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最後の色  作者: するめいか英明
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第3話

「あなたは最後に何を見たいですか?」


 電車内のディスプレイに表示されているそのキャッチコピーは映画の広告だった。光を食べる架空の生き物の侵略により世界から光が失われていくという内容で、経緯は違うもののまさに現在を予見していたかのような作品だった。それが200年以上も昔に作られたのだというのだから驚きである。100年ほど前に1人の映画ファンが日記に紹介記事を書いたところ、当時の人々の関心と合致したため一気に注目を集めたのだった。何度も色々な監督がリメイクを行い演出に多少のアレンジが加わることもあったが、おおまかな筋立ては原作のまま残り続けた。それが最近またリメイクされ、こうして現在も広告が人々の目に止まっている。


 ふと電車の減速を感じ窓の外に目をやると、降りる駅はもう間近に迫っていた。窓から覗く世界もまた、「灰色」だった。


 色がなくなっていくだけならまだ良かった。人々の目は次第に視力を落とし、明るささえも感じにくくなっていった。眼球のピントがずれているわけではないので、機器による視力の矯正も叶わなかった。ただ、光を目で認識することが少しずつ難しくなっていった。世界が少しずつ暗くなっていた。僕らの生きる現実は、奇しくも映画と同じ道を歩んでいるようだった。


 恐らく、あの映画はもうリメイクされないだろう。先程の広告が薄く消えかかっていたのは、車内のディスプレイが古いからではない。僕らの目がもう識字できるぎりぎりまで衰えているからだ。映像媒体は特に人が視認しやすいよう工夫が施されている。それでももう限界ということだ。実際映画産業はほとんど廃れた。近い将来、誰からも目を向けてもらえなくなるような作品を作る動機が薄いからだ。


 それでも人々の趣味の1位は昔から変わらず映画鑑賞である。元々は単に無難な趣味としてアピールできるから挙げられていたものに過ぎず、当の映画館はたいてい空席が目立ち、レンタルもさほど人気ではなかった、と何かで読んだ。それが今となっては「見えるうちに色々なものを目に焼き付けたい」と思う人が増え、映画館はいつも満員だ。映画業界の興行収入自体は映画史上類を見ないほどの好調ぶりだというのに、映画産業が自主的に撤退を始めている現状が物寂しかった。


 もしかしたらもう僕は映画を見ることがないかもしれない、と思った。そう感じてしまうと不思議なもので、もう見飽きているはずの先程の広告が頭をよぎった。今週末にでも、妻と一緒に見に行こうかな、と思った。僕が手荷物を一瞥し、忘れ物がないことを確認するとちょうど電車が動きを止めた。


 僕は電車を降り、先程まで窓越しに見えていた「灰色」の世界の一部となった。

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