【絶望の入口~架想世界~】
「誰かが望んだ世界。本当は許されない世界……存在してはならない世界」
気持ちのいい温度の水に足をつけて、交互にバタつかせると少女の髪についた鈴が揺れて、辺りに鈴の音が響き渡った。少女はやがて静かに歌い始めると、それを遮るかのように扉が開いた。
「リンカ様。参加希望の方がお待ちです」
「わかった……すぐに行く……」水から足を上げると、「水に足をつけてはならないとあれほど……失礼します」リンカの従者である女性が文句をいいながらタオルで足を拭く。
「ごめんなさい。水がこの世界で一番本物みたいで好きだから触れていたかったの……」
リンカが扉を開いて舞い込んできた風は本物のように見えて、本物ではなく、流れゆく雲はそこにあるようでどこにもないものであった。架想世界と呼ばれるこの場所は、ある人物が作りあげた架空の世界であるため、全てが偽物であるとリンカは思っていた。
リンカは、この世界に閉じ込められている少女で、ここの管理者である。この世界で生活をしているプレイヤーからは色々な呼び名で呼ばれているが、管理者であり可愛らしい容姿をしていることから姫神とも呼ばれている。
「貴方の望みが叶うかは貴方次第よ。これからのことに幸多からんことを」
プレイヤーというからにはこれから生死を賭けたゲームが待ち受けている。幸なんて優しいものは、この世界にはないのだ。
・・・
「お疲れさまでした。いかがでしたか?」
「今回のプレイヤーも儚いものね……」
「すぐにダメになるかもしれないと?」
「ええ。長くはないと思うわ。モンスター指定にしておいて」
「わかりました」
リンカの役目は二つ、一つ目、この世界の全てを管理すること。一日、二十四時間で回っているこの世界をちゃんと管理できるようにリンカには人間に必要なはずの基本的な生活習慣はなく、食事も睡眠も形だけでしかすることができない。睡眠に関しては一度もしたことがなかった。二つ目、プレイヤーの権限授与判定。プレイヤーの権限授与判定とはこの世界で生きる上で必要な権限を外から来た人間に与えるか判断することで、その権限授与には規定があり、・**に余裕のある者・望みが揺らいでいない者・ここに来た目的が明確であること等があげられ、規定に当てはまらないものは、形だけプレイヤーの権限を与えられるが、他のプレイヤーからは狩り対象となる。狩り対象となったプレイヤーは狩られた時点でゲームオーバーとなる。
「泡沫に消えゆく願い……ここにいる人間たちの想いが泡のように消えていってる。なにも知らずに……」
「胸を痛めないでくださいねリンカ様。プレイヤーの中には望んでこの世界にくる人間もいます。とてもリスクがあることなのに自分の命を投げている人がいるんです。そんな連中なんかに……」
「わかってる、痛めてないわ。ただ、真実を知った時、人は絶望せずにいられるのかなって思っただけ」
プレイヤーは望みを叶えるために自分がこの世界に来るまでに犯した罪を償うために、この世界に度々出没するモンスターを倒していかなければならないのだ。モンスターを倒すとリンカからアイテムをもらうことができ、架想世界とはいわば、RPGに近い世界で作られていて、リンカ曰く、その方が管理しやすいんだとか。
ゲーム参加の代償は大きく、プレイヤーの多くはそれを知らずにデスゲームに参加している。リンカの言う絶望とは、その代償と、プレイヤーに知らせていない真実のことだった。