マゴグの地に住まう者《幼少期》
雲の色が紅色に染まって来た頃、幼いながらも二人の少年は牛舎にて、藁をかき集め懸命に仕事をこなしていた。
「おいっ!ルイス。オレはこれだけ持てるんだぜ。」
十歳位の金髪の少年は藁を両手一杯抱え、近くで藁を持とうとしている少年に自慢する。
「フランツ・・・・。僕が小さいから出来ないとか思ってるでしょ?それ位僕だって沢山持てるよ!」
頬を膨らませ小さい体でフランツ以上の藁を抱え込もうとするが、やはり限界だったのか、よろめいてそのまま藁の上へ倒れ込んでしまった。
それを見てフランツは笑いながら手を差し伸べた。
「ほらみてみろ。まだお前には早いって。身長からしてオレの方が上だからな。」
ルイスにとって、それはただの自慢話にしか聞こえておらず、更に頬を膨らませ、フランツの手を借りる事無く、藁を掻き集め無言で牛に餌をやり始めた。
それを見たフランツは『怒らせたかな?』と感じ、謝る為声をかけようとするが、突然ルイスは彼の方を見て・・・・・
「お兄ちゃんは、さぼってちゃ駄目なんだよ?お兄ちゃんはしっかりしてないと年下が真似するんだから。でないとお母さんにまた怒られるよ?」
言ってニヤリとフランツに笑みを浮かべた。
言われた本人は一瞬沈黙するが口元をやや引きつらせ・・・・・・。
「言ったなぁぁ。よし!勝負だ!牛に餌を早くやった方が勝ちだ。」
そしてフランツも藁を手早く牛にやり始めた。
「フランツ、ルイス君、そろそろ暗くなるし帰るわよ。」
納屋で明日の準備を二人で協力している真っ最中に、入口から一人の女性の声がした。
彼女はマアサーと言う名でフランツの母であり、この牛舎で働かせて貰っている者である。その手伝いに子供のフランツとその親友のルイスが来ていると言う訳なのだ。
「え?もうそんな時間なの?でもまだ明日の準備の途中だよ。」
ルイスは袋に目をやった。
「大丈夫よ。明日の朝の事はまたここのおじさんがやってくれるから。
ありがとねルイス君。今日も助かったわ。」
そう言われルイスは頬を赤らめた。
「オレはオレは?母さん。」
褒めて欲しそうに目をキラキラさせ言葉を求めるフランツ。
それを見て母は笑みを浮かべ。
「フランツもありがとうね。」
彼もまた褒められて嬉しいのか照れ臭いのか鼻の頭を手で擦って見せた。
どおぉぉぉんっ!!!
突然外の方から今まで聞いた事の無い様な爆発音がして、三人の目線は一斉に外へと移った。
「母さん!?今のは?」
ルイス達は手に持ってた大きな革袋やら色々な物を放り出し、外にいるマアサーの側に寄って行き服にしがみ付くなり、外を見る為に恐る恐る顔を覗かせた。
遠くの上空が赤みがかっているのが見えた。
二人は一体何が起きているのかが分からずマアサーの顔を伺っていた。
すると赤い物が森を伝ってこっちに向かっているのが見えて来た。
「火?」
「マアサーちゃん。何があったんだ??なぁ!?」
牛舎のおじさんも外に出て来るが、近づいて来る火の手を見て絶句し、おじさんは地面に座り込んだ。
「おじさん。早く逃げましょう。出ないとここも危ないわ。」
だが、おじさんは座り込んだまま動こうとはしなかった。
「おじさん!おじさん!早く!」
ルイス達は牛舎のおじさんの腕を掴み起こそうとするが振り払う。
「ほっといてくれ。わしはここを離れる訳にはいかん。ここはわしの愛すべき場所だ。それに牛達もいる。何があろうとも動くわけにはいかんのだ。」
熱気が次第にこっちの方へと近づいて来る。
「母さん。熱いよ。」
もうこの場所は数分も持たないだろう。
「おじさん。ごめんなさい。本当は置いて行ってはいけないのだと思います。でもわたし達には家族がいるの。」
「ああっ。行きな。わしの我が儘にお前達を巻き込む訳には行かんからな。」
「すみません。」
言ってマアサーはおじさんをバックにして涙をこらえて二人の腕を引っ張り自分の家のある山へと登って行った。
暫く行くと木々の無い広場に出て、遠くには一見古小屋かと見間違える様な古びた家があった。
そこがマアサー親子が二人で住んでいる家である。
「ここは木々が無いから火が地面をくすぶる程度だと思うわ。でも対策しないと。」
言って物置から皮で出来たホースを引っ張り出して来て、ポンプに繋ぐなり地面やら家に水を撒き始めた。
だが風向きが変わり、大量の火の粉がこちらへと飛んで来る。その様子を目の辺りにし焦りながら水をま撒く彼女は森の方を見て言葉を失った・・・・・
「ふ、二人共逃げるわよ。」
言うなりマアサーは二人の腕を掴んで走り出した。
「何?母さん?家、燃えちゃうよ・・・・・家どぉするの??」
だがマアサーはフランツの言葉に複雑な顔を浮かべ、そのまま走り続けた。
「フランツ・・・今、人がいたよ。燃えてる森の中にフードかぶった人が見えた。牛小屋のおっちゃんかな?」
「え?人?」
ルイスに言われ、気にして後ろを振り向くが赤い炎が見えるだけで確認出来はしなかった。
「わたしも見たわ。あれは違う。あんな炎で荒れ狂った所を平然と歩く人間なんて見た事無いわ。嫌な予感がするの。このままルイス君の家へ行くわよ。」
マアサーのその言葉に二人は息を飲んだ。
ルイスの家はフランツの家よりも尚、上の丘の険しい所にひっそりと建っており、見る人から見ればまるで人目を避けて住んでいるかの様にも見えた。
「ふぅ~。到着。マアサーのおばちゃん大丈夫?」
ほぼ崖みたいな所を登って来た状態なのでマアサーはかなり荒い息をついていた。
「はぁ、はぁ・・・大丈夫よ。まだまだ子供には負けてらんないものね。」
彼女は顔面に汗を流しながら笑みを浮かべた。
「ちょっと僕、お母さん達に、おばちゃん達が来た事言ってくるね。」
言ってルイスはそのまま家へと向かって行った。
「なぁ母さん。ルイスは普通に入って行ったけど家の入口のドア開きっぱなしだよな。」
フランツはマアサーの肩を支えて家の入口で足を止めた。
「そうね開きっぱなしだったわ。
きっと、火が迫って来ているからルイス君を心配になって、皆さん外に出て行っているのかも知れないわね。」
だが一瞬マアサーの脳裏にさっきのフードの人がチラついた。
「お母さん達いないよ。皆どっか行ってるみたい。ちょっと外見て来るね。」
そしてルイスは家から飛び出て家の辺りを捜索し始めた。
「わぁぁぁぁぁっ!!!」
家の裏からルイスの悲痛な叫びが聞こえて来た。
慌ててマアサー達は裏へと周り駆けつけて見れば木々の下に生えた茂みの中でルイスの父と母と妹が寄り添うかのような態勢で血を流し倒れているのが見えた。
『な゛!?』
マアサー達は言葉を失った。
ルイスはその場に座り込み動かないでいた。
「おい!ルイス。おい!」
ほっぺたを何度も叩いてみるが反応は無い。どうやらあまりの衝撃な場面を目の当たりにして気を失った様だ。
「誰かが刺した跡の様ね。
フランツここも危ないわ。もしかしたらさっき見た怪しいフードの人間と何らか関係があるのかも知れない。
逃げないと。」
マアサーの言葉に無言で頷き彼はルイスを背負ってマアサーの後に着いて行った。
暫く歩くと岩がゴツゴツしている下り坂が見えて来た。
「母さん。気を付けて。ここから落ちたら真っ逆様だよ。」
「ええ。そうね。」
様々な恐怖のせいかマアサーの声が少し震えて聞こえた。
普段でもこの道は険しいとされ誰も通る者はないと言うのに、夜と言う事もあって足元も見えず三人にとっては最悪な状態だった。
フランツは足を止めルイスを背負ったままマアサーの腕をギュッとつかむ。
「母さん・・・・。目の前に人が浮かんでる。」
マアサーは彼に言われ上空を見上げると、そこには一人の女性らしい人の姿があった。
それを見て彼女は頭の中で色々と考えていた。
・・・・・・あれは何?人が空を飛ぶなんて見た事が無い。
でも昔、今は亡き夫から聞いた事がある。空を自由に飛んだり手から炎を出したり出来る人間がいるって・・・・。確か術者とか・・・わたしは空想の物だとしか思っていなかったけど・・・・。
まさかあれが術者で森に炎を放った者って事なの?
でもさっきのフードの人間と違う。
それじゃあ最低二人がこの事件に関与しているって事?・・・・・・
「ははっ。逃げても無駄だよ。野ウサギは狩られる物なんだからさぁ。さぁ、次はどうやって殺そうかねぇ。」
突然、上空にいる女性は楽しげにそう言い放った。
マアサーとフランツはあまりの恐怖で凍りついた。
・・・・この女がルイスの家族を殺して・・・・・
そう思うと何処からともなく怒りがわき起こり、フランツは恐怖を振り祓いマアサーの前に立った。
「何なんだよ。お前はぁぁぁっ!!!皆に何の恨みがあるんだよ!!!」
フランツの発言に驚いて慌ててマアサーは彼の口を手で塞いだ。
上空にいる女性は面白そうな顔をして。
「威勢の良いガキだな。良いぜ。特別に教えてやる。」
言って暫し間を置いた。
そんな事を言われ息を飲む二人。
「う~ん・・・
・・・・・・教えてやるとは言った物ただの暇つぶしだったりもするがねぇ。はっはっはっ・・・・」
・・・・・・・・・・暇つぶしに人間を殺したって言うのか?・・・・・・・・・
「馬鹿にするな!そんな納得出来ない理由で人が殺されて良いはずがない!!!オレは許さない!お前を絶対にゆる・・・」
ガラっ!
「!?母さん・・・・?!!」
それは突然の事だった。フランツのいた岩場が派手に崩れ落ちルイスと一緒にそのまま横の崖から真っ逆様に落ちてしまったのだ。
「フランツ・・・・・・!!!!」
マアサーの頭は真っ白になり、彼等が落ちた場所を目で追おうと下の崖を見下ろすが暗闇で何も見えはしなかった。
・・・・・・どうしよう。どうしよう。あの子達が崖から・・・・・
「あ~ぁ。あのガキ何かを言おうとしてた様だけど、ありゃ駄目だねぇ。確実死んでるな。
あんたも後を負わせてやるから感謝する事だな。」
上空の女性の話しなんて、我が子の事を気にするあまり彼女の耳には何一つ届かないでいた。
ガサッ!!
何時間が経っただろうか、薄らと日光が辺りに広がり始めた。二人は木の枝に挟まる形で助かっていたのだ。
ルイスを何とか地面に下ろしフランツは彼のほっぺを叩いた。
「おい!!おい!起きろ!でないと置いてくぞ。オレの母さんがピンチなんだよ。」
フランツの脳裏に嫌な物が何度も過った。でもその度、首を横に振り否定し続けた。
「うっうっ・・・・」
ルイスはゆっくり目を覚まし起き上がった。
「立てるな?」
目は虚ろで何の反応もない彼。
「ルイス?ルイス!!!しっかりしろ!オレに着いて来い!」
フランツは分かっていた。まだ幼いルイスの心が現実の重さに耐えきれないでいると言う事に。
そしてフランツ自身も先の事を思い脈の様に波打つ不安に幾度も襲われていた。もし思っている事が現実になっているのであれば自分の心もまた彼と同じ様にただでは済まないのかもしれないと。
ルイスは無言でフランツの後ろを歩きはじめた。
目の前には彼等が落ちて来た崖があった。見た感じ登れそうな崖だが今の彼等には登る体力は無く、ただただ登りやすい道を選んで歩いて行くしか手はなかった。
急がなければならないがルイスの事もあり急ぐ事が出来ない焦りや苛立ち。
「ルイス!!!!マジでしっかりしろよ!本当に置いて行くからな!・・・・くそっ!!!」
そんなこんなで夜中通って来た岩場の場所に戻って来たのは完全に日が上の方にまで登った頃だった。
フランツは唖然とし後悔に近い感情を抱いた。ここまでたどり着く間に、ここよりマシで安全な道が複数あった。見えない夜道とはいえ何故こんな道を通ったのだろうかと。
「ルイス。ちょっとお前ここで待ってろ。オレは母さんを探してくる。」
フランツは彼に声をかけるが首を縦に振るだけで反応は薄かった。
そしてフランツは岩場の一番高い所に登り周囲を隈なく見渡すと遠くの方で何やら布キレの様な物が見え、慌てて彼は歩み寄る。
彼にはその布キレが何なのか一瞬で分かった。
「母さん・・・の・・・。」
呟いて一瞬頭が真っ白になるが何とか持ちこたえ、焦りと緊張の中、更に周りを調べていたら岩の陰になった所に体中から血を流し息絶えている母の姿があった。
それを見て全身を凍りつかせ地面に倒れ込んだ。次第に涙がこぼれ落ちる。
予想はしていた。だが必死に否定していないと心が持たなかった。だがその否定は虚しく心で思っていた事が現実の物となった。ただただ空に向かって泣き叫ぶしか無かった。
日が西に傾いた頃、フランツは母の横に並んで寝転がっていた。
「母さん。雲が真っ赤で綺麗だね。日が沈んじゃうよ?お家に帰ろうよ。オレはいつでも待ってるから。」
彼は自分の腕で涙を拭き何も語らない母の横でそう呟いた。
「ねぇ。早く起きてよね。オレ、ルイス待たせてるんだよ。」
・・・・・・ルイス・・・・・・
自分の言葉にルイスの顔が脳裏を過る。
・・・・・・待ってろとは言ったが・・・心配だ・・・・・・・
パンッパンッ!!
彼は自分の頬を両手で叩き。
「母さん。ごめんオレ、ルイスの所に戻らないと。ごめんね母さん。後でまた来るから。」
そして彼はその場から立ち上がり元来た道を歩いて行った。
暫く歩くとルイスが、剣士らしき格好をしている髭面で髪がボサボサの中年男と一緒に歩いているのが見えた。
フランツは沈黙した。
「ルイス・・・・」
フランツの言葉に彼は少し反応するが黙りこんでいた。
・・・・・こいつは誰だ?何故ルイスと歩いて来た?・・・・・・
「お前は誰だ!?ルイスから離れろ!!」
彼は石を手に取り男に向けて投げる態勢になっていた。
こんな大惨事の直後、誰だか分からぬ相手を信頼出来る様な余裕は無い。
「おいおいおいっ!ちょっと待ってくれよ。オレは、あんたを探しに来たんだぜ。彼に言われてな。」
男はルイスの後ろに回り肩に手を置いた。
言われ頷くルイス。
「オレはお前が何処の誰で、何しに夕暮れ時に、こんな高原でも珍しい崖みたいな所を歩いてたのか?って聞いてるんだよ。言っとくがあんたが向かっているこの先には街なんかねぇからな。この崖降りたらただっ広い大地があるって昔噂で聞いた事あるしな。」
今だ石を捨てるつもりも無く敵意むき出しの彼を見て男は溜息を一つ付き。
「はぁ~・・・。面倒臭いガキだな。オレの名はマルクだ。ただの放浪の旅人兼一流剣士だ。」
・・・・・一流って所が嘘臭い・・・・・
疑いの目でマルクを見る彼。
「オレは元々、この近くにある街で宿泊してたんだが、起きたら外が騒がしくてよ。どうも原因が気になっちまう訳なんだな。なんて言ったって好奇心旺盛な年頃な物でな。はっはっはっ」
・・・・・変なおっさん・・・・
フランツは心の中でちょっと呆れた。
「って・・・・笑ってられないか・・・・。村の人間も全員全滅らしいしな。」
ガラッ。
手に持っていた石を地面に落とす。
「全滅って・・・・。村が?」
フランツはマルクの元に近付き腕の裾を掴んだ。
「皆死んだって事なのか?」
真剣な眼差しを向けられ問われ、目線を一瞬そらそうとするがマルクは彼の目をそらす事をやめジッと見て。言いにくそうに・・・・。
「ああっ。そうだ。全員殺されていた。炎に焼かれて死んだ人もいるし刺された人もいる。誰も生存者はいないって話しだ。
いや・・・・・いないと思われていた・・・だな。」
マルクはフランツとルイスの頭を撫でて笑みを浮かべた。
「お前等が生きてたからな。」
フランツは彼の手を振りほどき。
「おじさん。ちょっと来て。母さんが可哀想だから埋めなくちゃ。ルイスの家族も埋めてあげなきゃ。」
その言葉に少し反応するがルイスは相変わらず黙り込んでいた。
こうしてフランツの母はマルクの手によってルイスの家の裏に運び込まれ、ルイスの家族と共に埋葬された。
三人はその後、完全に日が沈んだ中隣街まで行き、マルクの泊まったらしい宿屋の食堂の椅子に座り遅めの夕食を静かに食べていた。
・・・・・・この後、どうしよう。家族もいない。知り合いもいない。どうやって生活したら・・・・・・。母さんだったらこんな場合どうアドバイスしてくれるんだろう。母さんなら・・・・・・。
フランツは色々と考えを巡らせている内に、次第に寂しくなり涙が食べかけの卵スープの中にこぼれ落ちる。
言葉をかけようとするマルクだが何を話して良いのか分からず断念し無言で肉を口に運んだ。
マルクはふとルイスが何も食べていないのを目にし・・・・
「まぁな。ゆっくりで良いからな。」
言ってマルクはルイスの頭を撫でた。
キィっ!
食道に若い女性と年老いた男性が現れこちらへと向かってくるのが見えた。
「マルクさん考えて頂きましたでしょうか?」
二人はマルク達の前で足を止め、若い女性はマルクにそう話す。
マルクは目をつぶり口を開く。
「施設にいてノビノビ暮らすのもオレは良いと思うぜ。でもなオレはこいつ等の家族になってやりたいんだ。」
何の話しをしているのか全く分からないフランツ。
「でもですね。あなたは放浪者で子供達を養う為の安定した収入もないのにどうやって生活するつもりなんですか?そんなのは理想でしか無いんです。現実を見て下さい。」
問われマルクは笑みを浮かべ。
「成る様になる。なぁお前等。」
何故か同意を求められ焦りからか目が泳ぐフランツ。
「まだ小さい子供達を丸め込もうとしないで下さい。」
鼻の息を荒げて今にもマルクに突っかかって行きそうな女性。
「まぁまぁ。子供達の話しも聞いてみては如何かな?」
隣にいた老人はニコニコ笑みを浮かべ二人の間に入り込む。
「町長・・・・・。」
何か不満そうな女性。どうやらこの老人はこの街の町長の様だ。
マルクはフランツとルイスを交互に見て。
「まぁ何だ、簡単に言うとだな。お前等二人は本来ならば、孤児として孤児院へ行かなければならない。」
・・・・・な゛っ!?・・・・・・
言葉を失うフランツ。
孤児院・・・・・、金持ちがたまに気に入った子供を選抜して連れて行く所。
良い人に当たれば良いがたまに虐待の対象として連れて行かれる子供も多いと言う。もちろん子供には決定権など与えられはしない。
「嫌だ!孤児院なんて!」
「どうして嫌なの?」
女性に問い返されフランツは手に持っていたフォークを彼女に突き付け。
「どうしても!」
ここで理由を説明したって丸め込まれるが落ち。ならば理由も相手には分からないあやふやな言葉で言い切った方が得策だろうとフランツは考えた。
思った通り理由が分からず困った顔をする女性。
「ならお前等、このオレと共に世界を見ねぇか?」
・・・・・このおっさんと世界を?・・・・・
「旅をしながら剣だって教えてやるぞ。」
・・・・・剣?・・・・・
「剣を教えてくれるのか?」
聞き返すフランツ。
「ああっ。このオレは一流だからな。オレから学んだらお前も一流になる事間違い無しさ。」
自慢気に話すマルク。
「ち、ちょっとそんな野蛮な事で誘惑しないで下さい!
孤児院の方がずっと健やかでいられるわよ。将来に向けての教育だって受けられるし。」
フランツは女性の話しかけかけに応じはしなかった。頭の中はそれ所では無くなっていたのだ。
剣の腕があれば、もしかしたら母さんとルイスの見たって言うフードの奴とあの宙に浮いていた女を倒して復讐出来るかもと彼は思っていたからだ。
「おっさん。オレはあんたに着いて行くぜ。もちろんルイスもだ。」
マルクは笑みを浮かべた。
「おう。そーかそーか。」
言ってマルクはフランツの頭を軽く撫でた。
「・・・・・と言う訳だ。後はオレに任せてくれるよな。施設のお嬢さん。」
マルクの言葉に彼女は目をギラつかせ。
「納得いきません!こんな流れ者の様な方に子供達を預けるなんて・・・・・
町長!何とか言ってやって下さい。子供達の将来がかかってるんですから。」
だが町長は笑みを浮かべ、フランツとルイスの頭に手を置き。
「まぁまぁ、この子達自身そう決めたのならそれで良いじゃろう。」
「しかし町長。この子達はまだ何も分からない子供で・・・・」
「何も分かっていないと本気でそう思っているのかね?この子等は君が思っている以上に色々と考えていると思うよ。
確かこの子はレスチャー家の長男だったな。」
町長に言われ考える彼女。
「レスチャー家って父親が早くで他界して母親一人で子供を育ててるとか言う結構有名な?」
・・・・・有名だったのか?オレ達家族は・・・・・・
そんな事を言われてフランツはちょっと驚いた。
「そう、その一家じゃ。
そしてよく職業上このワシの耳にも入って来たよ。そこの子等も一緒になって大人顔負けな位、働いてたってね。
そんな大人の仕事もこなす様な子供達に何も分からないなんて言ったら失礼じゃないかね?」
その発言に言葉を失う彼女。
「そう言う訳だ。君達は好きな時にこの街に戻ってくれば良い。
後は全てあなたにお任せしました。」
言って町長はマルクに一礼し彼等に背を向け出口へと歩き出した。
そしてマルクは町長の背中に向けて軽く一礼する。
「もうっ。知りません!!」
言って施設の女性もその場を後にした。
そして再び静かな食卓へと戻った。
「しかし恐い姉さんだったな。
なぁルイス。」
マルクは笑いながらルイスの肩に手を置いた。
首を縦に振るルイス。
マルクは何やらこっちに向けられる視線を感じ彼はフランツの方に向き直る。
「どうした?」
フランツは口を開いた。
「ホントに良いのか?オレ達二人はこれでも成長盛りなんだぞ。あの、おばちゃんが言ってた事も一応筋は通ってる。
おっさん一人でオレ達の面倒見れるのかよ。
まぁ、オレもなるべくおっさんの負担を減らす為に頑張るつもりだけど。」
するとマルクは笑みを浮かべた。
「何とかなるって言ったろ?成る様になるさ。
それに子供はいらん心配はしない。若い頃から色々考えてると将来頭ハゲるぞ。はっはっはっ」
「ぷっ」
今まで黙っていたルイスが突然笑い始めた。
フランツとマルクは互いに顔を見合し。
「ルイス!お前今笑っただろ?ルイス!ルイス!」
フランツの言葉にルイスはぎこちないが笑みを浮かべた。
「そうだね。僕も前へ進まなきゃ駄目だ。でないと色々考え過ぎて頭はげちゃう。」
笑みを浮かべるがルイスの目から大量な涙が溢れ出した。
マルクはそっと大きな腕でルイスの体を包み込んだ。
つられてフランツも急に眼から涙がこぼれ落ち彼は席を立ちマルクの側でルイスと共に泣いた。
マルクはフランツもそっと大きな腕で包みこんだ。
「泣け泣け。思う存分気が済むまで泣けば良い。」
そして翌日、三人は町長と事情を知っている街の人に見送られながら街を後にした。
「ルイス。もう大丈夫か?」
高原のただっ広い大地を歩きながらフランツはルイスの顔を覗き込んだ。
「大丈夫。おじさんの髪の毛見てたら嫌な事少し忘れるから。」
ルイスはマルクを指差した。
「ホントだ。まるで蟹だな。蟹。」
「えっ?オレの髪がどうしたって?」
後ろを振り向くマルク。
「寝癖だろ。みっともねぇ。」
嫌味混じりの言葉を投げかけるフランツ。
「うっせぇっ。これはオレの芸術作品なんだ。お前等には芸術なんて理解出来んだろ。」
・・・・・・理解したくねぇし。でも・・・・・・
フランツは、ルイスが笑っている所を見て彼もまた笑みを浮かべた。
「はいはい。そぉ言う事にしといてやるよ。」
そして彼等三人の旅が今始まった。




