表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/148

日曜日の景色

☆本話の作業用BGMは、『エレクトリック ユース』(デビー・ギブソン)でした。

 美少女……かどうか、PVでは楽しそうに可愛らしく歌い踊ってらっしゃいます。

 当時十代だったんですね。シンガーソングライターですよ。日本でいったらウ●ダさんみたいな感じでしょうか。

 脳内で繰り返されるお歌です(歌詞わからんけど)。

 冬用メイド服の画像をご覧になった爽太くんが、


「僕も撮影会に参加させてください」


 鼻をフンガフンガさせて、学校帰りにいらっしゃいました。

 どこでツナギをつけたものか、兄様と一緒に。


 言われるままポーズをつけ、バシャバシャ撮られている内に、なんとなく気分が揚がってまいります。恥ずかし愉しいというのか。笑いながら怒る人みたいなものでしょうか。どうですか竹中さん。

 ああ……私も一応女の子なのね……感慨に耽っていると、表がカランと鳴りました。

 お客さんなら、これでお開きですね。


 店内に佇むそのお人は、制服姿の若い男性です。

 どこかで目にしたような制服……。



☆☆☆



 椅子に歩み寄る学生さんをチラ見した兄様が、


「さ~いしょ~はグー!」


 唐突に吼えました。


「は?」

「どっちが話を聞くかジャンケンだ!」

「僕は?」


 爽太くんが眼鏡を光らせますが、


「爽太は……十年早いかな」

「非道い! ……でもしょうがないですよね。アマチュアですし」

「アマチュアっつうか……なあ?」

「同意を求めないでください」


 結局サシで勝負の結果、私が勝利を収めました。

 てんで嬉しくもない勝利。



 椅子に座った学生さんは、薄い鞄を抱き締めながらボタン群を眺め、


『ボクは●にましぇん! え~人という字はぁ~』


 というボタンをひそ~り(×ひっそり)押しました。

 三回目ですか? レッド・フォックスの人(byルーさん)。


「っしゃ!」


 背後から気に障る叫びが上がります。


【こんにちは】

「こんにちは。ようこそツイてない御苑へ。誰かのご紹介で?」

【クラスメイトの男子に……えと、ちょっとMっ気のある――】

「……晋三でしたか」

【はやっ!】


 クラスメイトの紹介、ひと言目が「ちょっとMっ気のある」とはこれ如何に。

 彼は、どこぞの高名な占い師でも見つめるような目で、こちらを凝視しています。


「というと三年生ですね。受験は大丈夫ですか?」

【僕は就職組なんです。だからダイジョブです】


 結構な進学校なのに。


【そんな余裕ないです。両親もいないし】

「……左様でしたか」


 ――交代した方がいいかな? なんか気が進まない……。


【この間、彼女と、喧嘩しまして……】


 それはツイてないですね――て言っちゃっていいのでしょうか。


 後ろを振り返ると、兄様は床で結跏趺坐(けっかふざ)――瞑想中です。なんで今?

 爽太くんは、背筋をピンと伸ばしてソファに座ってます。

 気の所為か、瞳が妙に輝いて……?


 無垢なプレッシャーに、我知らず唇をひと舐めしたのでございます。



☆☆☆



【以前は、学校終わるとたまに遠回りして、アーケードの商店街を抜けて帰ってたんです。なんか、好きなんですよ、夕暮れの商店街……】

「なんとなく分かります。夕暮れ時が良いのですよね」

【そうなんです】


 一日が終わる寸前、ひと息つく感じ、疲れはあるけど家に帰る楽しみ――雑多な雰囲気の、ちょっと異質な活気が漂う商店街……。


【日曜日、彼女とデート帰り……その大好きな商店街を歩いていて……突然、気分が悪くなって……】

「どこか具合が?」

【や、そうじゃないんです。気分、というか――腹が立ってきた……違うかな? 猛烈に悲しくなってきて、なんか遣り切れない、どうしようもない気持ちになって――】


 軽く俯く彼の顔は、みるみる赤く染まってゆきます。


【彼女との会話もぞんざいになって……勢い、言い争いというか。幼馴染みなんですけど、初めてみるような怒った顔で……そのまま別れて、未だに……】


 ちょっと要領を得ない――途切れ途切れに呟くと、ガックリ項垂れたのです。


「ンガー……」


 背後から鼾が届きました。

 瞑想じゃなかったのかよ。お客さんがいるというに、こいつ……。


【……どうしたらいいんだろ……】


 消え入るような声で囁きました。


 アドヴァイスを求めるのはご法度ですよ?

 晋三は何を教えてあげたものか。

 あとで絞めて――よっく指導してやらないといけませんね。


「まあ普通は、貴方から謝る方が上手くいくと思いますが」

【…………】

「喧嘩の起こりが分からないと、ねえ」


 謝るのイヤなのかな。


 顔を上げた彼。両目に涙を(たた)えていました。



☆☆☆



 彼は諦念の色を顔に浮かべ――


【……平日と違って、日曜の夕方は家族連れが結構多かったんです。それを目にした途端……なんて言ったらいいのか。ムカムカしてきた? っつうのか】

「…………」

【母は小さい頃……親父はこの夏に亡くなりました。……偶々、というか、気付いたら、それ以来商店街を歩いてなかったんです。あのデートん時が久し振りで……】



「幸せな家族の風景」が許せなく思えたのでしょうか。

 それとも、悲しみ、嫉妬……。

 

 突然――本当に突然、思いがけず、胸に込み上げる何かがあったものか。



 ……私の場合は……?


 両親の抜けた家族は形を変え、今も違った景色として存在しております。

 恵まれている、と言えるのでしょうね……。



 ふと後ろを見やると、兄様は相変わらず爆睡中ハゲぇ……

 爽太くんは――眼鏡を取り、真っ白いハンカチで両目を拭っています。

 なんだかふいに、爽太くんかわいい――めちゃ愛おしい心持ちになりました。

 目が合ったので、ひとつ微笑んでみますと、爽太くんも恥ずかしそうに笑みを返しました。



「……持論で恐縮ですが、喧嘩しないと分からない事もあります」

【……】

「相手が怒らない『許容範囲』とか、怒る『スイッチ』とか。この際正直に、『なんでムカムカしたのか』、彼女にご説明申し上げてみては?」

【……】

「そのうえで心から謝る――のがいいかなあ、と思います」

【……そう……そうなんですよね】



 先程からずっと――病床のお母さまが、脳内に浮かんでいます。


「私の母は病に伏しておりましたが……病床で、よくこんなことを口にしておりました」

【……】

「『お母さんは(神幸ちゃんの)ドラマが見たいの! だから頑張って長生きするよ』と」

【……ドラマ?】

「ええ」


 既に、叶わぬ願いと承知していたのでしょう。


「地球上には、どのくらいの人間が暮らしているかご存知ですか?」

【え? えっと――1500万人くらい?】

『少な! 東京都かっっっ!』


 なんと爽太くんがツッコミを!

 でもマジ、進学校? なの?


「70~80億ほど(※適当。あは!)だそうです。母が言うには、その一人一人に無二の『ドラマ』があると。そして、我が子のドラマだけは見届けたいのだと」

【…………】


 少年は、ダム決壊寸前の両目を見開き、じっとこちらを見つめています。


「あなたのご両親も、あなたの『ドラマ』を見届けようと、どこかで見守っていることでしょう。成功も失敗も、喜びも後悔も、全てひっくるめて、見届けたいと思っている……ハズです」

【……そう、でしょうか】

「なにせ『親』ですから。ああ、きっとデート中も……彼女との行く末も気にしてらっしゃいますよ。早く仲直りしないかなって、とても心配してることと」

 

 

 ……長い事、あさってを向いて黙していた彼は――。

 唇をきゅっと閉じ、ごしごし袖で目を擦ると、


【…………彼女に会いに行ってみます】


 さっと立ち上がり、


【ありがとうございました!】


 バッと腰を折ると、外へと駆け出たものであります。



 ――やがて彼も新たな家族を得て――。

 日曜、夕暮れの商店街で、無二の景色を見ることが出来るでしょうか。



☆☆☆



「ゴッド・ブレス・ユー」


 溜息交じりに立ち上がると、爽太くんに抱きつかれました。

 私は、そんな彼の頭をそっと撫で……。


 ……もう仕舞いでいいですよ、兄様。

 寝たフリは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ