第十三話 ご主人様の逢瀬のままに
今僕はお姫様の後ろをついていきながら庭へと続く道を歩んでいく。お茶会があるらしく参加者はお姫様と王子、王子の妹だそうだ。僕はお菓子もお茶も飲めないのにそれを眺めていなきゃいけないらしい。どうやらお茶会ではそれぞれのメイドは主人の近くにいていいが、騎士は庭の入り口らへんにいなきゃいけないらしい。
「拷問かなんかだろこれ。僕腹減ってんだけど。」
『仕方ないだろ。我慢してろよ。メイドは城の中だと常に近くにいるからな。王子は執事だけど。他のメイドさんより着替えとかが仕事にないだけマシだと思えよ。』
「パン食べたい。これが2カ月続くとは思いたくない。」
わん公と会話をしていると庭の真ん中に着く。椅子とテーブルが置いてあり美味しそうなお菓子とパンが並んでいる。うまそうだ。腹がなる。それにしても王子もその妹の方もまだついてないようだ。誘ったのあっちらしいのに客人より遅いだなんて目を疑うな。少し待っていると話しながら遅い奴らはきた。
「ごめんなさいお姉様。遅れてしまいましたわぁ。」
『こいつが王子の妹であるヘーゼル・ナイト様だ。』
「へぇ。変な喋り方してるなこいつ。」
「ごめんごめん。ヘーゼルが急にお前とお茶会をしたいといったから。暇で何にもしてないんだろ。ヘーゼルにつきあってやってくれ。」
『こいつはこの国の王子で時期王だ。ウィンデル・ナイト。エーデル様の婚約者にあたるやつだがエーデル様をほったらかしにしてばっかでヘーゼル様ばっかり相手をしている。』
「へぇ。なんだ。ただのシスコンか。」
王子と妹は見たことあるな。誕生日会にいた気がする。それより僕の隣に来た背の高いメイドはなんだ。視線がグサグサ刺さっている気がする。
「おいわん公。僕の隣のメイドは誰だよ。」
『ああ。その人は…』
「初めまして。エーデルサマの専属のメイドサン。私はヘーゼルサマの専属のメイドです。あなたのお名前はなんというんですか。」
「僕は……いそべだ。初めまして。」
「お姉様。今までメイドはいなかったのになんで今更メイドなんておいてるの?」
「今までは良いメイドがいなかっただけよ。いそべは特別なんだから。」
「フーン。どんなすごいことできるの?私のとこは騎士の代わりになれるくらい強いのよ。剣裁きなんてかっこいいんだから。」
「ええっといそべはそうね。凄すぎてここではできないからまた今度の方がいいかもしれないわ。」
「別に他にできるやつを見せれば良いだろう。ヘーゼルが見たいといってるんだしぶらず見せてくれたって良いじゃないか。」
なんかめんどいことになってきたな。今は逃げられないしわん公はこっちに助言しかできないからこの無茶振りに答えることができるのは僕だけ。こんなことならやっぱりサボっていた方が良かったな…
「できますよ簡単なやつなら。っていっても道具がないから期待するもんはできないけど。」
「やった〜。本当に見して見して。」
「ほら、お前のメイドもこういってるから別に良いだろ。」
「……………」
『ムカつくな。こいつらのためだけになんもやんなくて良いんじゃないか』
「こいつらのためなんかにするわけないだろ。わん公。黙ってみてな。」
僕はテーブルに置いてあるフォークを全て回収する。全部で5。予備で二個多くあるとは良いお茶会じゃないか。僕は集めたフォークを一つずつ空中に投げていく。そうお手玉のようにフォークを回収しては空中に投げるの繰り返しを見せてみる。大したもんじゃないけどこれくらいがちょうど良いからな。
「おお。やるじゃないか。」
「いそべ…すごいわ。」
「本当すご〜い。でも、私のメイドの方がもっとす…」
僕は賞賛だけを受け取った。そう、妹が嫌なことを言う前に手元に残っているフォークを妹の目にあたるように投げてやる。ちゃんとギリギリ当たらないようにフォークを回収するけど…本当は思いっきりブッ刺してやりたかった。怒られそうなのでやめとく。
「あ…あ…」
「大丈夫?」
「大丈夫かヘーゼル。おい危ないじゃないかメイド。」
「ヘーゼルサマ大丈夫ですか?」
「当たらないようにちゃんと目に当たる直前で掴んだから大丈夫でしょ。」
その場にいる奴らからまるで恐ろしいものを見たかのような目で見られる。失礼だなこいつら。自分から見せて欲しいっていってきたのにやってみればこの反応だ。ただ、お姫様だけは僕に対してウインクをしている。
「すみません。あとでメイドにはキツくいっておくから今日のお茶会は無しにしてくれませんか。」
「当然だ。無しに決まっているだろ。さっさといけ。」
王子が僕らを怒鳴りつけると早足でお姫様は庭を後にした。今にも泣き出しそうな目をしている妹とそのメイドが僕を睨みつけていた。
『よくやった。今のはスッキリしたぞ。』
「そりゃあ。どうも。」
お姫様の後ろについて歩いていると隣からあっちのわん公が来る。
「今のすごいな。あと、あいつらはうざかったからスッキリした。やるじゃないかお前。」
「はいはい。どうもどうも。」
こんがらがりそうだ二人にわん公が話しかけてくるのは。お姫様といい、どっちのわん公と言いあいつらのこと嫌いすぎるだろ。なんかやるべきじゃなかったかな。
「いそべ。よくやったわ。今日は私の部屋で好きなだけ食事を食べて良いからね。」
前言撤回、良いことをしたようだ。