これからどうすんだ?」
「ニャベルの話だと、この世界には五人の勇者がいるらしいんだが……」
「ハンッ、まさかそいつらを探すってのか?」
ヴォルフが呆れたように目を大きく開いた。
「まあ、他にすることもないし……何かわかるかも知れないからな」
「おいおい、気が遠くなるぜ」と、ヴォルフが酒をクイッと呷る。
グラスを綺麗に舐め取ったニャベルが、
「ねこやしき~、ヴォルフとおともだちになったかにゃ~?」と頭を擦り付けてきた。
「何だ? 酔っ払ってんのか?」
「ふるるるるうにゃぁああ~」
目をとろーんとさせて、俺の背中にしがみつく。
「ったく仕方ないな……ヴォルフ、近くに宿屋はあるか?」
「ああ、出てすぐ左手に『旅のゆりかご』って宿がある、俺の紹介だって言やぁ、良い部屋を用意するはずだ」
「来たばっかりなのに悪いな、ありがとう」
「いいって、急いだところで何も変わりゃしねぇ。ここは払っとくからよ、また明日ゆっくり話すりゃいいさ」
ヴォルフは追い払うように手を振った。
「助かるよ。じゃあ、アリー、ごちそうさま」
「あら、また寄ってね、待ってるわ」
アリーはまた瞬膜をパチリと閉じた。
「じゃあ、また」
俺はニャベルを背負って、アリーの店を出た。




