退院日
「やっと退院か〜」
「足も完全復活…まさかこんなに早く完治されるとは思っていませんでした」
夜な夜なエンハースで治癒力向上させてたからね、うん。それによりまさか予定より5日早く退院出来るとは思わなかった。
「どうもありがとうございました」
「いえいえ、それでは」
お医者さんに会釈をし、俺は部屋を後にした。これから便利グッズ時計に送られてきた、メールの添付地図にしたがって寮にいかなくちゃならない。本当に万能アイテムだなこれ。まさか拡大機能まであるとは…恐るべき魔族の技術の発達だよ。
「ここか…」
実際今日は学園の登校日だと、ソフィアから聞いていた。着いてから思ったが誰もいない寮に勝手に入っていいのか?
しかし、それにしても東京の豪勢な街にあるアパートみたいな綺麗さだな。
「しょうがないよな」
俺は中に入るため、手前の認証システムに触れる。すると簡単なや扉が開いた。案の定引っかかると思っていたため少し驚いた。
「誰もいねぇ」
登校してるんだから誰もいない。当たり前といえば当たり前。しかし書き置きくらい欲しかったな。
さてこれからどうするかな?
寮にずっといても暇だし、どっかに行きたい。そうだな、前情報によるとフィエンドは観光名所や娯楽施設が沢山あるらしい。いってみる価値はありそうだ。荷物はここに置いてこう。
「散歩と洒落込むか」
寮の広間に荷物を置き、僕は寮を後にした。
「確か、こっちの方へ行くと海岸沿いに出るはずだよな」
地図を確認しながら歩く。思えば署長へ挨拶をしに行けばよかったかもしれない。あの人に善行を見せつければ、得すると思う。でもここまで来たし、それは今度にしよう。
「って、あれ?」
広がる海の景色…とそこには地図に載ってない見るからに怪しげな店があった。何か気になる。俺は引き込まれるように、店内に入って行った。
「いらっしゃいませ」
「えっ、あっ、はい」
俺を出迎えたのは、黒紫色の長髪に花の髪飾をつけた女性であった。ウェイトレスの格好が、その麗人の魅力を引き立たせているようにも感じた。
「こちらにどうぞ」
案内されるがままについていく。でもいいのだろうか?ここってバーみたいな雰囲気がするが…
「ご注文は?」
メニューも出さずにこたえろと?意味がわからん。
「あの、メニューは?」
「お好きな血液型、もしくは魔族派ですか?」
何の話か余計わからなくなった。でも、もしかして…この女性は吸血鬼か?だったら何か辻褄があうように感じる。
「あの、もしかして血液の話しをしていらっしゃいます?」
「それ以外何がありますか?」
確信にせまられたぞ、おい。どうしたものか。何か妙に女性からの視線がいたい。今更間違えましたなんて言いづらい。適当に話しをそらして誤魔化すしかないか…
「えっと、あの、用事思い出したので帰ります」
「そうですか。では、またのご来店をお待ちしております」
席を立ち上がり店から脱出する。何事もなくてよかった…しかし、あの女性は終始ジト目でこちらを見ていた。気づいていておちょくっていたのか?そこまで深く考えなくてもいいか。
『結局来てしまった…』
誰の案内もなしにこの街を歩くのは危険だなとさっきの事で思い知った。日本の常識はもしかしたらここの非常識じゃないか。
てなわけで、結果署長たちの仕事場「エレメンツ本部」まで歩いて来てしまった。あの謎の血を売っていた店から近かった。
「行きますか」
魔族の警察署ってだけあって建物はいいつくりだ。見上げて屋上がどこにあるかわからないくらい高い。
早速署領内に入る。
「立ち止まりなさい」
そりゃ止められるわな。検問にひっかかってしまった。でも……
「新しくコフィクのメンバーになった浅間蒋です。あの、署長から許可貰っているのですが」
こうなることを予想してか、署長から通行手形ーー便利時計を渡されていたのだ。それに気づいた検問官は一礼して通してくれた。
早速内部に入る。
「遅かったね、蒋君」
「えっ、あっ、はい」
なぜだ?なぜ署長がエントランスにいるんだ。アポをとった覚えはない。まさか、来ると先読みしていた?
「その通り。君はどうせここに来るだろうと思っていたよ。それより、君に渡したいものが幾つかある。きたまえ」
署長は手招きしたので、署長の後を追いエレベーターに乗った。
ついたフロアはなんと、和室であった。
「なんですか、ここ?」
「和室だ」
そんなこと聞いてない。日本から来て和室を知らないなんて事はない。しかし一体なんなんだよここ。
「実は僕は日本が好きでね、署長室を改築して和室にしたんだよ。まぁ、座りたまえ」
「しっ、失礼します…」
署長室ってこんな事していいのかよ!とツッコミたかったが、立場上署長は上司。逆らうわけにはいかない。
署長が指差す座布団の上に正座する。
「早速だが、その腕時計の調子はどうかね?」
「ええ、良好です。本当に便利ですね、これ」
「そうだろ。技術部門の尻を叩いて作らせた珠玉の一品だからな。それと、ソフィアのとは形が違うのだが、知っていたか?」
「はい。彼女は確かペンダントでしたよね」
「そうだ。だが、まぁ、本題はこれじゃない。ちょっと待っていてくれ」
署長は立ち上がり、奥のクローゼットをあさり始めた。数分後俺の前へと戻ってきた。
「君の仕事は仮にといえど警官だ。それには私服や制服で現場に向かわれては困る。というわけで、これを君に渡そう」
そう言うと、署長は僕にズボンと上着を渡して来た。ズボンは黒一色だが、上着は違っていた。黒を基調としたデザインに、赤いライン、それと骨のエンブレムが装飾されていた。海賊がつけそうな骨のエンブレムなんかを警察がつけていいのか?悪魔だからセーフなのか?
「これ、くれるんですか?」
「ああ。サイズは君に合わせておいた。どうせ制服なんてないのだろう?それを制服がわりにしてもOKと学園がわから許可がおりている。ソフィア君もコフィクの服を制服にしているし、君もそうするといい」
「はい」
便利な服だこと。そういえば、はじめてソフィアに会った時も、この服に酷似した服をきていた。
「それともう一つ渡したい物がある。それは本だ」
今度は本を渡して来た。「悪魔伝」なんと簡素な名前だろう。
「その本には魔族の歴史と、ここフィエンドの歴史が記されている。暇な時にでも読むといい。話は以上だ。仕事の際は連絡する。その時は期待している」
「はい。期待にこたえられるようにがんばります」
「いい返事だ。確か今日学園は早く終わると聞いた。寮に帰ってみるといい」
「はい、それでは」
俺は立ち上がり部屋からでる。そしてエレベーターを降り、エントランスへ行き、署を後にした。
目的地は寮だ。
「浅間蒋か…どう思う?署長」
「彼はかなりの素質の持ち主かと」
署長の後ろから1人の女性が歩いてくる。
「都市長。わざわざ隠れる必要はないのでは?」
「いや、彼に正式に会う前に偵察しとこうかなと思ってね。彼は知り合いの養子なんだよ」
「はあっ。そうでしたか」
「そうなんだよ。まぁ、期待しようか。彼の今後の活躍に」
都市長はスタスタと歩き、部屋を後にした。残された署長は、「蒋」が何者か、不思議でしかたがなかった。




