夜の街を飛ぶ
とにかく、とにかくこの日常から抜け出したかった。
別に強い不満がある訳ではないし、むしろ生活の質でいえば問題ないどころか十分過ぎるだろう。毎日ちゃんと帰る場所があり、寝床がある。三食規則的に食べられているし、家事のほとんどは母親がやってくれる。
帰ってくれば既に夕食の準備は終わっているし、食後も特に手伝いを要求されたりもしない。だらだら過ごして風呂に入り、それなりに暇を潰して、寝る。
そしてまた、朝を迎えるのだ。
カーテンから漏れる朝日の光が一日の始まりを告げる、いつもと変わらない、最高に幸せで、最悪の朝。
気怠く、生暖かい生活で、生きている実感もない。学校に行けば順位、優劣、格差、勉強勉強勉強。
感受性や、いまや個性などという言葉はなんの意味もなさない授業の学校のシステムは、在校した時間に比例して僕を容赦なく駄目にしていく。
傲慢で、高圧的で、腹黒くて、嘘と見栄で塗りたくられた気持ち悪い笑顔と、くだらない戯言や虚言が飛び交う空間は、一秒ごとに心をズタズタに切り刻んでいく。
全員死んでしまえばいい。心でそう唱えながら過ごす生活も慣れた頃、僕は思い立って行動することにした。
この世界のすべてを、壊してしまおう。
学校の屋上で、某つぶやきサイトに書き込んだ。
不思議なもので、ネットワークはしっかり誰かに繋いでくれるものなのだ。
「私も、そうなればいいと思う」
埋もれそうな情報の中で、その文字列を見つけただけで僕はもう、生きている事の意味や無意味さを知る事となった僕は、今夜。
世界と別れる為に、夜に溶けるのだ。