プロローグ
大切な人がいて、大切な約束をしたのは確かだったんだ。
俺は早朝の街道にいた。歩きながら肩越しに、朝霧を貫く日の光に目を細め、どこか一点を見ていたのを覚えてる。
きっとそれは、何かとてつもなく大切なものだったはずだ。
絶対に忘れない様にと、強く脳裏に焼き付けるために、一度きつく目蓋を閉じたのを覚えてる。
けれど。
けれど、一体何を焼き付けようとしたのか。
今はもうわからない。
どんなに思い出そうとしても、目蓋の裏に蘇るのは、ただ明るい乳白色の朝靄と、それを貫く光だけ。
焼き付けようとした一点は、朝陽の光に消えていた。
「……また、あの夢」
俺はゆっくりと目を覚ました。
また夢をみた。同じ夢だ。もう何度目になるかわからない程、俺は同じ夢をみていた。
…光の夢だ。
まだ、鳥のさえずりも少ない早朝。真っ白な朝靄の中、俺は街道を歩いていて、乳白色の空気を裂いて朝陽が昇るのをみている。
いや、朝陽じゃない。朝陽の中にある何かをみている。そんな気がするが定かではない。
とにかく俺は、朝靄の、緑と水気を含んだ土のにおいを感じながら、溢れんばかりの朝陽の中歩いていた。
どうしてこんな夢をみるのか。
自殺願望でもあるんだろうか。
これがもし夢じゃなかったら、今頃俺は死んでいるというのに。
俺の本性は吸血鬼。ヴァンパイヤ。
ニンニクが苦手で、聖水が嫌いで、教会に入れないあのヴァンパイヤ。
銀の十字架で胸を刺されると永遠の眠りにつき、朝陽を浴びると焼け死んでしまう、ヴァンパイヤなのだ。
なのに夢の中での俺は、光の中にいるというのに、焼け焦げることも溶け出すこともなかった。
気管支を焼くはずの朝の空気はただ冷たくて、指先はかじかんでいた。
不快感は無い。
むしろ清々しく、それから、少し切ない感じがした。
なんで切ないのか、わからないのだけど。
どうしてだろう。
違和感に悩まされているうちに、光の洪水に押し流されて目が覚める。
…いつもその繰り返しだった。
俺は、窓から離れた寝台の上で延びをした。
起き上がり、髪の毛をかき混ぜる。
床の冷たい感触を確かしかめながら立ち上がり、滑らかな木目を擦るように歩を進め、カーテンのかかった窓辺に立つ。
ゆっくりとカーテンを開けた。
そこには、さっきの夢とは程遠い、星の瞬く濃紺の空が広がっていた。
これからが俺達の時間。
初めての投稿です。緊張っす!(>_<)支離滅裂だったらごめんなさい。