表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『青薔薇の毒名録(The Blue Rose Codex)』 — 毒と理想、愛と記録の交わるところに。  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/70

“任務としての王子暗殺阻止”

王城の作戦室には、夜の余熱がまだ残っていた。

壁に浮かぶ揮発波形のホログラムは、青薔薇事件の余韻を示すように、

時折、不規則な靄を走らせている。


その前に立つ王子アレスレッドは、

昨夜よりもさらに静かで、深く沈んだ香を纏っていた。


やがて彼は振り返り、クラリッサを呼ぶ。


「クラリッサ。

 青薔薇の背後を追う。

 ……君の分析が必要だ。」


その言葉自体は、これまで幾度となく聞いたものだ。

命令でも、依頼でも、いつもの調子。


だが――

クラリッサの胸の奥に落ちたその声は、

まるで鋭い刃が静かに突き立つようだった。


(……“必要だ”。

 殿下は知らない。

 私が必要とされる理由が、

 彼の望む理解や協力ではなく――

 “外世界の命令”に基づくものだということを。)


ホログラムの光が王子の横顔を照らす。

その輪郭は、世界の揺らぎを睨む者の気配を帯びている。


彼は気づかない。

自分の言葉ひとつで、

クラリッサの立場がどれほど重く締めつけられているかを。


クラリッサは、あくまで平静に一礼する。


「……承知しました、殿下。」


その声は凪いだ水面のように静かだった。

しかし、その下には、深く沈む渦があることを

王子はまだ知らなかった。


クラリッサは、

わずかに顎を引き、一礼した。


「……承知しました、殿下。」


その声音には揺らぎがない。

ただ任務を受け取るときの、

完璧に整えられたプロフェッショナルの響きだけがある。


だが――

胸の奥では、別の声が冷たく脈打っていた。


《M-0:王子暗殺を阻止せよ》


外世界からの絶対命令。

王子には届かない、観測の外にある“冷たい指令”。


(……私は殿下の意志に従うのではない。

 この世界のためでもない。

 外世界の“観測”を守るため――

 殿下の死を、必ず阻止する。)


王子の香が揺れる。

それは彼自身も気づかぬまま発している、

不安と決意の入り混じる淡い色。


その揺らぎと目の前の青年を、

クラリッサは真っ直ぐに見つめ返す。


外側の世界から与えられた使命を胸に隠したまま。


その瞳は静かで、忠誠にも似て見える――

しかしその実、

彼女の従順さは“殿下のため”ではなく、

“任務のため”に選び取られた冷たい姿勢だった。



クラリッサは、王子の前で静かに一礼したまま、

胸の奥底へ沈んでいく思考を誰にも悟らせなかった。


その深淵で、

三つの矛盾が鋭く交差している。


(……私はあなたを守る。)


その言葉は、

優しさでも、忠誠でも、憧れでもない。


CIA時代、

死地の任務に赴く前に自分へ言い聞かせた、

ひどく乾いた**“職務の声”**。


(この世界のためでも、あなたのためでもない。

 任務として――。)


彼女は理解している。


王子アレスレッドは、この世界の軸だ。

死ねば揮発構造が崩れ、世界は自壊する。


だが同時に――

彼の思想は永続を求め、

この世界を“観測不能の闇”へ閉ざす最初の火種でもある。


(あなたの死は、世界を壊す。

 でも……あなたの理想も、世界を壊す。)


相反する二つの破滅が、

同じ一点――王子という存在に集束している。


避けるためには、

その中心に立つしかない。


王子の死を阻止する護衛。

王子の理想を制御する毒。

外世界の観測者。


その三つを同時に満たす立場など、

クラリッサ以外にはいない。


(だから私は……

 あなたを守りながら、あなたを止める。)


祈りではなく、誓いでもなく。

ただ、任務の論理だけが彼女を支えていた。



王子の前で静かに佇むクラリッサの影は、

その細い輪郭とは裏腹に、

三つの異なる“立場”を背負って揺らぎもしなかった。


まるで、

この世界の均衡をひとりで支えているかのように。


◆ 1. 王子暗殺阻止のための護衛


――《M-0》が命じる、絶対の使命


王子アレスレッドの死は、

この世界の揮発構造そのものを崩壊させる。


揮発しすぎた世界は自壊し、

外世界からの観測すら不可能になる。


だからクラリッサは、

王子を「守らねばならない」。


それは忠義ではなく、

感情でもなく、

ただ淡々と遂行すべき任務。


(あなたを死なせない。

 世界のためでも、あなたのためでもない。

 外世界の論理のために。)


彼女の護衛は、

どの侍衛よりも確実で、

そして本人が最も望んでいないかもしれない“保護”だった。


◆ 2. 王子の改革を暴走させないための“毒”


王子の理想は――

揮発社会を永続化へと向かわせる。


永続は美しく見える。

だがこの世界にとっては“法則の改変”であり、

外世界にとっては“観測不能領域の誕生”に等しい。


クラリッサは、

王子の隣に立つことでその勢いを制御し、

必要とあらば鈍らせる“毒”となる。


王子の信頼を得ながら、

その理想を抑制するという矛盾。


(私は、あなたの理想を殺すための“毒”……。)


◆ 3. 外世界の観測者(調整者)


揮発しすぎてもいけない。

永続しすぎてもいけない。


どちらに傾いても、

この世界は破綻する。


ゆえに――

クラリッサの判断ひとつが“揺らぎの値”を調整し、

世界の行方を左右する。


その立場は、


観測者

調整者

そして、必要なら破壊者


すら内包していた。


(私は……誰の味方でもない。

 世界の均衡だけが、私の任務。)


こうしてクラリッサの中で、

“三つの立場”が静かに確立する。


王子はまだ知らない。

自分のすぐ隣に立つ女が、

この世界の命綱であり、

最初の毒であり、

外世界の眼そのものだということを。


ChatGPT:


クラリッサは、王子の前で静かに佇んでいた。

姿勢は乱れず、呼吸の深さひとつ変わらない。

だが――その胸奥では、何かが決定的に凍りついていく。


◆ E. 内心の決意が、彼女の表情を凍らせる


クラリッサ(内心)


あなたを助けるのでも、

 味方するのでもない。


任務が、彼女の呼吸から温度を奪っていく。

揮発の世界において、彼女ほど“揮発しない意志”は稀だ。


私は“世界の観測者”。

 あなたの生命と理想を、

 どちらも壊さない場所へ誘導する……

 それが、私の任務。


それは祈りではなかった。

願いですらない。

ただ、外世界の論理が与えた“絶対値”。


クラリッサの瞳は静かに光を失い、

氷のような無機質さだけを残す。

その冷たさは、世界の揺らぎを測る精密機器のようで、

人間らしい温度を欠いていた。


感情を捨てれば捨てるほど、

彼女は――この世界で最も危険な存在になっていく。


揮発しない意思。

外世界の命令を背負った観測者。

均衡を乱す者がいれば、王子であっても切り捨てる覚悟。


なのに。


王子アレスレッドは、その氷のような表情を“誤解”する。


冷たさを、有能さと忠誠の証と見なし――

その危険性に気づかぬまま、

さらに彼女を側近として迎え入れようとする。


そのすれ違いは、

静かに火種のように積み重なり、

まだ誰も知らない第二幕の崩壊音へと繋がっていく。


世界の均衡は、今この瞬間、

クラリッサという名の“冷たい意志”に託されたまま、

音もなく揺れていた。


クラリッサは、王子アレスレッドの隣へ一歩進む。

肩幅一つ離れた位置に立ち、彼と同じ文書へ視線を落とした。


だが――彼女の瞳が映すものは、王子のそれとはまるで違う。


王子は未来を見ている。

クラリッサは“未来を削る方法”を見ていた。


その差は、まだ誰にも分からない。


クラリッサ(内心)


(私は――あなたを守りながら、

 あなたの理想を殺す。)


静かで、あまりにも無慈悲な決意。

だがそれは、彼女にとって唯一の均衡点だった。


この瞬間、

王子の傍らに立つ“ただの護衛”は消え失せた。


そこに立つのは――


世界の揺らぎを調整する者。

クラリッサという“調整者”の始まりだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ