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雛守で 一話 出会った日

 あるよく晴れた日のこと。狂気の闇コルーと無垢の闇ナキキはハートマンの障壁内にある都市タルカスペルク、その中心にある館の中で遊びという名の戦いを繰り広げていた。


「きゃはは!やっぱりコルーおにぃと遊ぶの一番楽しい!」

「はっ!それはよかった!さあ!まだまだゆくぞ!」

「きゃはは!あはは!」


 魔法の閃光やぶつかり合う武器が散らす火花、爆煙に暴風と館内はてんやわんやだ。


「とっておき、いっくよー!!」

「む!イト-セブド-クラーパ!」


 金属の壁を即時展開したがナキキのとっておきは簡単には防げず、闇魔法の巨大な渦がコルーに直撃した。


「だはー!なかなかやるではないか!ナキキよ!我輩の魔法を上回る攻撃とは!…は?」


 そこは、先ほどまでいた館でもタルカスペルクでもなかった。それどころかダニアでもない。いや、そんな次元の状況ではなく、更にもっと違う。世界が?


「ふむ」


 明るい昼間の公園にただ一人、顎に指をあて考え込むコルー。

 ここは一体…。ナキキは転移魔法を使えない。それを扱えるのはハートマンのみ。しかし、あの場に居たのは我輩とナキキだけである。となると、原因は我輩?だが、ナキキの魔法が発動、我輩を吹き飛ばしたと同時にここに。


「まったく、訳が分からん」


 答えが分からない以上は、たまたまタイミングが合っただけで他に原因があると考えるべきだろう。まあ、まずは情報収集だな。ここがどこなのか知らなければ。

 ちょうど、公園前の通りを少年が歩いていた。ランドセルを背負っているので小学生だろうが、コルーはそんなこと知らないだろう。


「おい!そこの少年よ!」

「うん?え?僕?」

「そうだ。君だ」

「えっと、おじさん。何か用?」

「ここがどこか知っているか?」

「とんぼ公園」

「すまない。質問が悪かったな。ここは何という国で、ここはどこなのか教えてくれるかな?」

「日本の北海道、ここは雛守町だよ」

「に、にほん?少年、ダニア…いや、レンチュリス帝国を知っているか?」

「れんちゅ…なに?僕は聞いたことないよ」

「なん、だと…?!」


 帝国は、誰もが知っている有名な国だ。どんなに離れていてもその名を一度も聞いたことないわけがない。


「少年。この近くに、図書館はあるだろうか?できれば、案内してほしいのだが構わないか?」

「いいよ」


 そうして少年に導かれ雛守図書館へ。道中はもともと居た場所とは似ても似つかない光景に溢れていた。家の見た目、人々の服装、看板の文字、乗り物、何もかもが違う。


「ついた。ここが雛守図書館だよ」

「感謝する。少年よ」

「うん。じゃあね」


 コルーは、幸いこの国の言葉や文字が理解できたので図書館で、歴史について調べ回った。

 何ということだ。我輩の知らぬことばかりではないか。あれだけの大事を、ダニアのことを記載しない歴史書があるものか!先程の少年といいこの歴史書といい、この町といい…どうやら我輩は、異世界転移とやらをしてしまったようだ。


「ふふっ」


 この状況は実に。面白いな。我輩が何故この世界に迷い込んだのか、そして戻り方などは分からぬままではあるが、楽しむとしよう。となれば次は拠点が必要だな。この図書館は…流石に年中開いている訳はないだろう。公園…野宿と変わらぬではないか!人を襲いそこに住むのもできないことではないが、それではこの国の衛兵である警察とやらに捕まってしまうだろう。さて、どうしたものか。


「考えるのは後だな」


 図書館が開いている間は、情報収集に専念するとしよう。しかし、閉館はいつであろう?

 たまたま後ろを通りかかったおばさんに声をかけ雛守図書館の閉館時間を尋ねた。


「確かねぇ、午後四時半だっかかね」

「そうか、感謝する。ご老人よ」


 現時刻は午前九時、時間は十分あるな。まずは、そうだな。この国の法律について知るべきか。

 法律、常識、語学、文化、この日本という国がどのような場所なのかを本から知った。そして、魔法の存在が架空のものと位置付けられていることも。

 ほう。魔法がない、いや見つかっていないのか。…これは、ランドセルというのか。小学生とやらが身に付けるものということは、あの少年は学生であったか。

 コルーは、日が暮れるまでできるだけ多くの情報を集めた。館員に声をかけられもう閉館だと聞き、はじめて日が落ちていることに気がついた。


「すまない。熱中してしまった」


 そうして図書館を後にし、特に行くあてもないのでとんぼ公園に戻ってきた。


「ふむ。今日はまあ、野宿は仕方あるまい。…ん?」


 日が暮れ真っ暗になりそうだった公園に街灯の明かりが灯る。そして、空からは白くて冷たい何かが降り始めた。


「雪…」


 寒さを感じぬ。世界が変わろうと不死の体は健在のようだな。

 特にどうすることもなく、コルーはとんぼ公園にたったひとつだけある横長ベンチに寝転がった。ここが今夜の寝床となるだろう。




 たった数分で、雛守中に雪の絨毯が完成した。

 うたた寝していたコルーはぱっと目を覚まし、なんとなくあたりを見渡すととんぼ公園の街灯の下、真っ白な雪の絨毯の上に一人の少女が呆然と立っていた。

 吐く息は白く、指先と頬はほんのり赤く。街灯に集まる虫を?夜空に瞬く星を?少女は見上げている。

 ランドセル、ということは少女も小学生か。だが、こんな時間に何故ここにいるのだ?子供には堪える寒さのはずなのだが。

 時計を見ると短い針は9を示していた。コルーは颯爽と起き上がり、少女のもとへ歩み始めた。


「こんばんは、肌の白い少女よ。そこにいては寒くないか?」


 そのときのコルーはまるで小学生の少女を狙う誘拐犯かなにかの様だった。


「誰?」

「我輩はコルー」

「…?」

「立ち話もなんだ、座ろうではないか」


 コルーの寝転がっていた横長ベンチに少女を誘導し、二人並んで座った。するとコルーは指から魔法で炎を出し少女の前に設置した。


「これは?」

「気にするな。だが触ると熱いから気をつけたまえ。これくらい離れていればちょうどいいか?」


 少女は空中に浮かぶ炎をじっと見つめている。警戒はなぜかしていない様子だった。


「こんな暗い時間になにをしていたんだ?」

「……」


 なにも話そうとしない少女、コルーは余計に不思議に思った。ナキキのように素直な子供ではないとも思った。仲間以外とあまり話さないコルーには、この少女とどう接すればいいか分からなかった。


「…てた」

「なに?」

「雪を、見てたの」

「そうか。しかし、今の時間まで外にいるのは良くないと思うぞ。少女よ。子供は弱い、病気になってしまう」

「いいよ。病気になっても」

「なぜだ?」

「誰も気にしない」

「そんなことはないと思うがな。少なくとも我輩は気にする」

「…そう」


 とんぼ公園の時計がゴーンと低く響く音を発し、10時になったことを知らせた。それと同時に少女は立ち上がり、歩いていった。


「帰るのか?」


 振り返り小さく頷いた。


「こんな暗い夜道を少女一人は危険であろう」


 特になんの反応も見せず少女は再び歩き始めた。


「気を付けるのだぞ」




 次の日の朝。きっと登校時間なのだろう小学生達や黄色き旗を持った大人達が公園前の通りをたくさん歩いている。数名の子供は降り積もった雪にはしゃいでもいた。

 ここは、通学路であったか。しかし…。

 だんだんと通りの人はまばらになり、ついには誰も通らなくなった。

 おかしいな。案内をしてくれた少年と肌の白い少女が通らなかった。二人にとってここは普段通る道ではないということか?あるいは、遅刻というやつか。少女に限っては風邪の可能性も。少々、心配だな。まあ、考えたところで答えは出まい。さて、今日はそうだな、拠点となる場所を探すために町を見て回るか。

 雛守町、散策開始。スタート地点はもちろんここ、とんぼ公園だ。昨日、雛守図書館で入手した雛守マップを頼りに歩き回る。

 雛守町役場、町並みは古いのだが役場は真新しい。デザインはなかなか個性的、有名な芸術家に依頼したと看板に記載されている。すごく目立つ。

 雛守図書館、役場の隣にある。特に変わったところはないが、とても大規模。役場の3倍ほどだ。

 交番と雛守警察署、コルーにとっては避けるべき場所。

 七方字路、道が七つの方向に別れていてそれぞれ食事処や電気、家具、服など道ごとにジャンルが決まっている。

 ななつ公園、雛守町に三つある公園のひとつ。ちなみにあともうひとつは、あかし公園という。

 町立雛守小学校と中学校、雛守唯一の学校。おそらく二人が通う学校だ。小学校と中学校は隣り合わせで建設されている。

 ここが、小学校とやらか。図書館から近いな。


「あ」

「ん?なんと、肌の白い少女ではないか」


 かなり遅れて登校してきた少女は校門前に立っていたコルーを見て立ち止まった。


「うむ。よかった」

「……?」

「なに、風邪をひいていないようだからな」


 きょとんとした表情のまま、じっとコルーを見ていた。不思議だったのか意外だったのか、首をかしげた。


「どうかしたか?」


 学校の鐘が鳴り響いた。


「あぁ、引き留めてすまない。さあ、学校へ行きたまえ」

「聞かないの?」

「なにをだ?」

「遅れたわけ」

「今は学校に行きたまえ。聞いてほしいならば、とんぼ公園に来るがいい。我輩はそこにいる。ではな」


 コルーは再び町散策へ向かった。そんな彼の背中を眺めつつ、少女は学校に入っていった。

 あの傷、ただぶつけた程度のものとは思えぬ…。

 少女の足には大きな青アザがあった。ほとんどスカートで隠れているがちょっとした動きで見えるときがある。

 茜山、雛守町のどこからでも見える大きな火山。温泉が湧いていたときがあるらしい、これのおかげで以前は町は賑わっていた。現在は活動を停止し温泉も止まり、山の麓には廃墟となった温泉旅館が幾つも存在する。上からの眺めは絶景。

 白道スケート場、駅のすぐそばにある。時折、無料解放をしていてスケート靴を借りることもどきる。ここの管理人は管理のゴンさんと町民から親しまれているらしい。

 雛守駅、特になにもない普通の駅。ただ、駅長は猫がやっている。


「にゃぁーん」

「なんと」


 ふむ。拠点となりそうな場所は茜山麓の旅館廃墟のみか。今日にでも人が寄り付かぬよう結界を張りたいところだが、今行けば少女が公園に来るまでに戻れそうになさそうだ。先に公園へ向かうか。




 そうして公園へ…ではなく図書館へやってきた。訳としては、流石にまだ早すぎるだろうということで時間潰しに図書館へ来たコルー。


「ふむ。どうしたものか」

「あら、今日もなにか調べごとかい?」

「おぉ、ご老人」


 以前に図書館の閉館時間を教えてくれたおばあさんが声をかけてきた。


「今日はただ暇を潰しに来ただけだ。呆然としているよりは有意義だろうからな」

「立派ね」

「ところでご老人よ。ひとつ聞きたいのだが、我輩はどこかおかしいところでもあるだろうか?」

「なんだい急に」

「先程まで町を見て回っていたのだが、じろじろ見てくる人が多くてな」

「それは、服装が原因じゃないかい?」

「我輩の服装はどこか変なのか?」

「変ということじゃないんだけどね。あまり見ない格好だからねえ」

「あまり見ない…か」


 ぱっと見はスーツのようだが、実際着用しているのは執事が着るようなタキシード。おまけに白手袋なので正直、目立つ。

 確かに、我輩と同じ格好の者は町で一切見かけはしなかったな。魔法で偽装することは可能だが、長い目で見ればこの世界の服があった方が便利だろう。


「ご老人。近くに服屋はあるか?」

「すこし遠いけれど、七方字路かねぇ」

「そうか。感謝する、ご老人」


 七方字路は図書館からも公園からも離れている。服のことも後回しだな。

 適当な本を手に取り、時間潰しに読み始めたコルー。その本は生き物について詳しく書かれたものだった。

 これは…狼か。この世界にも存在したか。




 数十分後、下校時間が近づいてきたのでとんぼ公園に戻ってきた。ベンチに座って待っていると、通りに小学生の姿がちらほら見られるようになってきた。道案内をしてくれた少年の姿もあったが、公園を見回したあとすぐに来た道を戻った。

 忘れ物か?声をかけようかと思ったのだがな。

 未だ溶けずに残る白い雪を眺めていたら睡魔に襲われ眠ってしまった。


「…」


 肌の白い少女は眠った彼の隣に座った。しばらくその状態は続き、約一時間後。

 うたた寝していたコルーはぱっと目を覚ました。辺りを見渡し隣に少女が座っていることに気付きすこし笑う。


「おぉ、肌の白い少女よ。待たせたか?すまない、我輩はすこし寝てしまっていたようだ」

「いい、別に」


 コルーは炎を少女の前に設置し、話始めた。


「来た、ということは聞いてほしいので間違いないか?」

「…いい」

「ふふっ、そうか。ならば遅れた件については訊かん。だが、少女よ。その足の傷はなんだ?」

「…」

「以前、この公園で会ったときは無かったであろう」

「なんで、分かったの?」

「学校で会ったとき、たまたま見えた。なにがあったのだ?」

「関係ないでしょ」

「話してくれたまえ、少女よ。我輩にできることならなんでもしよう」

「どうして?」

「我輩はな…もう、友人を失う悲しみを味わいたくはない。もし我輩がなにか行動を起こせばそれは止められたはずだ…と、そのような後悔をもう二度としたくはないのだ」


 ナキキ。あのとき、我輩が止めていれば運命は違ったはずだ。ナキキは闇であったからあのような結果となったが、少女は人間である。失えば終わりだ。


「友人…私が?」

「違うのか?会って、話合い、会う約束までして、友人でないと言う方が嘘であろう」

「名前も知らないし、年も離れてるし」

「年が離れていても名前を知らずとも友人にはなれよう。それとも、少女の中で友人というものは互いに名前を知っていることなら、我輩にその名を教えてはくれぬか?」

「…つき…」


 言いかけて口ごもる。すこし下を向き考えて答えが出たのかコルーに向かって。


「…月城未来」


 と、言った。

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