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お姉ちゃ・ぁん……て呼んでも差し支えないですか?

☆本話の作業用BGMは、『誰も寝てはならぬ(トゥーランドットより)』(by ポール・ポッツ)。

 オーディション番組のくだり、審査員の女性と一緒に泣いてしまいました。訳も分からず、彼のデビューCD買っちゃいまして……。CDにもあの動画がオマケでついててまた号泣ですよ。


★今日はホントただの雑談になってしまいました。

 日曜日、一周忌でしたねお母さま。如何でした?

 如何でしたは変でしたね。


 一年後をこんな穏やかな心持ちで迎えられるとは思ってもみませんでした。

 エロエロな事がありました。

 口にはいたしませんが、色々な人にお力添えいただいた故と存じます。

 こうして無事、最終回を迎えられ……なんちゃって。

 今から最終回の口上を考えておいた方がよいですかね? いつになるか甚だ見当がつきませんが。



☆☆☆



 開店後間もなく、茂森(仮)さんがいらっしゃいました。

 入り口で右手を挙げます。

 声は聞こえませんが、お口が「よっ!」と言っているようです。



 肩から提げたマイバッグをテーブルに置くと、すぐさまボタンを押下します。

『ポ○ル・ポッツ!(ワアァァァッ!)』というボタン。

 受話器を取り上げた彼女に、


「こんにちは。『いつもツイてない』御苑にようこそ」

【おう! また寄らせてもらったぜい。店名変えたの?】

(ええ。貴女のご来店時限定で♥)


 血色の良いお顔でニヤニヤしてらっしゃいます。


「茂森(仮)さん、そのボタンはやめましょう。歌うのは(やぶさ)かではありませんが、オペラは無理があります。お代はそのままで、別のボタンをどうかひとつ」

【あの動画良かったよー、泣いちゃったもん】

「私もです」


 素直に変えてくれたボタンは、『どっちを! 向いてもミ・ラ・イ(by キャプ○ンフューチャー)』。


「これはまた渋いチョイスで……ちょっと待ってください。エロエロ検索いたします」

【ああ、やっぱり声は「広川さん(※故・広川太一郎氏)」なのね。イイ声だわぁ……】


 軽く目を瞑り、しみじみと仰いました。


「コミカルな吹き替え、のイメージ……『しちゃったりなんかして』」

【懐かしい、「広川節」……。あたしさあ、コメット号(キャプテン達の宇宙船)卵の殻で作ったんよ】

「え、どうやって?」

【生卵に針で穴を開けて、中身を吸い出して……】

「それは大仕事でしたね……これ、キャストを拝見しますと、結構な豪華声優陣が」

【今なら大御所と言われる人ばっかりよね】


 まるでカルタのように、大御所の名を挙げては盛り上がりました。



【数日前からパート始めたの。昼間三時間程度だけど。休憩が無くてさあ、ずっと立ちっ放し】

「ほう、どちらで?」

【パン屋さん。食パンと丸パンの二種類しか売ってないの。結構有名らしいよ?】

「ひょっとして『ペ○○○』ですか?」

【当たり!】

「それはそれは。大変ですね、夢のマイホームへ向けて、といった感じでしょうか」

【週三だけどね。洗濯して掃除機掛けて、それからだね】

「え? 主婦みたいじゃないですか」

【主婦なんだよっ! こんなんでも!】


 モニタに顔を近付けるのはやめてください。目許の小皺に視線が釘付けになるので。


【時給がやっすいのがなあ】

「お幾ら万円で?」

【○○○円】

「? 東京都におけるパートさんの最低賃金は××××円だそうですが」

【なんか、どっかに許可貰えば試用期間中の時給は下回ってもいいんだって】

「へえ……」

【繁盛してるクセに結構「しわい」んだよなあ】

「しわい?」

【せこいってこと】

「ああ、なるほど。それでも続けた方が良いと思います。正式採用後は時給も上がるでしょうし、年間にしてウン十万円の貯蓄はデカいですよ」

【そうなんだけどさ……あ、そうそう】


 茂森(仮)さんはバッグからビニール袋を取り出し、


【お店の丸パン。よかったらおやつにどうぞ! ナンモつけなくても美味しいよ、もちもちして】

「『ナン』をつけて食べるパン? 重くないすか?」

【「()()つけなくても」って言ったよな?!】

「おありがとうございますゴッド・ブレス・ユー」

【もう終わりかよっ?! ツイてないも言ってないのに!】

「あ、あるんですか? 雑談で終わりかと」


 袋を見詰めていたら、じゅるりと何かが音をたてました。

 彼女はふうーっと軽く空気を漏らし、


【店のビッグ・ボスが……】

「おお! セクハラですか? もしくは不倫? その辺詳しく!」

【わくわくすんな! 「まだ」セクハラは無いよ? てか、ボスは女性だし】

「大人の百合です? こういうのは何て言うんでしょう」

【さあ? あんま詳しくないからなあ……気の所為か、お尻にボスの視線が刺さるんだよね】

「ほう」

【胸はあんまりだけど、お尻は何気に自信あるんよ】

「何メートルです?」

【0.88メートル――言わすなよ】

「ほーん。ノリが良いですな」

【桃尻だね、て旦那が褒めてくれる♥】

「ハゲの旦那が?」

【シバくぞッ?! ハゲ違う! 旦那のお父さんだってハゲてないし】

「『旦那さんが次○番だ~』(ナンダカ○ダ by藤○隆)」

【やめろ。そんな暗い歌じゃないだろ】

「まあ、時間の問題でしょう」

【ほんとにシバくぞッ! そこは不撓不屈の精神で阻止する処女ンです!】



「そう言えばその後、『悲縛り』は如何で?」

【「金縛り」な。『昨日、悲○(かなしべつ)で』(1984年・日本テレビ)ってドラマ知ってる? じゃなくて。……まあ、お陰さんで、なんとか。寝る前にテキスト読むようになって、マジで資格取っちゃったよ】

「それは重畳。なんという資格を?」

【ビジネス文書検定ってやつ。三級だけど】

「それは……」


 実に馴染みのある資格です。私も所持しております。一級ですけど♥

 マウントとったりしませんよ? 私も空気は読みます。


 折角ですから、生かせる職業をお選びになったら如何でしょう。


【そういう求人は無理だね。事務職は競争倍率高いもん】

「そういうものですか」

【そういうものよ、世の中なんて(?)】


 女性のパートは選択肢が狭いと嘆きます。

 ちょっと高度になると、やれ実務経験がどうのと条件が上乗せされるのだとか。


【まあ、仕様が無い。それなりに、お客さん相手も楽しいしね。頑張ってみるよ】

「お尻にガン飛ばされるくらいナンてことないですよ。減るもんじゃないし」

【ガッツリ見られてると減るんだよ、精神的に】

「触られるわけではないのでしょう?」

【くっ……まあね】

「見られて疼くわけでも」

【ないない。そんなんじゃ毎日ビショビショだよ】

「ビショ……」

【なに?】

「いえ……人妻パネェなと。ご主人とは週幾つで?」

【おいい、あんまグイグイ来るなよ。こっ恥ずかしい……そういう貴方はどうなの?】

「わ、私は、その……当分、清い交際をする処女ンですのでぇ……」

【へー、いるにはいるんだ! その話詳しく!】

「えー……ゴッド・ブレス・ユー」

【待て待て、動揺すんなって】


 茂森(仮)さんのニヤニヤが止まりません。

 立場逆転はいけません、いけませんが……。

 この際、洗いざらいゲロッてしまいたくなるのは何故でしょう……。

 取り敢えず――イケナイお○ちゃの見聞でも広めてみましょうか。


 ひとしきり、ベテランである人妻にエロエロとレクチャーしていただきました。



「茂森(仮)さん。本当に、いつもありがとうございます」

【どうしたの急に】

「いえ、お陰で、ストレスも少し解消されます」

【ふーん……なんか複雑。客でストレス解消されてもなあ】


 カラカラと陽気に笑う彼女をモニタ越しに眺めながら、ちょっと涙が滲んでしまいました。



 世の中うまくいかないものですね、お母さま。

 こんな明るくて優しい人なのに、中々「幸」が訪れないのはどうしてなのでしょう。

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