魔法少女の代わりに化け物退治することになりました
一昔前に流行った、文字を短縮して英語に置き換えるというもの。今もまだその流行りは少し残っているけど、だいぶ廃れてしまった。
例えば[JK]女子高校生をローマ字にしてその頭文字を取った言葉。今やこの言葉は死語になりつつある。と言うかなった。今はもうどこを見てもJkなどという言葉も文字も見なくなってしまった。
悲しいかと言われれば悲しくはないし、なんなら気にもしてい無かったけど。てか、なんでそもそもこんなこと考えてるのかといえば。
それを話そうにも今はそうもいってられない! 何故なら私は今よく分からないものに追いかけられているから!!
「ちょっと喋るぬいぐるみ! あんたのせいで現在進行形で大変な目にあってるんだけどどうしてくれるのよ!」
「仕方ないぴょん。この事態を解決できるのは魔法少女になる資格を持っている霞にしかできないぴょん」
「魔法少女ってね、私二十五歳よ。少女じゃないじゃん!」
「心が幼なければみんな魔法少女になれるぴょん」
「遠回しに精神年齢低いって言ってないそれ」
「当たりぴょん。賞品に魔法少女になれるステッキをあげるぴょん」
「嬉しくないし、認めたなこのぬいぐるみ!」
受け取った覚えのない、キラキラした魔法のステッキ(仮)をぬいぐるみに向かって振り下ろすも、ひょいと空を飛んで避けられた。
今日の運勢は一位だったのに最下位並の不幸続きだよ。こうなったのも全てこのぬいぐるみに出会ったせいだ。
二千二十年。十年前までに存在したご当地キャラという存在は今、ご当地魔法少女に変わっていた。それが何時からなのかはもう昔のことで、勉強もしてないから興味ないけど。朝のニュースでは魔法少女がまた悪の怪人を倒したとニュースしてた。
アイドルをやってる魔法少女も居れば、ほとんどメディアに出ない魔法少女いて。私の住んでる町の魔法少女はあんまりテレビに出ない。それでも怪人ってのは出てくるもので、見かけることもあるし感謝だってしてる。
魔法少女って言うくらいだから、どんな子もまだ高校生にもなってないんじゃないかって思える女の子たちだ。大人としては守らないといけない側だけど、怪人から守ってもらってるし変な気分。
もちろん、少女じゃなくなったら世代交代が来るわけで。だいたい三年から長い時は十年で代替わりする。色々言われてるけど、少女じゃ無くなったからってのが世間でよく言われる理由ね。
そりゃ魔法少女だし、少女じゃ無くなったら交代するのが当たり前ってわけ。
私も小さい頃は魔法少女に憧れたりした。だって街のヒーローだよ、憧れないわけないじゃん。まっ、私の前には「僕と契約して魔法少女になってよ」とかいう生き物は現れなかったけどね。現実なんてそんなもんよ。
魔法少女になれなくてもそれなりに楽しい学校生活だったし、いい会社にも務められたしね。
今じゃゲームの中で魔法少女になってるから、夢もかなったようなものよ。
「と言う訳で、電車通勤時間のゲーム」
「僕と契約して魔法少女になってぴょん」
「はいはい、ゲームの中でなりますよ」
はぁー、現実でもこんなふうに言われたかった人生だった。人生まだまだこれからだけど。
「現実で僕と契約して魔法少女になってぴょん」
「あれゲーム始まんない、てかアップデート来てたっけ。声とか語尾変わってるけど」
「時間止まってるからゲームは始まらないぴょん。アップデートは来週だぴょん」
「えっ嘘、石ないんだけど。課金しないとダメか、新しい魔法少女に出るじゃん。てかぴょんてなに」
「ぴょんは語尾だぴょん」
「あー語尾ね語尾。てかなにこれ」
人間脳がフリーズすると驚くことも忘れるらしい。目の前には猫なのか狐なのかよくわかんない生き物が宙に浮いていて。電車の外の景色は止まったままで。
「え、なにこれ」
「時間を止めてるぴょん。今怪物が現れてるんだぴょん、でも今日は魔法少女が他の町に応援に行ってるぴょん。だから代わりに僕と契約して魔法少女になってぴょん」
「いやいやいや、魔法少女になるのは夢だったよ? でももうそんなこと言ってられる歳でも無いし」
「君が魔法少女にならないと町が破壊されるぴょん」
「いや、せめて少女のところに行って頼めよ」
「親の許可とか面ど……大変ですぐに魔法少女になれないぴょん」
「今面倒って言いそうになってなかった? てか親の許可いるとかいきなり現実突きつけてくんなし」
「とにかく早くしないと町が破壊されるぴょん。ほら早くしないと君の家もぺしゃんこぴょん」
目の前に出てきた画面にはカイブツが住んでるアパートを潰そうとしてる写真が写ってた。アパートの名前も、隣の家もゴミ置き場も写ってる大家さんも。写ってる全てが私の住んでるアパートという証拠になってる。
「町中探してやっと見つけた、事故物件じゃない格安アパート! おのれ怪物、私から家を奪う気か。良いわよやってやろうじゃない。さっさと私を魔法少女にしなさい、あの怪物消してやるわ。生まれてきたことを後悔させてやる」
「じゃあ僕の手の上に手を置くぴょん」
「これでいい?」
「契約成立ぴょん」
「おおーーなんかそれっぽい」
足元に魔法陣的なのが広がって(半分くらい電車突きぬけて外に出てるけど)足元から風が吹き上げて服とか髪が浮き上がって。
「ちょっ、スカートめくれてるんだけど!」
「誰も見やしないぴょん」
重ねてる手にも魔法陣が浮かび上がって、そのまま肌に張り付いて見えなくなっていった。
「これで契約終了だぴょん。怪物のところに飛ぶから準備するぴょん」
「準備ってなんの」
「もちろん戦う準備ってぴょん」
「ちょっま……」
目の前が眩しく光って、目の前が見えるようになる頃にはどうろのうえにたっていた。
「着いたぴょん、あれが怪物だぴょん」
「いやデカなくない?」
なんかこう、想像してたのよりすんごいでかいんだけど。二階建てのマンションが膝の辺りってさ。なんメートルあるわけこいつ。一人じゃ無理じゃない。そもそもゲームですら四人パーティだよ、なんでソロゲームしなきゃならんのよ。
「無理じゃね」
「なんとかなるぴょん。あっ気付かれたぴょんぴょん」
「いやーーーーー!」
そして現在に至るわけで。
「どうやって戦うのよ、こんなしょぼいステッキで」
「魔法を使うんだぴょん。使える魔法は使おうと思えば使い方が思い浮かぶはずだぴょん」
「魔法って言ったって」
あ、なんか来た。JK魔法ってなに。なんか魔法名とか思い浮かぶもんじゃないの。なにこの女子高生が使うのなら何でも出せますな魔法は。女子高生が使うもので戦闘なってできるわけないじゃん。
「とにかく何かしないと追いつかれるぴょん」
「何って言われても。ええい、口紅!」
「なんか出たぴょん」
「女子高生といえば口紅でしょ」
「とにかく投げるぴょん」
「そりゃ!」
「もう少しかわいく言えないぴょん」
「こんな時に無理言うな!」
投げた口紅は化け物に向かって飛んでいき、口を赤く彩った。
「わーー奇麗になった。っじゃないじゃん。攻撃するどころか、唇塗ってどうすんのよ。しかもきれいっていうか余計に怖くなったんだけど!」
「魔法以外の攻撃は効かないから、他の魔法を使ってみるぴょん」
「他の魔法って言ったって魔法自体はこれ一つで、出せるのが変わるだけよ!」
「じゃあ、攻撃できそうなのを出して投げるぴょん。こんなところで死にたくないぴょん。何とかするぴょん!」
「女子高生が持ってるので攻撃できそうなものがあると思ってんの!?」
「知らないぴょん、とにかく何とかするぴょん!」
「ええい!」
とにかく出すしかない。ファンデーションにリップにマスカラにカラコンに制服に付けまつげに安全ピン。
「どうだ!」
「制服着てメイクした文字道理の化け物ができたぴょん!」
「何の意味もないじゃん。唯一攻撃できそうな安全ピンすらスカートの丈短くするのに使われてるし。化け物のスカートの中なんて誰も見たくないわ!」
「もう終わりだぴょん。僕は今日死ぬんだぴょん」
「あんた空飛んでるんだから上に逃げれるでしょ」
「そうだったぴょん。霞頑張るぴょん空から応援してるぴょん」
「あっ逃げるなぬいぐるみ。人を連れてきておいて一人安全なところにいるとか!」
「がんばるぴょーん」
あんにゃろう! 何かで撃ち落とせれば……撃ち落とす?
そういえば女子高生が持ってるものでなんかあったような。なんだっけ。撃ち落とせる遠距離武器の名前。
もう少しで出てきそうな、多分銃なのよ。銃でなんか沢山撃てる……あっ!
「ぬいぐるみ、降りてこないと撃ち落とすわよ。あるじゃない女子高生が使う攻撃できるのが。いでよ機関銃!」
「なんかごついの出てきたぴょんね」
「さあ、降りてきなさいぬいぐるみ。死ぬときは一緒よ」
「霞、狙うのは化け物になった化け物ぴょん。こっちじゃないぴょん」
「問答無用!」
「敵はあっちぴょん!」
手にした機関銃をぬいぐるみとついでに化け物。魔法で作った武器なら化け物にも通用するみたいで、とにかく撃ち続ける。途中からなんか目的が化け物倒すより、ぬいぐるみ撃つのが楽しかったけど。結果倒せたからいいってことで。
「一件落着!」
「酷い目にあったぴょん。それにしてもなんで変身しなかったぴょん」
「ヒラッヒラのスカート短くて露出激しい以上来てる二十五歳って痛すぎるでしょ」
「一部のおっさんには需要あるぴょん」
「気持ち悪いわ!」
まだ手にしてた機関銃をぬいぐるみに撃つ。もちろん浮いて避けられた。
「とにかく化け物倒せて良かったぴょん」
「ちっ外したか。それよりひとつ聞きたいんだけどさ」
「何ぴょん」
「元の魔法少女帰ってきたら私どうするの」
「その時は普通に生活してればいいぴょん。あくまで居ない時の代行ぴょん。臨時バイトだぴょん。これバイト料ぴょん」
「うっそ!」
手渡された封筒には諭吉さんが十枚入っていた。一回十万のバイトとか進んでやりたいんだけど。本職いるしなぁ。
「魔法少女ってこんなに貰ってるの」
「でも直接貰える額は親次第ぴょん」
「何そのシステム」
「子供にお金をあげたらダメってことで、親に渡す規則なんだぴょん」
「なんかそれ親がほとんど渡さないで使うなんてこと有り得そうなんだけど」
「そんなの知らないぴょん。あとは親と子の問題ぴょん」
「魔法少女って思ってたよりブラックなのね。なんか可哀想に思えてきたわ」
「とにかくまた必要な時は呼ぶぴょん。バイバイぴょーん」
「あっうん」
ほんと急に消えるわね、あのぬいぐるみ。それにしても何に使おうこのお金。やっぱり焼き肉かしら。家電もいいわね。
何か忘れてるような……
「あっ仕事!」
時計を見ればもう出社時間は過ぎ去り。スマホには上司からの電話にメールが沢山来ていた。
「あのぬいぐるみ、今度あったら覚えてなさい!!」
ぜったい蜂の巣にしてやると。私はこころの中で誓った。
そして出社時間を大幅にすぎて出社した私は部長に怒られに怒られた。魔法少女になって、化け物を倒したなんて話したら……
ぜったい頭がおかしくなったと言われるし。なんなら精神状態を案じられるくらいには、優しい部長なのでそんなことも言えない。消して怖いからではなく、この部長とことん部下に優しいから、風邪をひいたなんてことになれば直ぐに休めと返されるし。
風邪でも働けとか言わないのよ?
心配症だから心配させたくないというのが、部下一同の意思である。
まあそんなこんなで、仕事を終えて家に返ってきた私は。二度と見たくないけど。見たいものを部屋の中で見てしまう。
「おかしいなーー、こんなぬいぐるみ買った覚えがないんだけどな」
部屋に置いてあるぬいぐるみの群れの中に。買ったことの無い、しかし見た事のあるぬいぐるみが鎮座していた。
「おかしいなーーなんでだろうなーー」
引越しの時に使ったロープを片手にじわじわとぬいぐるみに近づいていく。
「とりあえず、縛っちゃおっか!」
「ぴょーん!」
「逃がすかー!」
「まっ、待つんだぴょん!」
「問答無用、話は亀甲縛りにしてからだ!」
「魔法生物虐待ぴょーん!」
既に部屋の扉には鍵を閉め逃げ場のない状況で、逃げ切れるはずもなく。ぬいぐるみは亀甲縛りにされ天井から吊るされたのであった。やったの全部私だけどね。一時期縄の縛り方に凝ってた時期があったけど、役に立ってよかったわー。
「で、なんでここにいるわけ」
「ここは活動拠点として使ってるんだぴょん」
「は?」
「ここの家賃が安いのは僕や魔法少女がいざの時に使うから安いんだぴょん。契約書にも特殊な事情によりって書いてあるぴょん」
「事故物件じゃないのに安かったのってそんな理由だったの!?」
「機密事項で普通は話せないけど、霞はもう化け物も倒したからこうして安心していれるんだぴょん」
「つまり何? ここの住人が居なくなるのってあんたのせいなわけ?」
「たぶん?」
「なんで疑問形なのよ。えっ、てか魔法少女ここ来るの」
「くるかもしれないぴょんね」
「おおおおお!」
「なんか興奮してて気持ち悪いぴょん」
これが興奮しないでいられるか!
生魔法少女!
リアル魔法少女!
私もなったけど偽じゃなくて本物のの!
あの夢だった魔法少女が!
来るかもしれない!
しかもしかも、全く表に出てこなかったあの魔法少女がよ!
ひやっふー!!!!
「はぁはぁ!」
「だいぶ息荒いぴょん」
「決めたわ、私ずっとここに住むわ。なんなら魔法少女が遊びに行きたい日は私が化け物を倒す!」
「助かるけどいいんぴょん?」
「全ては魔法少女のため!」
あわよくば魔法少女と会える!
なんて素晴らしいの、夢のような場所だわ!!!
「言っておくけど化け物を倒す以外はお金出ないぴょんよ?」
「問題ないわ、普段の仕事で稼いでるから」
「す、すごい剣幕ぴょんね」
「一部屋空けておくから何時でも来ていいわよ。ウェルカム!」
「と、とにかく伝えておくぴょん。それでいつこれ解いてくれるぴょん」
「あっごめん忘れてた、今解くから」
こうして私は魔法少女の隠れ家の管理人となることが決まったのだった。よっしゃー!