大学生の恋愛観
大学生の恋愛に浮気はつきものだ。
周りはみんなしている。
たびたびあの子は実は浮気していた、あいつは今浮気中だ、なんて話題がこそこそと回ってくる。
サークルなんて浮気の宝庫だ。
純粋に恋愛できているやつらなんてだいたいは男女共に他の誰からも相手にされないような超ブサイクカップルだけだ。
だからこそ、ぼくは大学生になってからは恋愛なんてしたくなかった。
彼女ができても絶対に浮気する。
なぜなら裏切られる前に裏切っていたいから。
どうせ恋愛するなら、自分のことを心の底から愛してくれるような子を、彼女にしたいなんて理想を抱いていた。
じめじめした嫌らしい暑さが続く夏のある日。
今日はある女の子とご飯の約束があった。
彼女は一年前にマッチングアプリで知り合った兵庫の田舎に住む女の子。
マッチングアプリの女の子は不埒な子が多い中、驚くほどに純粋な子で、行為自体は元カレひとりとの経験しかなかった。
過去に何度かセックスをした仲であったが、彼女に新しく彼氏ができてからはしばらく会うことはなかった。
時々彼氏とのいざこざの相談でメッセージが送られてくることがあったりはしたが、実際会うのは一年前に会って以来だった。
今回のご飯も、そんな彼女の相談がきっかけであった。
待ち合わせ場所に着くと、そこに少し雰囲気が変わった彼女がいた。
女の子は恋すると可愛くなるのは本当だと思う。
前よりさらに垢抜けていて、ぼくもなぜか少し喜ばしく思った。
こちらに気づくと、小走りでマスクをしていてもわかるほどに微笑みながらこちらに近づいて来た。
ひしひしと伝わるほどの純粋さに、少し無防備で危なっかしく感じるような距離感。
中身はあの時とあまり変わらないように感じた。
そんな彼女が愛おしかった。
ご飯はやや高級そうな焼肉屋にした。
ぼくはいつも通りレモンサワーを注文したが、彼女は彼氏でない男とのディナーにお酒を頼むかどうか迷っていた。
そこにも彼氏との恋愛を大切にしている彼女の思いやりを感じた。
今日の約束も、来るかどうか相当悩んだに違いない。
メッセージからその様子がとてもよく読み取れた。
それを踏まえても相談したいことがあったのだろう。
少しの下心を持つ自分を恥じた。
相談の内容は、彼氏が浮気をしているかもしれないということだった。
ありきたりだと思った。
大学生では別によくある話だろう。
ぼくは浮気自体は肯定派で、バレないようにできるかが問題だと思っている。
だから、彼女に悟られる彼氏が10割悪いし、それでも仕方ないと割り切れるか割り切れないかが今後の付き合いに左右するだろうという節のことを伝えた。
他にも彼氏への不満はポロポロと出てきたが、どれも結局は自身がそれも踏まえて彼氏を丸ごと愛せるかどうか、ただそれだけだという答えしかぼくには出せなかった。
その後はぼくの近況報告やその他たわいもない話をして、気づけば淡々と時間は過ぎていた。
ふと、彼女がぼくが常に焼肉を焼いていたことに対して指摘した。
もしかして尽くしたいタイプなんじゃないの?と。
別に意識して焼いていたということもなかったが、今まで異性に追われたい、愛されたいと思っていた自分にとっては少し拍子抜けというか、度肝を抜かれたというか、しかし過去の自分の行動と照らし合わせてみると、妙に納得がいった。
食事を終え、その場の会計は結局ぼくが多めに出した。
好奇心旺盛な彼女は、彼氏の影響でタバコに興味を持ち、彼氏と同じハイライトのメンソールを彼氏に内緒で買ったらしく、ぼくたちは近くの公園で一服することにした。
公園に着き、広めの公園の端の方の花壇に腰掛けた。
横で不慣れな手つきでタバコに火を付ける彼女もまた可愛らしかった。
ぼくはなんとなく彼女の顔に触れた。
嫌な顔もせずに笑いながらなに?と聞いてきた。
なぜこの子はこんなにも無防備なのだろう。
なぜ警戒もしないのだろう。
美しいほどにピュアで、もう少し触れたくなった。
少し見つめて、唇を近づけてみた。
しかし彼女はそれを拒んだ。
不思議なことにぼくの中には安堵と嬉しさと残念さとが混在していた。
一時の欲求的衝動は拒絶されたが、彼女は真に純粋であることを示してくれた。
その拒絶はぼく自身への拒絶ではなかった。
あくまで彼氏がいるから、キスはしない。
キスだけは拒絶する。
彼女はぼくの目をまっすぐ見た。
その目は彼女の信念と同時にぼくへの哀れみをも感じさせた。
しかし優しく見つめるその表情は、その行為をするぼくのこと自体は当たり前のように許してくれているように感じた。
彼氏に浮気されているかもしれないのに、彼女は自身の恋愛は曲げない。
この子がいる限りぼくは純粋な恋愛を、完璧な相思相愛を求め続けてしまうだろうと思った。
「どんな女の子と付き合おうと、みんな絶対浮気する。だから僕も浮気するんだ」なんて言いながら、どこかで純粋に一人の女性を愛したい自分がいるんだ。
だれかを死ぬほどにまで愛したいし、尽くしたい。
そんな本当のぼくの本心を彼女はいつも掘り起こしてくる。
彼女はその後も変わらず朗らかに、時々煙に咳き込みながらぼくと話してくれた。
昔ラブホ街を見て、汚い世界だなぁと呟いたこの彼女の存在は、ぼくにとってかけがえのない善良でピュアな心の一部となってくれているんだろう。
こんなクズみたいなことをするぼくでも簡単に許してくれる彼女に、ぼくはきっと甘えているんだろう。
タバコからこぼれる灰を虚に見つめるぼくに、寂しいんだね、と彼女が言った。
帰り道、彼女を駅まで送った。
またしばらくしてタイミング合えばご飯行こうという口約束だけ交わしてお別れした。
自宅に着き、なんとなくまだ帰りたくなくて、近くの公園のベンチに座って一本吸った。
あれだけ遊んでおきながら、純粋に恋愛している人たちを小馬鹿にしておきながら、ぼくは本当はだれかを滅茶苦茶に愛したかっただけなんだ。
自分のことが不快で居た堪れなかった。
本当のぼくは純粋なはずなのに、だれかに尽くしたいはずなのに、そんな自分に蓋をしてかっこつけて、それが自分だと思い込んでいた。
愛すること、だれかを愛する勇気が、今のぼくにはまだない。
暑くて耐えられなくなって、ぼくは家に帰った。




