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◆メリクリでドバドバ◆

☆本話の作業用BGMは、『サイレント・イヴ』(辛島美登里)でした。



 昨日のクリスマス・イヴは――来店客ゼロでした。


 まあ、聖なる日(の前日)に「ツイてない」は縁起もよろしくないので、世間的には良かったのかもしれません。

 過日、爽太くんはイヴについてゴニョゴニョ言い淀んでいましたが、さすがに家族団欒(だんらん)を優先していただきました。



 明けて土曜日。

 道場の稽古納め――クリスマス当日にも関わらず、爽太くんを始め子供たち全員稽古に参加してくれました。

 兄様は、些少ながらもパーティー風の昼食とケーキを用意して、子供達に振る舞ったのです。

 彼等とは暫しのお別れ。二週間ほど道場はお休みとなります。

 年が明けたら、皆また元気にお会いしましょうね。



☆☆☆



 待望のお時間です! パフパフー!

 やーデートですねー誰が何と言おうと。

 爽太くんと二人っきりで! 上野公園へと繰り出します。うへへ。

 

 

 先般、彼を含めた数名の絵や被服モノが、学校を代表して提出した都の公募で賞を頂いたそうです。

 現在、東○都美術館に展示中とのこと、これは見に行かずばなりますまい。



 なんと上下デニムのペアルック。ミラクル!

 彼の足元はブランドもののスニーカーですが、私のそれはオ○ル・スター(※のパッチもん)です。アメ横で安く売り叩かれてました。


「スカート履かないのですね……」


 俯きながら、チラチラ視線を寄越す爽太くん。

 スカート……そう言えば無沙汰で。


「似合わないですし、着こなす自信が……」

「ありえひんのです! 僕は是非とも拝見したいのです!」


 必死の形相でガバと腕に縋りつく彼に、少し引いてしまいました……。

 なんかエロイぞ(?)、少年。



☆☆☆



「デッサン画もOKだったのですね」


 彼の絵は、マメジカのデッサン画(モノクロ)でした。展示されたカラフルな絵画群に於いて、ひと際異彩を放っています。写実的に非ず、可愛らしい外見にそぐわないワイルドな風味があります。


「はー、将来は画家ですか?」


 彼は何故かモジモジしつつ、


「絵では家族を養えません(辛辣!)。他になりたいモノがあるのです。でも……」


 言葉を切り、沈黙が()ります。

 希望の職業にも、更に選択肢があるのでしょうか。何かしら迷いが感じられます。


「……はっきり決めたら、真っ先に神幸さんへお伝えします!」


 そこは任せろという風に、爽太くんは胸を張りました。

 そのまま真顔で、


「……ちょっと、お願いが……」


 な、なあーんでしょーかっ? 大事なお話? プロポーズ以上の?! ハァハァ……。

 ……いや、落ち着け神幸。




 午後四時近く、あと一時間ほどで閉園の動物園へ。

 ゲートを潜り抜けると、独特の獣臭(けものしゅう)がほんのり漂います。


 爽太くんのお願いは、「マメジカに会いたい」というものでした。

 私としても願ったりで。爽太くんは無料ですが、私の入園料はマメジカさんに捧げる所存です。パンダも興味無いので。



 園内が薄青く(かげ)る頃――バッタリ遭遇いたしました。


「美冬ちゃん?」

「まあ、神幸さん。動物園(こんなところ)でお会いするとは……」


 美冬ちゃんは軽い会釈の(のち)、爽太くんをちらと見やり膝を崩しかけましたが、思い直したように体を起こしました。


「ああ、この子は爽太くん――道場の生徒さんで……爽太くん、あちらは友人の春さん、高校の同級生で……」

「初めまして。不知(ふじ)爽太と申します」


 美冬ちゃんは体を折りつつ、頭を下げる爽太くんを一瞥(いちべつ)し、


(この殿方が、例の?)


 口パクで囁きます。

 軽く頷いてみせたところで、彼女の背後に大柄な男性がヌッと立ちました。

 気付いた美冬ちゃんが、


「兄共々お世話になっている行政書士の――」

「夏です。夏文太郎右衛門(えもん)と申します」


 男性がスッと腰を折りました。どこぞの旗本のようなお名前。

 見上げた爽太くんが、


「……銅像がそのまま歩いているみたい……」


 珍しくストレートな感想が漏れたようです。


「坊主、そりゃ持ち上げてくれているのか? (かたじけな)い!」


『眼鏡を掛けた西郷どん』風なその男性が、いかつい顔を歪ませておどけました。


 年齢不詳な兄やん――いやおっさん? 脳内でボンヤリ呟くと――

 何かがフラッシュバックいたしました。


(「Gセンのパイセン」「ひと回り」「ツルペタ」「十九歳」――)


 ふと我に返り、


「美冬ちゃん、今は何カップです?」

「動物園で交わす会話ではありませんね……C寄りのぉッ! ……Bです」

「限りなくCに近いB、ですな」


 気の所為か西郷どんが嬉しそうに仰いました。

 横の美冬ちゃんは、ホセ・メ○ドーサ戦直後のジョーのように項垂(うなだ)れています。


 セクハラでは? そんな「限○なく透明に近いブルー」みたいに。


 爽太くんが興味深げにきょろっと首を回しておりました。



☆☆☆



 美冬ちゃんに「夜の世界館」の場所を伺い、爽太くんと手を繋いで向かいます。

 ついに、噂の「奇跡」との遭遇です。


 東園の藤棚休憩所そばにある目的地へ着いた頃には陽も落ちかけ、まんま薄暮の世界になりました。

 闇を切り裂き、彼方から「ギャーッ」「キキーッ」と怪鳥音が響きます。



☆☆☆



 薄暗い館内で、爽太くんの手を殊更強く握り締めながら、マメジカを探します。

 

 目当てのケース前に佇み――なるほど、爽太くんの「叔母さん」が言ったとおり、目を凝らさないと見落としそうです。

 動いているモノがおりません(多分)。

 目を(こす)っていると、


(神幸さん、下、下です)


 爽太くんの囁きに視線を落とすと――いらっしゃいました。正面からジッッとこちらを見詰めています。

 空気イス後のように足をプルプル震わせつつ、そ~っと膝を折ってしゃがみます。

 爽太くんも隣でゆっくり肩を並べます。



 ああ……初めまして、ジャワマメジカの旦那。お会いしとうございました。

 大きな漆黒の瞳。足元には確かな「(ひづめ)」。

 


 遠近法を無視すれば、単に大きな目を持つ鹿です。

 現実は、「蹄を持つ動物としては世界最小」……然もありなん。


(こんな動物()が存在していていいの?!)


 不思議。ただただ愛くるしい……のに、胸中に深藍の霧雨がしとしと舞うような心持ちになるのは何故なんだろう……。


 

 ――涙が零れていました。


 隣の爽太くんと目が合うと、彼は薄く大人びた微笑を私に向けます。


「爽太くん……ありがとう」


 私をここへ連れてきてくれて。



☆☆☆



 ――日付が変わる寸前、私は花川戸一丁目の隅田川テラスで、ハンチング帽を抑えつつぼーっと大川を眺めています。

 背後には照明の落ちた松屋浅草がひっそりと控えております。


「二人とも、母の為にわざわざお付き合いいただき」

「アタシのお母さんでもあるし!」

「みんな血を辿っていきゃどうせ祖先は同じだろ(乱暴)? 人類皆兄弟ってのは的外れじゃねーかも」

「壮大! 大河ドラマだよー!」


 独りでレクを、と隠れるように家を出ようとした瞬間、綾女と兄様に見つかってしまいました。

 訳を話すと、くっついて来たものであります。


「同じ故人でも親父にゃそういう感情が湧いて来ねんだよな」

「ドアホ春団治だもんねー」


 二人の戯言(ざれごと)を背に、私は用意したシャンパンをキリキリ開けます。

 スパークリング・ワインに非ず! 正真正銘の「シャンパン」です。大奮発!


 ポンッ! という音と共にドバドバ湧き出る泡に(おのの)きながら、


「お母さーん! メリクリでございまーす!」


 サザエでございまーす! 調に叫ぶとシャンパンを振り回しました。

 龍が如くに漆黒の大川へと弾け、プラチナのように光り飛んで行きます。


 兄様と綾女が慌てて駆け寄り、


「俺にもやらせろ!」

「ましかっ?!(最上級)アタシがやる!」


 争うやうに、私の手からシャンパンを奪おうとしたのでございます。

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