第十四話 『消えた、と』
四獅子市で電車に乗る前に、朝早く出かけて語部の殺害現場に赴いた。
鬼瞳が俺がいるのに着替えを始めようとして、逃げるような形で部屋を出てきて、やることもないからと足を運んだのだ。
ただ。
ただそこには、何もなかった。
例の魔法陣はあった。
確かに不思議な幾何学模様の図形が血で、路地のアスファルト目一杯に書かれていた。
けど。
それしかない。
ここに来る前に、昨日鬼瞳が無職の男を殺した殺人現場を見てきたのだが、あれは確かに殺人現場だった。
血の跡が今でもくっきりと地面に残り、刑事ドラマで見るようなAやらBやらわけの分からないコーナーも立っていた。
だが、語部の方はそうではなかった。
血の跡がない。
肉片がない。
奇妙なコーナーもなければ、死体の姿勢を取るためのテープも見えなかった。
しかし、どちらもそれこそ刑事ドラマさながらに黄色いテープが張られ、まだ野次馬とみられる連中が何人か見て取れる。
かくいう俺も野次馬なわけだが。
そういえば、昨日鬼瞳に「なんであの男を殺したんだ?」と聞いた。
鬼瞳はそれこそ失笑しながら答えてくれた。
暴行を……受けたらしい。
正確には未遂だけれど。
もう三日も家に帰っていない鬼瞳を、家出少女と勘違いした男が声をかけてきたのだ。
エンジョコウサイだとか。
バイシュンコウイだとか。
そんな単語をニュース以外で初めて聞いた。
まあ、だからヤられる前に殺れと。
要するに正当防衛だったそうだ。
明らかに過剰防衛だけど。
『このあたしが、愛するもの以外をそんな簡単に殺すわけないじゃない?』
そんな風に言っていた。
あの殺人鬼、無駄に高いポリシーをお持ちのようだ。
聞けば、この一週間の連続殺人も、大体がそんな感じの誘いを断るための防衛行為だったそうだ。
いや、少しは手加減してやれよ……。
グチャグチャにする必要はねえだろ。
「…………」
とりあえず、魔法陣を携帯のカメラで撮っておく。
友人に見せるためだ。
いや、ツイートするとかじゃなくて、個人的に。
まあ、アイツならこんなものすら必要としないだろうけど、一応。
…………そういえば。
語部の殺人現場に群がっていた野次馬がこんなことを言っていた。
消えた、と。
死体が消えたと、そう言っていた。
…………死体が消えた?
まさか…………
「……………………………………語部?」
コメントをくれると、作者は恥って喜びます。




