その1 料理人編 第2話:復活の仕組み
イナンナが所属するエララ機構は、千年以上前から存在しているが、地球で「復活事業」を開始したのはごく最近のことである。そのため、機構の存在を知る者はまだ多くない。
なお、「復活」とは、超自然的な死者蘇生ではない。高度な技術を用いて、別の時空に生きている人物を、こちらの時空に一日だけ招待する仕組みである。
例えば、山田太郎が我々の時空(時空A)で死亡していたとする。しかし別の時空(時空B)では生存している。遺族が料金を支払えば、イナンナは時空Bの山田太郎を時空Aに招待し、「一日だけ復活した」状態を作り出すことができる。
したがって、この復活サービスには以下の制約がある。
1. かなり前に死亡した人物は、死亡当時の年齢で復活するわけではない。例えば20年前に30歳で死亡した場合、復活時には50歳になっている。
2. 極端に昔、例えば80年前に死亡した人物は、全時空の山田太郎がすでに老衰で死亡しているため、復活できない。
エララ機構は現在、1億を超える並行時空を開発済みである。よって、ある時空の山田太郎に復活を拒否されても、別の時空の山田太郎が承諾すれば問題ない。そのため、復活サービスが失敗した例は、これまで一度もなかった。
しかし今回、イナンナは大きな問題に直面する。
小林健楽は、胎児の時点でダウン症と診断されていた。そのため、ほぼ全ての時空において人工妊娠中絶の対象となり、存在していない。それらの時空の「母親」は小林健楽と面識がないため、利用規約第3条に違反し、復活対象として選定できない。
イナンナは1億以上の時空を検索したが、健楽を出産する決断をした「母親」は、もう一人も見つからなかった。現在、システムの検索進捗率は99.99%に達し、残る時空は1万を切っている。
(今回ばかりは失敗かもしれない。この結果を、利用者にどう説明すればいいのか。まさか、「あなたは、ほとんどの時空でゴミのように葬られました。あなたの価値を理解できた唯一の人間、つまりあなたの母親は、もう亡くなっていて復活できません」とでも言うのか。)
残り30時空を切ったところで、突然システムに緑のランプが灯り、ブザーが鳴った。待機可能な被復活者が、確かに一人、見つかったのである。
イナンナはようやく安堵し、候補者のデータを手に取り、どのように招待をおこなうべきか検討を始めた。
(この時空の小林千代子は、15年前に小林健楽を叱ったことが原因で家出され、それ以来、息子は一度も家に戻っていない。以来、毎年、家出したその日にカレーを作り続けている。これはつまり、小林健楽に再会したいと、極度に強く望んでいる証拠に他ならない。)




