第六話 『バカーっ!』
第四章
『君の部屋は本当に質素だな。まるで明日にでも自殺しそうな人間の部屋だ。いやまあ……男の人の部屋に入るのなんて初めてだから、その……男の子の部屋というのは皆こんな感じなのかな?』
いや、俺も他人の部屋なんて入ったことねえから分かんねえよ。
そんな風に答えたと思う。
確か、俺が自分の風邪に気付かず、部屋で倒れてしまった時のことだった。
体調の違いが判らなかったのだ。
元気も体調不良も、俺の中ではあまり違わなかったのだが、体は当然のように不調を訴え、見事に頭から、フローリングの床に突っ込んでしまったのを覚えている。
そんな時に、俺の携帯の数少ない電話番号から着信があった。
語部。
表示された名前を見てから電話に出ると。
『バカーっ!』
と言われた。
学校に連絡を入れていなかった俺を心配して、連絡くれたらしい。
とりあえず、現状を報告すると。
『すぐ行くから、布団に入って温かくしてなさい!』
そんな、お母さんみたいなことを言われた。
まあ、俺のお母さんはそんな台詞言ってくれたことないのだが。
その後、語部が来て。
『一人暮らしが風邪を引いたら、まず人を頼れよ……。まったく、君は本当に危うい。少し目を離したら、その間に屋上から飛んでしまいそうな危うさだ』
「かの優等生様が、学校サボったりして良いのかよ?」
『良いんだよ。私は困っている友達を見捨ててまで、単位が欲しいとは思わない』
そんなカッコイイ台詞を吐きながら、看病をしてくれた。
正直、俺としては、体調はいつもと変わらないので変な気分だったが。
とりあえず、寝て。
起きたら、おかゆが目の前にあった。
『君のことだから、朝ご飯もロクに食べてないんだろ? 少しぐらい腹の中に入れといたほうがいい』
「…………ありがと?」
『なぜ疑問文なんだ?』
「いや……つか、まだいたのか、と」
『め、迷惑だったかい?』
というよりも、こんなに心配してくれる奴が、今までいなかったんだけどな。
だから驚いていた。
「いや、嬉しいよ」
これが嬉しいという感情かどうかは、定かじゃなかったけれど。
この高揚感は、それでいいんだろうと思った。
俺がそう言うと、語部は「そ、そうか……」なんて呟きながら顔を赤くしていた。
風邪でも、うつしただろうか。
マスクマスク。
その後、語部の作ってくれたおかゆを食べた。
申し訳ないことに、美味しいと不味いの違いがハッキリしない俺には、その本当の美味しさは分からなかったけれど。
そんな野暮なことを言うほど、人間やめているつもりもなかったので。
美味しい、と。
多分、まったく理解出来ていない、そんな言葉を遣った。
語部は「……ありがとう」と言ってくれたけれど。
果たして、俺はうまく言えただろうか。
上手にウソを、吐けただろうか。
笑えていたのだろうか。
俺は……。
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