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面接

作者: 花咲 甲二郎

電話対応をしたその人であろうことは声で気づいた。電話でのやりとりで井原と名乗った女性は黒縁で厚いレンズの眼鏡をかけた、ブスだった。カードキーを使いスイングドアを内側へ押すと、こぢんまりとした会議室に案内された。


「こちらにお座りください」

落ち着いた声で言い小さな紙を渡される。上の方に入室許可申請と横文字で記されている。名前と住所、電話番号を書くように言われた。


なるほど入室管理を徹底しているたいそうな会社なわけだ。

あの女に少し苛立ちを覚えた。自分よりも年下だと思われるのに見下した様な態度が気に食わない。でも事務員にそんな感情を持ってもしょうがない。入室許可書を書き終えると会議室を見渡した。黄土色のテーブルを挟んで、キャスター付の黒い椅子が三つずつ向かい合っている。左側の壁にはめ殺しの窓が付いていた。四方の壁に飾りつけは無かった。


音も無くドアが開くと書類を抱えた井原が入ってきた。

「では杉崎譲二さん、面接を始めます」

 すっと向かいの椅子に座ると女性は言った。てっきり事務員だと思っていたので頬が引きつるのを我慢した。


―――しかも一人かよ

今朝シュミレーションしてきたことと状況が違う。焦りを感じたが気を取り直して戦闘体制に入った。

「なぜ弊社に入ろうと思ったのですか?」

履歴書を見ながら言った。

「御社のグローバルな活躍に感銘を受け、採用試験を受けようと・・・・・」

いくつかの質問に無難に答えていった。なんのミスもない。しかしよくもこんな嘘八百が言えるよと自分に感心した。


 冷静なのはそこまでだった。緊張がほぐれて相手を観察するゆとりが出たときに視線が胸元で止まった。膨らみが半端じゃない。女性の容姿の評価は当然顔が大きな得点になるが胸の大きさにより点数が三割増すのだ。不細工でも許容範囲が広がるのである。

 はめ殺し窓から太陽の光が井原に当たる。空が晴れてきたのだろう。会議室の埃が太陽光線に反射して空中に舞っている。それすらも演出の一つに感じた。櫻吹雪の中に佇むくノ一がひとり、落ち武者へ哀愁漂う視線をこちらに向けている。鼓動のリズムが早くなった。


「面接は以上です。こちらの試験を解いてください。時間は三十分です。」

我に返った俺に井原は少し怒気のこもった声で言った後、会議室から出ていった。渡されたテスト用紙に名前を書こうとしたときに鉛筆を持参していないことに気がついた。


 入室許可書は井原から借りたペンで書いたのだった。相変わらず落ち着きがないな、俺は。


 しょうがない、あきらめよう。切り替えの早い俺は椅子にふんぞり返った。ふと見上げると腰高のはめ殺し窓からとなりのビルが見えた。椅子を押して窓の下に置いた。椅子に登り外の景色を眺めた。隣のビルは熱反ガラスのため、中の様子は見えない。

「何をしているの」

突然の声に驚き窓の下枠から手を離した拍子にキャスター付の椅子は壁にぶち当たり、俺は床に腰を打ちつけた。


「大丈夫ですか」

駆け寄ってしゃがみこんだ井原から、香水の匂いがした。

つまらない言葉しか頭に浮かばない。どうしよう。とっさに俺は言った。


「緊張していただけに、オチつかない・・・のです。」

かなり間を置いて井原はクスクスと笑い出した。それにあわせて胸も揺れた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ぬう、なるほど。最後のは上手いと思いました。 実際にはオチがついていますが、とりあえず彼のその後は採用で決定でしょう。 面接は緊張するというより僕は見ず知らずの他人と話すのが「怖い」です。我…
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