第十八話 濃い出会い
僕は今知らん異世界で金稼ぎをしている。獅子舞やら傘まわしやらを人々に見せて金を投げ入れてもらう。なぜ僕がこんなことをしているのかそれは。
「ごめんいそべ。獣人はお断りだって何処行っても追い返されるんだ。いそべの言う通りの場所に行っても断られてしまって……」
「使えないなわん公。お前がスマホを人質に取りながらこの異世界で暮らすためのお金稼ぎを手伝って欲しいと言ったくせになんもできてないだぁ。僕はこうやって曲芸で稼いでるのに!」
詰め寄るように和傘で壁へと追いやる。わん公は慌てながら説明をし始めた。
「ちょっと待ってくれ。いったん聞けよ。実は探している最中にいそべの言ってたギルドってとこであった依頼の紙と似たようなものを他のお店で見たんだ。そこの方が人が少なかった。観に行くだけ一緒に見に行かないか?」
「一人で観にいけばいいじゃないか。まあ。ちょうど暇になったから行くけどな。案内しろわん公。」
曲芸で使った和傘や獅子頭をとりあえず白い空間に適当に放り投げる。それにしてもわん公は悪目立ちするなどうやらこの異世界は獣人という存在はあんまりいいものじゃないらしい。わん公を子供に見せまいと体で遮る大人だっている。いくら犬が嫌いな僕でも流石にここまでしないぞ。そんなこんなでわん公が見つけた店とやらについたようだ。
「ここ。ほら依頼とか紙に書いてあるだろ。このお店の中の人にこの依頼のことについて聞こうよ。」
「ちょっと待て。この紙にひとつも金額について、何も書いていないんだが。しかも、書き換えられてる。変な感じがするからやめておこう。」
「話だけ聞いてこようよ。俺このままだとこの世界で生きていけないよ。俺ができる仕事だって言ってたじゃないか。ねっ。お店に入って一緖に聞きに行くだけ。」
こいつもしかしてびびってる?ギルドとやらで追い返されて相当嫌な思いしたのか。こいつの仕事を見つけてスマホを返してもらうだけだ。ただそれだけなのにめんどくさいが行ってやるしかない。
「いいか行くぞわん公。」
扉を開けてみると中にはバーのような場所が見える。薄暗く外から見ても中から見てもいやな雰囲気が伝わる。この店、いや、この土地自体が悪いのか?この雰囲気。わん公と何歩か歩いてみると開けていたはずの扉が閉まる音が聞こえなかったのに後ろが薄暗くなる。なんだ。もっといやな雰囲気がする。
「あら〜。可愛い坊やたち。こんなお店にどうしたの?ごめんなさいね。まだ、お店はオープンしていないの。」
でかいオネエが一気にわん公に詰め寄る。びっくりしすぎてわん公なんて毛が逆立っている。慌てた様子でわん公は身振り手振りしながら話しかけ始めた。
「す……すみません。お店の前にはってある紙が気になったので……この依頼の紙って、俺たちでもできる内容ですか?」
「その紙?そうね。あなたたちどんなことができるのかしら。自己紹介も一緒にどうぞ。」
「俺はアルト・ベンリィです。剣術とかに自信があります。」
「僕いそべ。曲芸とかしかできない。」
「アル君にいそべちゃんね。よろしく!私はここのバーの店主よ。名前は伏せておくわ。恥ずかしいもの。アル君が剣使えるならこの依頼は簡単だと思うわ。頑張って帰ってきたらご褒美を用意してあげるわ!」
なんだこのオネエ。面倒な店に入ったかもしれない。