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いませんよ? そんなひと

☆本話の作業用BGMは、『Soul Glow』(GREAT3 ※グレートスリー)でした。

 イントロで滾ります。「燃○よドラゴン」ぽいです。クネクネのMVが楽しい。

 そしてやはり『DESIRE―情熱―』(中森明菜)です。いつから「情熱」とついたものか……。


 私の母校(女子高)は、昨日が卒業式だったそうです。

 私自身は昨年卒業式だったわけですが……。


 お母さまもご承知のとおり、私は参加いたしませんでした。気が付いたら終わってましたよね、てへぺろ。


 あの頃は――ただひたすら一日中炬燵に横になって、小さな縫いぐるみをぼーっと眺めて過ごした記憶しかございません。

 お母さまが生涯で唯一、UFOキ●ッチャーでゲットしたという、伝説の「みみずく」の縫いぐるみ。

 彼(彼女?)は、当たり前ですが何のアクションも無く、私に声を掛けてくれる事もございませんでした。


 誠か否か、結局今でも分かりませんが、お母さまは――「ふくろう?」に「みみずくよ?」と譲りませんでしたね。最早どちらでもいい事ですけど。



 式後、美冬ちゃんや華菜ちゃんと抱き合って涙する……という憧れのイベントも実現しませんでしたね。



 昨年はうっすら降雪もあったそうですが、今年は暖かく快晴だったとのこと、重畳に存じます。



☆☆☆



 暮れ六ツ半(午後七時)に差し掛かるところ、表でカランと音がいたしました。

 来客です。



 店内に足を踏み入れた背の高いそのお方は、歩みを止めるとなんとなく両足で踏ん張り、右手を高々と挙げてビシッとポージング。微かにふらつき気味です。

 ああ、ト○ボルタさんみたいですね。腰がクイッと入りました。

「ス○ィン・アライヴ、ステ○ン・アライヴ」というサビが聞こえてきそうです。


 黒いボディコンワンピに、ファーのついた毛皮のハーフコート姿。

 ミディアムボブのストレイトな黒髪が艶めいています。


 千鳥足でゆっくり歩いて来ると、ストンと椅子に腰を下ろしました。

 お顔はほんのり桃色、アイラインはキツめのパープル仕様ですが――死んだ目をしています。「腐った魚の目」とも言います。

 目にもう少し光があれば、『傷追い人』という劇画に登場する悪役の女性幹部に似ているところなんですが。※1


 頭をふらつかせながら説明書を一瞥し、視線を落としてボタンを――迷いがありません。

『まっさかさーまーにぃー!(情熱っ!)』という丸ポチを、捻り潰す勢いで親指がぐりりと押し込みます。


 ゆっくりと受話器を取り、耳に近づけた塩梅で、


【♬ なーんーてねっ!】(※by「DESIRE」)

「♬ はぁ~ドッコイッ!」

【お? 出来るなオヌシ。さてはアラフォー……いや、アラカン?】

「ツイてない御苑へようこそ。アラ……還暦のカンですか? いえさすがにそこまでは――」

【ぶっぶぅぅー! アラカンて言ったら「嵐寛寿郎」でしょう、残念っ!】

「え……はあ、左様で」

【♬ なーんーてねっ!】(※同じく)

「♬ はぁ~ドッコイッ!」(※おな……)

【どーもありがとう(※杉○右京風)。でもそれじゃ終わらねーからさ、エンドレスだから。悪ぃね悪ぃね】


 女性は片手を力無くひらひらさせます。


「ご機嫌の様子、何かいい事が?」


 ここにいらっしゃる必要も無さそうですけど。


 女性が壁にちらと目を向けました。

 視線を辿ると、先日兄様が貼り散らかした「店内禁煙」の赤紙が。


 女性はコートのポケットに片手を突っ込み、なにやらゴソゴソまさぐっています。

 視線が天井に向けられ、


【……あたし、自宅の一階でスナックやってんの】

「ママさんでしたか」

【『出座衣亜』ちゅうんだけど。忘れないうちに、一度きりでいいから来てね~】


 まんまや。

 ああ、今頃ナンですけど、悪の幹部じゃなかったのですね。「明()」ちゃんでしたか。

 そりゃそうか。このボタン押しておいてなー。

 ママさんが置いた名刺を鬼のように凝視してみます。


【今日は貸切でパーテーだったの】

「お祝い事でしたか」

【息子に彼女が出来た「一か月記念日」なんだと】

「……はあ。息子さんに、ですか……」

【高二だからノンアルだよ。彼女も未成年だからさあ、あたし一人で瓶ビール開けてさあ……寂しいから知り合いのイケナイ兄妹呼んださ】


 イケナイ兄妹……即座に頭に浮かぶあの二人……まさかな。


 いや、話が進まないですね、この調子では。


「お客さん、ここは『ツイてない』を捨てる場所でぇ――」

【「応募者全員プレゼント」ってあるじゃん?】

「(唐突だな)……ございますね」

【あたし、あーゆーのひとっっっつも当たった事ないの】

「え? だって、応募者全員に漏れなく」

【普通そーだろーけど、届いた事ないもん】

「それはそれで奇跡的な」

【♬ 特別~じゃない何処○も~いるわ】(※by「少女A」)

「いやいませんよそんな人。全プレでしょう?」


 私の声は脳に届いているのかいないのか。

 トロンとした眼を向け、


【息子の名前だとひゃく――っぱー届くんだけどさあ】

「息子さんの名前?」

【ちょっと特殊な名前なのよ。なんか謂れがあるらしくてさ……】


 ほう。それはちょっと興味ありますね。


「それはナンという……」

【●●●●●て漢字で、●●●●て読むの】※2

「えええーっっっ?! なんすかソレ?! 聞いた事ないっすよ! 人の名前なんすか?」

【♬ 特別~じゃない何処○も~いるわ】(※くどいですが……)

「いやいませんよそんな人! 聞いた事無いです」

【ねー。蒸発したダンナ(!)がつけたんだけど……字面のインパクトが凄いからさ、中々読みは覚えてもらえないよね】


 然もありなん。


【そんなのはどー……っっっでもイイんだお!】

「自分で振ったのに」

【全プレ当たって欲しいんだあよ~あたしはぁ……】

「あれは『当たる』とか、そういうものでは……。そこまで行くと、最早お祓いでもしていただいた方がよろしいかと存じます」

【………………お祓いぃー?】


 アラフォー(多分)のママさん、可愛らしくモ○モジくんのように小首を傾げました。

 なんなら顎に人差し指をあてた(てい)で。

 そのまま目を閉じて即座にガーガー(イビキ)をかき始め……。


 これはヤバイやつかな? 脳○塞とか――なーんーてね♥


 ママさんの名前に何か呪いでも掛かっているのでしょうか。

 息子さんの名前なら届くのですよね?


 ママさんガクンッと仰け反ります。


「ちょっとママさん、ママさーん!」

【……喋る…くらいなら……眠って…いたいの……今は……ZZ……】


 くっ強いな。寝惚けながらも「デザ○ア」を貫くか。


「ママさーん、貴女のお名前なんてーの?」

【……ぐう……明子(あきこ)れーっす……『愚民を束ねる王となれ』ってじーちゃんがつけてく……ZZ……】

「――字面に微塵も面影が無い」


 弱ったな。本格的に寝られると……。

 今までにも酔った来店客はございましたが、皆さん自力でお帰りくだすったのに……。


 目を瞑ったまま、ママさんが突然右手を衝き上げました。

 スマホがガッチリ握られています。

 天に翳した指先がススッと滑らかに動いたのを、私は見逃しませんでした。



☆☆☆



 ――何故か迎えにやって来たのは「お兄様」――美冬ちゃんのお兄さんでした。

 偶々掛かった先が彼の番号だったようです。

 ぷぷ、まさに♬ ロ・ロ・ロ・ロシ●ン――ですな。


【なして俺が……ツイてねえ……】


 律儀に受話器を手に取ると、お兄様が「宇宙人の声」で愚痴ります。


「助かります。途方に暮れていましたよゴッド・ブレス・ユー」

【えー丸投げかよ】


 困惑するお兄様をヨソに、私は体の底から安堵の溜め息を吐き出したのでした。



 全プレが当たらない(?)奇跡。世の中には不思議な事があるものですね。


 もう、毎度息子さんのお名前で申し込めばいいんじゃないですか? ね、お母さま。

※1 原作:小池一夫 作画:池上遼一 ……ゴールデンコンビによる復讐譚。泣ける。

   悪の幹部(第一部)は「たまき」さんといいます。

※2 「二千六百年」という漢字五文字で、「ふ○むね」と読みます。

   衝撃でした。字面に驚いて、読みを中々覚えられなかったのは私です。

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