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そりゃ女王様が第一です

 またしてもお店に入ってきたのは小学生でした。女の子です。

 爽太くんといい勝負、若干年上に見えないことも。

 あー、今日もタダ働き決定でしょうか(※中学生以下は初回無料)。


 おそらくは学校指定と思しき、紺色のジャージの上下にポーチを肩から提げています。おうちに帰って、そのまま飛び出してきたような佇まいです。


 店内をキョロキョロ見回し、タタッと椅子に座ります。

 モニタに映る彼女は――黒髪をアップにして銀縁の眼鏡姿。眉毛は少し太めで、垂れ気味の目がキョドりつつ、眼前のボタン群に視線を迷わせております。


 見た目「委員長」ぽい少女の顔を眺めていて、ふと同級生の顔が頭に浮かびました。

 女子高時代、数少ない友人と呼べる方だったと思います。

 まゆを少しキリッとさせて、目が切れ長だといい感じ、彼女が小学生ならこんな風だったろうか、そんな妄想が脳内でビルドアップされます。


 少女は、『おか●つの歌のお姉さん(朝の某国営放送)』というボタンを押下しました。

 うっ。少々ハイテンションなキャラを要求されるのでしょうか。



☆☆☆



【こ、こんにちは】

「こーんにーちはー! 『ツイてない御苑』へよーこそー! 何かツイてないコトあったのかなぁー?」


 ――駄目です、もう息が上がっております。だって夕方ですよ? お母さま。元々朝からテンションの低い私に、これは拷問ともいうべき――


【あ、あの、「女王第一」って言葉、知ってますか?】

「『女王第一』? いえ、耳にしたことがございません」


 一瞬で素に戻ってしまいました。でも彼女はそれどころではなさそうですね。


【今朝登校の途中で、信号待ちしている小さいトラックの後ろ正面にふと目が行ったんです……。荷台に幌がキッチリ掛かってて、幌の下から覗くように「女王第一」って横書きが……】


 ――女王第一。普通書かれているのは、会社名とか、ですよね。

 忠誠を示す心意気でしょうか。

 そもそも、「どこの女王」でしょう。


【朝一でそんな四字熟語を目にして、今日はずっと頭の中それ一色で……色々妄想しちゃって、心ここにあらずというか、いつも以上にドジを……ひどい一日でした】

「それは、『ツイて』なかったですね」


 女の子はしょぼーんと俯き、机の下でイカかタコのように両脚を複雑に交差させます。


「株式会社とか、(有)とか、前後にくっついていませんでしたか?」

【いえ、あの四文字だけです】


 会社名ではない、と。


【……あれ一体ナンなんでしょう。気になって仕方ないんです!】



 私は何気なくペンをとり、折込チラシの裏に「女王第一」と横書きしてみました。

 ぼうっと眺めても、何も頭に浮かびません。


 ふとその四文字の上部に、「幌」代わりに斜線を追加してみます。



 ――あ。


「……整いました」

【整い……??? あ、判明したんですかっ?!】

「ええ。恐らく――『安全第一』と書いてあったのだと思われます。『幌』が掛かって、『安全』の『うかんむり』と『いる』が隠れてしまって、『女王』に見えたのではないかと」


 彼女は慌てて、プッシュホン横のボールペンを手に取り、脇のメモ帳へ走り書きします。



 束の間眺め、


【——ホントだっ!! すごい! スッキリ! 謎々みたい……】

「ご納得いただけてようございました」


 メモ帳を頭上に高々と掲げながら、目を輝かせて破顔する彼女を見るにつけ、私は内心ほっと息をついたのでございます。

 謎の女王とその王国、確定しなくてよかったです。世間にそんな「国民」が紛れているのかと、一瞬屈託がくすぶりかけました。



☆☆☆



【あたし、見間違いとか勘違いとか激しくて。で、ひとり悶々とすることが多いんです】


 下を見ながら、鼻の頭をちょいちょいかくと、


【遠目に、「パ」だけが消えているパチンコ屋さんの電飾文字を見て、突然妄想が始まったり……】

「ああ、あるあるですね。いわゆる『チ●コ屋』という――ナニ屋だよっ(棒)」

【わあーーーっ?! ストップストップ!】

「妄想するのも仕方がないかと」

【えええ?……あ、あと、「未曾有(みぞう)」を「みぞゆう」って読んじゃったり】

「ア●ウさんですね。……『未曾有』って小学生で習いましたか?」

【……自販機でメロウ・イ●ロウを買おうとして】

「! その話あとで詳しくっ!! 幻の『メロ●イエロウ』売ってた?!」

【何度お金いれても下からそのまま出て来て、全然買えないんです。むきになってバカみたいにトライしてたら……】

「故障ですか?」

【いえ、あの、業者の人が自販機の商品を補充中で、「扉が開いてた」だけだったんです……】

「あー、なるほど」


 絵面を想像して、「ふふっ」と声が漏れてしまいました。



 体を(すく)めながら一所懸命「(自称)恥ずかしい話」を語る彼女の姿は、なんとなく微笑ましいものがあります。

 私はひとり「ニヨニヨ」しながら、愉しく拝聴しております。


【そのうち、おじさんが気づいて商品を渡してくれたんですけど、あたしもうひたすら恥ずかしくて……こんなことばっかりです。もうちょっと「ちゃんと」したいです。どうしたらいいんでしょう……】


 真面目ですねえ、そんなに気にするようなことでも……。


「委員長だからしっかりしなきゃ、みたいな?」

【あ、あたし「委員長」じゃないです。大柄・黒髪・眼鏡補正で、みんなが勝手にそう呼びますけど。成績は中の中です、運動も普通……大抵はがっかりされます、マイナスのギャップで。でも、ホント勝手ですよね、「お前太ってるからキャッチャーな」みたいな】


 ひと言も「委員長」だなんて言ってませんでしたよね、そういえば。

 あの同級生は、見た目からなにから「委員長」って感じでしたけど。


「ドジッ娘キャラにしても、周りに迷惑を掛けているわけではないのでしょう?」

【……そ、そうですかね。あたしが自爆する感じです、いつも】

「不手際を(とが)めてギャーギャー喚く人もいらっしゃらないでしょう」

【はあ、それは……無いです】

「私は、あなたの武勇伝(?)を聞いて、失礼ながらとても面白かったです。あなたの勘違いや妄想は、周りを不快にするものではないです。むしろ楽しませてくれる。まだ小学生ですし、年と共に精神的には落ち着いてくるでしょう。深刻にお気にされる必要はないと思います」


 顔を上げた少女は、半開きの口でポカンとしています。


「それほど真面目に考えなくてもいいのです。『マジメになっちゃダメだ』とコブラも言ってます」

【??? コブラ?】

「そうだらー」

【だらー?】



☆☆☆



「――ところで、ここのことは誰かにお聞きになったので?」

【同級生の男の子が教えてくれました】


 頬をほんのり薄桃色に染めて囁きました。 


 ――んんん?


「? ゴ、ゴッド・ブレス・ユー……」


 女の子はフォークダンスのようなステップを踏みながら、軽快に店を後にいたしました。



 後ろ姿を見送ると――。

 また、あの同級生の顔が頭に浮かびました。

 久し振りに……とても久し振りに、彼女と話したくなりましたよ、お母さま。



 ああ?! お金返すの忘れちゃいました。

 ――今度、爽太くんにお願いしますか……。

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