第6話 聖女はアジトに乱入する
――事前にセッテに調査してもらったルートで聖堂の中に入る。しかし、既に何か騒ぎが起きていた。
その騒ぎの方へ向うと、中庭でガラの悪い傭兵風の男たちが昼間に見たニセ聖女を取り囲んでいた。取り敢えず物陰で様子を窺う。
それは昼間に祝福の儀を取り仕切っていた司祭長ゾラーニがニセ聖女を叱責しているようだった。
「貴様、今更逃げようなどと馬鹿な事を……」
ニセ聖女は司祭長に頬を平手で力強く殴られ、その場に倒れ込む。
「司祭長様、孤児院を建てるという話は嘘だったのですか!」
ニセ聖女は頬を押さえながら司祭長にそう言った。
「何を言っている、ちゃんと建ててやると言っているだろう?」
司祭長はワザとらしい笑みを浮かべながら諭すように言う。
「なら、何故孤児たちの暮らす廃墟に火を?!」
ニセ聖女は司祭長を険しい表情で睨みつけながら目には涙を浮かべていた。
「おいおい、何を言っている? 何処でそのよう事を……」
司祭長ゾラーニは苦笑いでニセ聖女を見た。
「そちらの人たちが話しているのを聞きました」
ニセ聖女が指さすと、傭兵たちは焦る様な素振りでお互いに顔を見合わせている。
「おい、お前ら――」
司祭長はくるりと表情を変えて傭兵たちを睨みつけ、いかつい顔の傭兵たちがたじろいでいた。
「す、すみません何処かで聞かれた様です……」
「ち、馬鹿どもが……」
司祭長は舌打ちをして苦虫を噛みつぶした様な表情を浮かべる。その様子を見てもニセ聖女は意を決した様に司祭長を真っすぐ見据える。
「……領主様に訴えます」
「な……薄汚い下女が、儂を脅す気か?」
司祭長は一瞬険しい表情をしたが、すぐにニヤニヤとイヤらしい笑みに変わった。
「……まあ、そんなことをすればお前もタダでは済まんぞ?」
司祭長のは口の端を吊り上げて薄ら笑いを浮かべている。
「聖女を騙ったのだからな、晒し者にされた上に火刑だろうな……」
しかし、ニセ聖女は臆する事無く立ち上がった。
「いえ、私は罪を償います。それが死罪であっても……もう私はあの子達に詫びようがありませんから」
ニセ聖女は決意を秘めたような眼差しを真っすぐに向けながら立ち上がる。その様子に司祭長の笑みが消えた。
「……馬鹿な女よ、ではお前はここで始末してやろう」
司祭長が右手を挙げると、傭兵たちが武器を構えて近づいてくる。ニセ聖女はじりじりと後ずさるけど、包囲の輪はどんどん縮まって行く。
(……そろそろ出番ね)
私は満を持して声を張り上げた。
「待ちなさい!」
すると、悪党たちは声の主を探して「誰だ?!」とあちこちキョロキョロしている。物陰からゆっくりと姿を現す私に気付き悪党たちは慌てている。
「何だ、小娘か……何者だ?」
司祭長は怪訝な表情で私を見る。
「あ、こいつは……ガキどもを捕まえるのを邪魔した女の一人です」
この領に来た時に茶屋でひと悶着して追い払った傭兵が私を指さして言った。
「お前が? 馬鹿か、一人でのこのこと……ひっ捕らえよ!」
司祭長がビシっと私を指さすと傭兵たちはニセ聖女から私に向き直ってじりじりと近づいてくる。
「何処の手の者か吐かせた後はお前らの好きにして良いぞ?」
司祭長の言葉に傭兵たちは「ひゃは♪」などとイヤらしい声を上げる。
ニヤつきながら私を捕らえようと真っ先に「ひはは一番乗り!」などと言いながら不用意に掴みかかって来た男の伸ばした腕を躱しながら裏拳を顔面に叩き込むと、鼻血を噴き出しながら倒れた。
「がはぁ?! おげ……いで……いで……」
顔を抑え地面をのたうっている仲間を見て、傭兵達は戸惑っていた。
しかしそこはさしもの傭兵、不意打ちを狙って忍び寄る。背後から棍棒を振り下ろしてきたけれど、私は前を向いたまま左手で受け止めると同時に右肘を顔面に叩きこむ。
肘をまともに顔面にくらった傭兵は顔を歪め白目を剥いて崩れ落ち、力を失って手から離れた棍棒が私の手に残る。
「ええい、一気にかかれ!」
傭兵の誰かがそう叫ぶと、怒声を上げながら剣を振り上げて襲いかかってきた。
正面から縦斬りで振り下ろして来た剣を棍棒で受けながら前蹴り放つ。傭兵は「うぐ」と呻きながら後退ってそのまま地面にうずくまった。
間髪入れずに右側から突き入れて来た槍を僅かに身を反らして躱し、柄を左手で掴んでこちらに引き寄せ棍棒で兜の上から殴ると、そのまま糸が切れた様に気を失って倒れた。
次に、左右同時に剣で斬りかかって来たので右側の男の顔面に棍棒を投げつけて顔面に命中して昏倒させ、左側の男に向かって踏み込む。
まさか間合いを詰めてくると思わなかったのか焦って無造作に振り下ろした剣を左手の手刀で叩き折りつつ右拳を顔面に叩き込むと鼻血を噴いて地面に倒れた。
流石に傭兵達はたじろぎ、間合いをとって攻めあぐねている様子だ。
「ええい、小娘相手に何をやっている!」
司祭長は丸々太った大きな顔を更に真っ赤に膨らませる様に怒鳴っている。
「お前らじゃ歯が立たん、そっちの女でも始末しとけ……」
そんな事を言いながら傭兵達の後ろから鋭い目つきの東方人顔の男が歩み出て来た。紺色の長髪を無造作に後頭部で束ねた無精髭の細身の中年男だ。
しかし、細身といっても首や袖口から見える腕は引き締まっていて鍛えられているのが容易に分かる。傭兵達は口々に「団長」と言っているので、多分この男が傭兵団長ね。
(……さて、どれだけ強いのかしら?)