第三話 『なあ、語部』
第二章
『私はね、愛川。人の噂と言うのは花火のようだと思っているよ。静かに音を立てながら上がって、どこかで発火点が来て爆発する。その瞬間はとても綺麗だ。だが、火の粉は今度は静かに、人々に降り注ぐのさ』
昔、語部がそんなことを言っていたのを思い出す。
一年の夏。
ちょうど、色々な怪談が学校中で流行っていた頃だった。
当時、あいつはそういう類の噂が、あまり好きではなかった。
今思うと、妖怪や霊、悪魔なんかが、人の噂によって捻じ曲げられていくのが、好ましくなかったのだろう。
今思うと。
今さら思っても、もう手遅れだけれど。
それでもあいつはここにいて。
俺もそれが、そこそこ心地良かったんじゃないかと、錯覚してみた。
でも、やっぱりそれはただの勘違いだ。
自分勝手な思い込みだ。
だって、あいつは死んでしまった。
『私はね、人間が怖いよ』
そう言っていた彼女は、人間の手によって殺された。
もしくは鬼の手によって……。
死んでしまった。
「…………」
学校は賑やかだった。
あちこちで噂が噂を呼び、風に吹かれては消えていく。
少なくとも、語部了子がいたころよりは、賑やかになっていた。
騒がしく、騒々しいとも言えるが。
クラスの席は、二人分。その役割を全うしていなかった。
そういえば、いつも近づいてこないクラスメイトが、矢継ぎ早に質問を繰り返してきた。
変わったところはなかったのか。
なにか言っていたとか。
殺人鬼に会いに行くとか。
悪魔と対決するとか。
そんなことを聞かれた。
中には、お前がやったんじゃないか? なんていう意見もあったくらいだ。
否定はしなかった。
別に、俺は彼女と特別親しかったわけじゃない。
ただ、二年間……正確には一年と三か月くらい、クラスが一緒で、時々いっしょに昼飯を食べる。
その程度の関係だった。
そんな俺に聞かれても困るというものだ。
彼女はきっと、俺の事も、他の奴らと平等に扱っていただけなのだ。
区別が付いてないのはどっちだ。
お前には、友人の区別なんて付いてなかったんじゃないか?
なあ、語部。
お前も、間違ってたんじゃないのか?
考えても無駄だということは、すぐに分かった。
そして全てが、均されていく。
語部の存在もまた、有象無象の一つとなる。
気づいた時には、もう手遅れだった。
俺は涙も流さないまま、語部了子について、考えるのをやめていた。
一人、食堂に向かう。
そういえば、独りきりの昼食は久しぶりだと思った。
何を食べよう。
そんなことを考えていたとき、ふと、デストロイハザード盛りが目に付いた。
牛丼の。
ためしに注文してみる。
なあ、語部。
お前これ、どうやって食ってたんだ?
コメントをくれると、作者は弾けて喜びます。