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命がけでへそ。

☆本話の作業用BGMは、『1/6の夢旅人2002』(樋口了一)でした。

「水曜どうでしょう(クラシック)」のエンディング曲であります。元の曲よりノリがいいヤツです。

 最初聴いたときは「え~……」と思ったのですが、ちょいちょい聴いているうちに好きになり……(家族が大泉さんの、というかNACSのファンで。個人的にリーダーの森崎さん好きです。中々北海道を出ませんが、そのうち「扉をバーン!」)。


 締めは『ボーントゥビワイルド』(あんべ光俊)で。

 おらが故郷発のシンガー・ソング・ライター。

 もはや、ユー●ューブでもアルバム版しか聴けません……。

 スッキリと晴れ、元気な放射冷却現象の所為でしばれる朝を迎えたその日。


 うっかり(?)昼時に目を覚ましてしまった私は、ぼーっとテレビを点けるとそのまま某バラエティ番組を虚ろに眺めておりました。

 中央区・日本橋の老舗を巡るという企画で、とある人形焼きのお店が紹介され。

 好物というわけではないのですが、大写しになった人形焼きに釘付けとなった私は――。


 ――気が付くと、いつの間にか一人、日本橋人形町その地へ立っておりました。


 寒風が薄く漂うなか、肩を竦ませて行き交う人々をぼんやり眺めております。

 その昔、『新参者』の加賀さんも、こんな風に甘酒横丁を歩いたのでしょうか……いえ彼ならきっと、背筋をピンと伸ばし、大股で颯爽と闊歩したに違いない……。※1

 なんて、架空のヒーローに思いを馳せつつ。


 甘い匂いに導かれ、またもうっかり、たい焼きを三つ買い求めてしまいました。

 あんなに脳内は人形焼き一色だったのに、なぜ……?


 外はパリパリ。お母さまはこれ系がお好きでしたよね。

 私はもっと安っぽい、柔らかなしっとり系がいいのですが。


 ひとつ手に取り、バリッバリと咀嚼しながら、硬い身体を促して浜町方面へと動き出します。

 御苑までたっぷり一時間以上ありますね。

 半端な時刻、カロリー消費も兼ねて、てくてく歩いてみましょうか。

 ――デューク(更家(さらいえ))のように(リームー)。


 周囲は緑が増え、正面に一層濃いぃ塊が出現します。

 浜町公園の弁慶像は、寒さそっちのけで力強いお姿を披露しておりました。※2



☆☆☆



 情けにゃいことに、へそから下が痛い……運動不足ここに極まれりという。

「ソウタ」という名の電マが欲しい……うっふん♥ なんてネ!


 お尻の下から脹脛(ふくらはぎ)へと軽くマッサージ(自己流)を続けておりますと、来客を告げる音が耳に届きました。


 足を踏み入れたのは、白いポーチを提げた小柄な若い女性のようです。



 髪を後ろで纏め、薄いピンクのパーカー上下という、めちゃ寒そうな普段着の(てい)

 小股で歩み、ソファではなく椅子に腰を下ろしました。

 

 榛摺(はりずり)色の髪は、照明を受け深く渋い橙色を浮かべております。

 柔らかそうな頬は、一重梅(ひとえうめ)の如き薄い紅を差したようで、外の寒さを窺わせます。

 そして、ザ・丸顔。

 うんうん……私の口元が自然と綻びました。


 慌てて室温を上げます。



 説明書きを落ち着かない視線で読み終えると、小さく「よしっ」と口が動いたようです。

 握りしめた両の拳が、テーブルから少しだけ覗きました。


 ふーっとひと息、


『――なんじゃこりゃあぁぁぁ?!』


 というボタンを押下いたしました。

 ――よろしいのでしょうか、優作さんで。

 

【えと、こ、こんにちは】

「ツイてない御苑へようこそ。今日は寒――しばれますね」


 なんとなく言い直すと、


【そ、そうですね! ほんっと寒――しばれます!】


 なぜか嬉し気に返されました。


「ご近所でしょうか」

【はい。下谷神社の裏の方で。会社の借り上げ社宅なんです。今日まで有給で】


 綾女と同じくらい? ギリ十代といった感じです。


「有給? でしたか」

【田舎から母が上京してきて……二泊三日だったのですが、あちこち東京見物に】

「それは重畳。親孝行ですね」

【い、いえ、そんな、当たり前といいますか……】


 両手を眼前でわちゃわちゃさせます。

 頬は一層濃い紅色に染まります。



【二日目の昨日は特に予定を決めていなくて……朝食時に、「お母ちゃん、どこか行きたいトコある?」って聞いたら、即答されたんです】

「ほう。で、どちらへ?」

【それが……「日本国道路元標」が見たい! って……】

「ははあ」



 日本国道路元標……日本における道路の起点、だそうです。

 別名「キロメートル・ゼロ」とのことで。

 案内標識で「『東京』まで●キロ」となっているのは、ここを起点にした距離です。

 日本橋上(車道の真ん中)に埋め込まれております。


【近くの広場にレプリカがあるそうなんですが。母は、やはりというか「ホンモノが見てえナは!」と言うので、一応現地へ】

「交通量もそこそこですし、現物を真上から見るのは難しそうですね」

【本当に、現場を見て「無理!」って思いました。夜中なら兎も角……】

「ツイてない……と申しますか、残念でしたねぇ」


 少女は顔を伏せ、肩に力を入れると、「笑いながら怒る人」が何かを我慢するように、口元を波打たせて微動を始めました。


 あれ? 残念でしたねぇって言っちゃいましたけど。


【……かあっちゃ……いえ母は――ド●えもんみたいな体型を鼓舞して(?)、パッと車道に走り降りると、サッとカメラ構えてバシャバシャやり出したんです!】

「なんじゃそりゃあああッッッ!」

【あああー出たぁぁぁ感激ですうぅぅぅっっっ!】

「恐縮です。お約束ですから」

【ジュリーぃぃぃ♥】

「ちがうだろ!」


 樹●希林さんかよ。


【嬉しい……来た甲斐がありました……あたしDVD集めてるんです! 「探偵●語」もコミカルでいいですけど、あのハードボイルド系の映画が素敵で!】

「あー役作りに鬼気迫るものがありますよね」

【「6番目●ユ・ウ・ウ・ツ」も良かった!】※3

「それも違うのよ?」


 ごっちゃになってるぞ。ジュリーやんかそれ。

 また古いお歌をご存知で。


「そりゃそうと、マジで? 車は――」

【両車線の車全部止めちゃって。狂ったようにクラクションが鳴り響いていました】

「でしょうね」

 

 阿鼻叫喚(?)の画が容易に浮かびます。

 歩道ではベビーカーの赤子がギャーギャー泣いております。

 車道では、皆次々車を降り、あちこちで酔っ払いが取っ組み合いを始め……(酒気帯び運転はイケません)。



【あたし、硬直しちゃって……声も出せないまま棒立ちしている間に、母は……騒然とする中を方々に手を振りつつ、「悪ぃね」って頭を下げながら歩道へ戻ろうと――】

「胎の据わった、と申しますか」

【歩道へ上り切る寸前、猛スピードのオートバイが突っ込んで来て】

「あああッ?!」

【ドンッ! とぶつかって】

「ィイヤアアアァァァ~ッッ!」

【――で、ボイ~ンって飛ばされて一回転――からの着地】

「嘘でしょう?!」


 マンガでんがな!


「ダイジョブっ?!」

【大丈夫だったと思います。普通に立って、麒麟の像(日本橋にある)と親しげに世間話していましたから】

「それヤバイやつじゃ……お母様、陸奥●明流でも嗜んでいらっしゃる?」



 少女がスマホを掲げて、かの画像を見せてくれました。


「また綺麗に撮れてますねえ」

【ええ、ほんとに……でも、危うく天涯孤独になるところでした。泣きながら怒りましたよ……】


 一瞬で憔悴してみせた少女。

 ご母堂、一度精密検査お受けいただいた方が……。


「命懸けでやらんでもねえ」

【ンだなは……】

「んん?」

【あ、なんでも。なんでもないですから!】


 デジャブのように、またわちゃわちゃ両手で(くう)を掻き混ぜます。

 草津の湯揉みのようでもあります(見た事ないですけど)。


 お国訛り――でしょうか。

 小さく呟いたそのひと言、私の胸を鷲掴み。


 恥ずかしそうに赤い顔で俯く様を見ながら――

 なんか、今日はよい日だったなーと感慨に耽るのでありました。



☆☆☆



「ゴッド・ブレス・ユー。神のご加護を」


 顔を上げた彼女は少しはにかんで、


【……あ、ありがとうぃっしゅ……】

「DA●GO?」


 おずおず立ち上がると、パッと顔を綻ばせたのでございます。




「めんこい」お嬢さんでしたね、お母さま。

 今度いらしたら、「お姉さま」て呼んでもらおうかと思います。

※1 加賀恭一郎シリーズ『新参者』(東野圭吾)。その昔、東野作品にハマって、文庫を買い集め読んでいました。「新参者」の加賀さんは、妙に爽快な感じで恰好いいです。映画は未見……

※2 公園入口の銅像。モデルは……ど忘れ……

※3 『6番目のユ・ウ・ウ・ツ』(沢田研二)。37番目のシングル。6番目……じゃないです。面白いお歌を沢山お歌いになってましたねえ……

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