はぐれケイジと純情派
☆本話の作業用BGMは、
『雨のハイウェイ』(原田真二&クライシス)。
カッコイイ曲だと思います。
あの、宿無しだった世良さんが――もとい、『宿無し』(世良公則&ツイスト)の世良さんが●●選へ出馬という一報に、即座に浮かんだのが、何故か原田真二クン。
新生・原田真二、突然復活の巻でした(『キャンディ』や『シャドー・ボクサー』等のヒットより結構あと)。
徹子さんに「ビーバーちゃん」と称されたベビー・フェイスは健在でしたが、帰って来た彼は「辛口のヒーハー」って感じに。
続きまして、『気絶するほど悩ましい』(Char)。
あれ? 前も出したかな? やっチャーったか?(言いたかったダケ)。
ツイスト、原田真二、Char……「ロック御三家」。
そんな・時代も・あったね、と。
〆めは『$百萬BABY』(Johnny)。
ヒャクマンドルベイビィです。百萬ドルの赤ん坊を称える歌ではありません。
所謂ひとつのリーゼント・横浜●蝿(←略称・正式なのは長い)・ナメンナヨ、であります。
日本の方です。今はかなり偉い方らしいですよ。
……お腹減ったなー。前書きでMP失くなっちゃったし。夕飯まだかなー。
さっき食べた? 誰が?
南関東では、雨の少ない異様な梅雨が続いております。
代わりのように、猛暑日を交えた暑い日々が続きますが、これでも真夏のそれとはまたひと味違うのでしょうね、お母さま。
エアコンは、1度下げると電気代30円/時のお得――そんな都市伝説(?)も無視して、ここでは遠慮なく働いていただきます。パワハラではない、と……思いますが。
少しだけ暑さが和らいだ夕方七ツ頃、晋三がやって来ました。
スケッチブックを小脇に抱えております。
誤って清濁併せ呑み過ぎたような青い顔で腰を下ろすと、じっとボタン群を見つめます。
やがて押下したのは、
『ダイヤル……回してぇ……手を(以下略)』
というボタン。
挨拶もそこそこに、
【これなんです?】
「知らんのか。自分で押しておいて」
【このぉ木・気になるなあーって】
「『週刊欽曜日のスガたちへ』の主題歌だった」※1
【バラエティなんですか? 金曜日限定のガースー??】
小林さんのお声でしたか。
I'm just a woman ――。
本日の私は。
恋に落ちた女の艶めいた声で、晋三に囁くことになるようです……お母さま。
正直、勿体ない気分です。
☆☆
【「ケイジ」って聞いたことあります? 幻と噂の】
「皆まで言うなスットコドッコイ。将棋の森ケイジ九段だろ、引退したから最早幻(?)だが」※2
【しぶいっ! でも僕が言ってるのは人じゃないんです】
「人」じゃない?
「あ。ショーン●Kか?」
【人ですよ】
「? ずっとCPU(中央演算処理装置)の中で暮らしてるという都市伝説が――」
【あの人がCMで言ってた「イ●テル・入ってる」って、そういう意味じゃないんですよ】
「なにっ?!」
【そも、「ケイ」しか合ってないし】
言いつつスケッチブックを取り出し、ぺらりと捲りました。
魚の絵が描いてあります。
なぜか正面(のお顔)。
思わず、
「悲●いときーっ(棒)」※3
【なんです、急に】
「ぎょぎょっ! さ●なクンが描いた『お魚の絵』が、『シャケの切り身』だったときー」
晋三、おのがスケッチを覗き込みます。
で、首を傾げる。ふむ。
「さ●なクンが描いた『魚の絵』が、『シャケの切り身』だったときー」
【なんで繰り返すんです?】
「仕様だ」
【はあ……?】
「夕●が沈んだときぃぃ…………」
晋三の顔面から、ふっと力が抜けました。
自虐的な笑みをへらりと浮かべ、
(ぜんぜんわかんないや……)
と呟いたのを、私の魔眼がハッキリと捉えました。
☆☆
【で。そろそろいいですか?】
「ウフン?」
【真面目に聞いていただいても】
「……」
晋三が紙をもう一枚捲りますと。
そこには、
『チックとタックは「ケイジ」がお好き』※4
という一行。
「悲しい――」
【それはもういいです】
「チックとタックは分かるが。小学校の教科書に載ってたような」
とあるおじさん家の「ボンボン時計」内で暮らす、小人のチックとタック。
日がな一日時計を回し、「チックタック」と鳴いている――そんな、蟹工船も真っ青な暮らしを紡ぐ二人。
ある日の夜中零時。「ボーンボーン」で時を止め、時計から抜け出した彼らは……というお話。
→続きはWEBで(雑)。
【「ケイジ」は「幻の魚」らしいんです】
子どものシャケ、だそうで=「鮭児」。
1万尾に1~2尾という確率で見つかる、レアなアレなんですって。
「その鮭児がどーしたっていうんだ」
【とある都市伝説が囁かれてまして。「鮭児の切り身を居間に置いておくと、夜中『チックとタック』が現れる」……という】
「なん……だと?」
【それ見てから、鮭児を探しているんですが……】
「お前ん家、今でも『ボンボン時計』なのか」
【市場にも足を運んだんですけど……】
奇跡的に遭遇出来ても、切り身で数万円だそうで。
小人にくれてやるには惜しい切り身であります。
【まあ、所詮、出所不明の噂話……】
言葉とは裏腹に、凶悪な顔で奥歯をギリギリいわせます。
「噂を舐めたらいかん」
【やっぱり! そうですか?!】
「そうさ。なんせ噂は、光の速さより速いよ」※5
【ああ。スピードか……】
「早熟なんてぶっ飛ばせ!」※5
【?】
「……」
ツッコミも思い浮かばないとは。
お前の存在意義はなんだ? んん?
まるで覇気が感じられません。
「夏バテか? 熱中症? 家で大人しくしてたらどうだ」
【……知り合いに鮭児の入手を頼んでいるのですが、気になっちゃって】
「そんなに会いたいのか、彼らに」
遠い目になると、エアコンの送風口辺りをぼんやり眺めます。
【子どもの頃、あの話を読んで……すっごいワクワクしたし、妙にリアルに感じられて興奮しました】
「まあ、面白い話だったな」
【今の自分なら、「ケイジ」もなんとか出来そうな気がして……】
財力が子ども時分とは違うしな。
「眉唾もんだが。ペッ」
【噂を舐めんなって言いましたよね?】
「わかった。その筋に詳しい人(人ではない?)に聞いておこう」
【そんな人が?!】
「会えるかどうか知らんケド」
単なるシャケの切り身だったら話は早いのですが。
皮目最高でしょ。毎日でも供養出来ますよ。
周さんが大好きで、毎朝食していたそうですし。※6
晋三、噂に振り回されて憔悴の巻。
ではありますが。
俯くヤツを見ていると、憐憫の情とやらが(多少は)湧いてくるのでございます。
「水分足りてるか? コーヒー館でアイスチョメチョメでも飲んで帰れ」
【…………緊急避難先の?】
「『公民館』じゃない」
意外と重症?
「ゴッド・ブレス・ユー」
晋三は幼な子のように、暫くイヤイヤと駄々を捏ねておりました。
仕様がないので、ステディガールの蘭子ちゃんに繋ぎをつけ、引き取っていただいたのでございます。
☆☆☆
その晩、閉店間際にセバスチャン(妖精)が現れました。善きタイミング。
このビルの何階に腰を落ち着けたのか、あれ以来の来店です。※7
近況を語らいながら、「ひょっとしたら同類?」の彼に、昼間の「アレ」について意見を求めますと。
黙り込んだ彼は長いこと瞑目しつつ、卓上で指をトントン鳴らし続けました。
焦れて促すと、ゆっくり目蓋を開けます。
【件の……タツヤとカズヤの兄弟ですが】
「ゆ~たい離(以下割愛)――いえ、違います。因みに、チップとデ●ルでもありません」
【ふむ……】
セバスは暫くの間、存在しない顎髭を愛でるように擦っておりましたが、
【『ボーンボーン! 午前零時のシンデレラ、シャケの小骨も慈しむよ!』】
ああ、彼の「趣味」でしたね(仕事ではない)。
ずっと「それ」を考えていたのでしょうか。
【そのお二人、噂は耳にしたことがありませんな】
「妖精界隈でも?」
【妖精ではないのでしょう、おそらく】
「ふうん」
【人間とおなしような食生活を送る同胞は聞いたことがございません】
「なるほど」
例の二人、「おじさんの」寿司やら天ぷらやら貪ってましたね、確か。
【私自身は、現状(食生活)に満足しておりますよ】
こちらを見据えて、ニッコリ笑います。
食生活……ああ。
「おっおぅ……詳細は結構です」
【『ちょっと待って奥さん! 照明ケースは掃除不要、セバスを優しく放し飼い!』】
「いいって言ってるのに」
貴方が、どう、虫を処理するのか、凄惨な絵面を思い浮かべちゃうでしょ。
勘弁してください。
「ゴッド・ブレス・ユー」
セバスも知らないなら、もう用はないワケで(非道?)。
幸せそうな彼に向け、私は一応、建前で優しく〆めの言葉を送ったのでございます。
……もう、鱒の切り身で手を打ってくれんかな。
かの小人に、鮭児と鱒の違いが分かるとは思えないんだよなあ。
※1 正しくは『金曜日の妻たちへⅢ・恋におちて』(1985年TBS系ドラマ)の主題歌。
『恋に落ちてーFoll In Loveー』(小林明子)。衝撃受けたヴォーカル。カッチカチでゾックゾクしました。
『欽ちゃんの週刊欽曜日』(1982-85年・TBS系)はバラエティ番組。「ブレイキンの神」しんごちゃんが、ここでデビューしました。
※2 森 雞二九段(引退)。元棋聖・王位。『終盤の魔術師』と謳われた傑物。
※3 お笑いユニット『いつもここから』のネタ。菊地さん(※白い方)が同郷なので、それだけでも好感度高いのに! 優しいお笑いです。『夕陽が沈んだときいぃぃぃ……』は名言だと思うのです。
※4 『チックとタック』(千葉省三)。
※5 『E気持』(沖田浩之)より抜粋。作詞は阿木燿子氏。
※6 周冨徳氏。『浅草橋ヤング洋品店』(テレビ東京系列・1992~1996)内のコーナーでブレイクした「炎の料理人」。
※7 本編140話(フェアリーはかく語りき)より。
私の夕餉を食んだのは、チックとタックだったのかもしれません。