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第二十四話 『I came back,Scalping LOVE』

 学校に行き、普通に授業を受ける。

 去年まで二つの席が空いていた教室は、もうそこにはなかった。

 三年生教室。

 特に何が変わるというわけでもなかったけれど、それは新鮮だった。

 何より、去年から生徒会役員として活動していたせいか、圧倒的に人と話す回数が増えたと思う。

 もう教室に、俺を疎ましいと思う人はいないようだった。

「…………」

 授業中にボーッと考え事をする。

 これだけは、今でも健在的に発症していた。

 …………そういえば、万全くんが死んだらしい。

 独房の中で、不思議な自然死を果たしたらしかった。

 絶望死、とでもいうのだろうか。

 原因不明の急死だったらしいが、その死体は、にこやかに笑っていたらしい。

 彼なりに、納得のいく死に方だったのだろう。

 万全明理。

 俺に愛を教えてくれた人。

 語部の自殺を自分の責任に思い、自首をした変な奴。

 彼なりの、ケジメだったそうだ。

 後は、語部の名誉のための。

 彼女が自殺だと、バレないための巧作だったらしい。

 結局、彼のおかげで語部了子が自殺死だったと気付いたのは世界で俺だけとなった。

『彼女に自殺は、似合いませんから』

 そんな風に言っていた。

 恥ずかしそうに、優しく苦笑して。

 どこか冷たさを混じえながら。

 彼は笑った。

 結局、語部の一件については、不明な点がたくさんあったが、そんなことは関係がなかった。

 鬼瞳曰く「あっそ」である。

 そんなことは、考えても仕方がない。

 そんなことを考えるくらいなら、今日これから控えている鬼瞳パパとの対面に緊張しているほうが、まだ有意義だ。

 あの事件は、完結しなかったけれど。

 日常は、続くのだから。

 時は過ぎて、やがて風化し。

 きっと俺も、語部のことを忘れるときがくるのだから。

 それは当然の帰結だった。


 そう、終わったんだ。


 終わりだったんだ。


 ――今日、この日までは。


 昼休みに入り、食堂に赴く。

 今でも昼食は一人でとっていた。

 クラスメイトなんかに食事に誘われることはあるのだけれど。

 今でも俺は一人、食堂でカレーうどんを食べていた。

 何となく。いるはずもないあのクラスメイトが――友達が、ひょっこり現れて、俺の前に座るような、そんな気がしたのだ。

 そんなはずは、ないのだけれど。

 だが。

「何かあったの?」

「ああ、愛川さん」

 食堂へ行くと、そこには物凄い数の人だかりが出来ていた。

 どうしたというのだろう?

 まさか、ついにみんな食堂のカレーうどんの美味しさに気が付いたのか?

 だとしたら、戦争だな……。

 まあ、そんなわけはないだろうと、近くにいた生徒会の後輩に声を掛けた。

 これまた何の因果か、彼の名前は万全(まんぜん)定理(ていり)

 万全明理の弟だった。

 生徒会の会計で、メガネをかけた好男子。

 万全くんの面影は、彼の中にくっきりと残っていた。

「ラクガキ……みたいなんですけど……」

「ラクガキ?」

 定理くんは心配そうにそう言う。

 食堂の内側の壁を見ると、確かに何か書かれているようだった。

 赤い文字で。

 食堂の壁いっぱいに。

 まるで血のような色の『何か』。

「なんだろね? なんて書いてあるの?」

「それが……『I came back』って……」

 近づく。

 その赤色に。

 そして見える、死の形。

 その文字。

 その意味。

「それと、意味は分からないんですけど、その後に『Scalping LOVE』って……そんな熟語ありましたっけ?」

「……………………いや」

 俺は、どこかその綺麗な筆記体に見覚えがあった。

 そして、近付けば近付くほどにその恐怖は増大していく。

 『I came back,Scalping LOVE』

 それは、文法として間違っている綴り。

 だから、その文字に意味はない。

 そもそも、その文字が表しているものに意味がないのだから、仕方ないけれど。

『I came back』

『帰ってきたよ』

 誰かの声が聞こえる。

『Scalping LOVE』

 意味のない言葉。

 単語の羅列。

 しかし、俺はその意味をしっていた。

 それが表す意味も、それによって表される意味も。

 ――――知っていた。

 直訳で。

『愛、皮剥き』

 ――――愛川無機。

 それは、俺と彼女だけが知っている言葉――――


「帰ってきたよ、愛川」


「っ!?」

 まるで後ろから。

 背後から聞こえるかのように、その声は俺の近くにあった。

 思わず、後ろを振り返る。

 けれど、そこにいたのは定理くんで。

 彼女の姿は、ない。

「…………」


 ――終わってなかった。


 何も。


 終わってなかったんだ。


 嬉しいはずなのに。

 喜ばしいはずなのに。

 そこにあったのは、恐怖だった。

『帰ってきたよ、愛川』

 食堂の壁いっぱいに書かれたその文字は。


 俺には、まるで死神からの手紙に思えた。


 ああ。


「おかえり、語部」


 ……ふと。


 自分がそう言ったのに。



 ――――気が付いた。




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