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私が学校の屋上から見た空から降り注ぐ光はとても綺麗でした。

 今朝はとても憂鬱な気分だった。最近、なにかこう刺激的なことがないばなかりに私は退屈していたから。

 勢いよく振り下ろした手で目覚まし時計を止めた。


 家族におはようの挨拶を告げると食卓に用意された朝食に手を伸ばす。こんがり焼いた食パンと目玉焼き、ベーコン、サラダ、牛乳と普通の朝。


「がらがらがら…っぺ」


 洗顔と歯磨き、うがい。寝癖があるけれど、直す必要はない。だって、どうせ誰も私のことなんて気にしてないから。

 ふかふかなタオルに顔を沈めた。


 制服に着替えて学校に行く準備を整えた。


「いってきまぁー……」


 廊下からリビングにいる家族に伝えようとした行ってきますが途中で止まった。バカっぽく口を開けたまま私はテレビに気をとられていたんだ。


「312回に及ぶ発射、合計718発のミサイルにより、巨大隕石の軌道が変わってからおよそ1ヶ月が経ちました。今日午後三時頃、隕石の欠片が空を流れ星のように横切るのが見えるとのことです。いくつかは地球に落ちてくるとのことですが、欠片はどれも小さく大気圏突入時に燃え尽きるとのことです」


 半年前、地球に向かってくる巨大隕石が発見された。ニュースの報道通り七百発くらいのミサイルで軌道を変えたけど。それまでは、世界の終わりだってすごい騒がれてた。

 ぼうっとしてた私に父が声をかけた。


「んん?どうした、七花ナナカ

「なんでもない。行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 ちょっとだけ私は楽しみだった。ニュースで言っていた流れ星のように空を横切ってゆく隕石の欠片のことが。

 通学路の空を眺めながら、ほんのすこしだけ笑っていた…かもしれない。


 学校、前まで隕石の話題で持ちきりだったのに今はもう過去のこととして話にあがることはなかった。私は最初から話す人、いないけど。

 机に額をつけて顔の回りを腕で囲って、周囲から自分を切り離した気分になった。


 授業中に私は先生の目を盗んでイヤホンをしていた。聞いていたのはニュース、隕石の欠片の情報がすこしでも欲しかったから。隕石が見えましたなんて言葉を聞いたら私はきっと、飛び上がって教室を抜け出し屋上へ走るだろう。

 退屈な授業に心の底からため息が一つ。


 昼休憩、私はお弁当を屋上で食べていた。おかずをひとつ飲み込んでは上を見て、ご飯を一口飲み込んでは上を見た。食べ終えてからは寝転がって、時間の限り空を見ていた。

 私は勢いよく立ち上がった。まるで跳び跳ねるみたいに。


「今…の」


 青白い光の線が空に一瞬描かれてかき消えてしまった。その一度を最後に次は見れなかった。たぶんあれだった。隕石の欠片。

 騙されたような気分になった私は教室に戻った。


 期待はずれの隕石のせいで午後はより憂鬱になった。授業も半分…ほとんど聞いてなかった。確かに期待はずれだったけどまだ諦めきれない私はやっぱりニュースを聞いていた。窓の外も見ていた。

 今か、まだか。まるで恋をした乙女にでもなったような心持ちで隕石の欠片を待った。


 やっぱりあれがそうだったんだと、諦めた今日の放課後の教室。空の青と夕日の赤が共存する時間。教室の窓から眺めた空は不思議と綺麗に見えた。

 私は突然、夢中で走り出した。


「おい水樹!廊下を走るな!」


 先生の怒鳴る声が聞こえたけど、無視して走った。


 屋上にたどり着く頃には息を切らしてまともな呼吸じゃなかった。すごく汗をかいていた。久しぶりに走った気がする。

 私は屋上に仰向けに倒れ込んだ。大の字になって、空を見た。


「やっぱり…思った通り、すっごく綺麗」


 空から降り注ぐ光はとっても綺麗だった。それらはすべて隕石の欠片。私は高揚感というか刺激というか…そう嬉しいと、きっとそう感じてた。

 でも、泣いた。


 時間が止まったんだ。たぶんそうだった。だって、目の前まで来ていた隕石の欠片がそこにあるんだもの。きっと私以外は止まってたんだよ。

 私の上には、頭をちょっと上げればすぐぶつかってしまいそうなところには、青白い炎の上がるいびつな形の岩があった。皮膚が焦げてゆく気がする。痛くはない、熱くもない、ほんのり暖かいだけだけど、感覚が無くなっていくのははっきり分かった。

 私は怖くて、泣いた。大声をあげて、今までにないくらい。泣いた。

 私よりも遥かに大きい隕石の欠片は、じりじりと私を焼いた。燃やした。灰にした。指が崩れ落ちた。服がチリになった。片目が見えなくなった。右手が動かない。胸が熱くなってきた。どうして私がって、泣いた。流れた涙は頬の上ですぐに蒸発した。逃げようとした。足がなかった。

 私に恐怖を教えるためか、死を伝えるためかは知らないけど、理不尽に止まっていた時間は動き出した。その後のことは分からないけど、たぶん私は死んだんだと思う。

 朝起きて、学校行って、授業を受けて、帰ってきて、お風呂入って、寝て、また起きて。普通のことを普通にしていただけの私なのに。どうしてこんなことが起きたんだろう。運が悪かったのかな。見たかっただけなのにな。


「綺麗だったな…」


 そう見たかったんだ。私の周りはいつも、言ってしまえば灰色のようだった。つまらない、退屈なことばかりの世界しか知らなかった。でも、そんなある日、隕石の欠片が降ってくるというニュースを聞いた。つい今朝のことだよ。私はそれを刺激的ななにかの始まりのように感じてた。そうでなくても、きっと綺麗なんだろうなって思ってた。それで、実際に目にしたら思ってた通り、いやそれ以上に綺麗だった。何かが変わる変われる気がした。それがまさか死んじゃうなんて、信じられないよ。こんなところで、終わっちゃった。まだ、したいこと、やりたいこと、たくさんあったのにな。


「…もう…、なんにもできないなんて、いやだなぁ。やりたいことできてないのにっ。誰かと恋だってしたことないのにぃ!まだ、死にたくなかった!もっと長くいきたいよ!いやだよ、嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!私は幸せになりたかったあぁぁぁああああ!」


 涙が止まらない。


「ああああぁぁぁぁぁぁああああぁぁーーー!」


 叫んだ。泣いた。力の限り、思いを、けれど誰にも何も届かない。


 いずれ泣きつかれて少女は眠りについた。

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