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あ!痛さと切なさと心細さと……王子がひとり。

☆本話の作業用BGMは、『アポロ』(ポルノグラフィティ)でした。

 タイトルに唸りました。

 本当。月に行ったというのに……もう!


 お次は、脈絡もなく『聖書(バイブル)』(岡村靖幸)。天才シンガーソンガー。

 昔拝見した時は引いちゃいましたし、色々と賛否両論な方ですが……。

 バスケ部だしー、「背が179!」→高いねー!


 岡村さん、ときたので(?)、トリは『パープル・レイン』(→プ●ンス)。

 やはり天才シンガーソンガー。

 でも、なんとお呼びするのがベストなんでしょう……

 

 猛暑で街の景色がギラギラと揺れる中、連日熱戦を繰り広げた夏のオリンピックが幕を閉じたようです、お母さま。

 私も――いつもより少しだけ夜更かしして、特にお気にの競技もないままチャンネルを回し、控え目に一喜一憂してみました。

 この時ばかりは、自分もいっぱしの? 「日本国民」になれたような心持ちがして、なんとなく安堵出来たものであります。


 一方で――メダルに届かず、「申し訳ない気持ちで一杯です」と洩らした競技者のお姿が記憶の隅に引っ掛かかって、ざらりとした感慨が中々消えてくれません。

 ふと、引退会見で言葉に詰まった横綱・千代の富士関のご尊顔が思い起こされましたが、「悔しさ」のカテゴリーはまた違ったもののように感じられます。


 恐らくは小さい頃から身命を賭して五輪を目指し、しかして迎えた本番では、熱狂した国民に向けてお詫びを――いったい、「五輪」とはなんなのでしょう……。


 銀河系の片隅で行われる地球規模の激闘を目の当たりにして、元気をいただいた一面は間違いなくあるものの。

 次の興行までに――こんなモヤモヤが消えて、再び熱狂することになるのだろうか……祭りが終わってすぐでは、想像することが出来ません。



☆☆☆



 嫌がらせのように陽が落ちない夕刻、酷暑に敗れた若い男性が来店されました。

「申し訳ない気持ちで一杯です」というセリフが頭を掠めましたが、弛緩した口唇からは音すら漏れません。


 背の低い、黒いTシャツを身体に張り付かせた小太りの男性は、黒縁の眼鏡を怠そうに外し、手にした青いタオルでごしごし顔中を拭います。

 ハアと小さくため息を吐いて俯くと、綱渡りの如くフラフラ歩を進めて椅子に腰を下ろしました。

 リュックから取り出したペットボトルを天に向けて一気に飲み干します。

 口元を波打たせると、淡く曇った眼鏡越し、ボタン群を虚ろに見やりました。

 拭い切れない濡れた黒髪が艶を放ち、ポタリと薄紫の雫を落とします。



 やがて、弱々しい手つきで押下した丸ポチは、


御苑(ダ●ジョン)に出会いを求めるのは間違っているだろうか』

『↑そらそうよ(笑)』


 ……阪神の岡田監督……でしょうか。


【こんにちは……】

 

 捻り出したひと言に色があるなら、多分、灰色――。


「こんにちは。ツイてない御苑へようこそ。今日は濡れタオルも凍りそうな塩梅ですね」

【そんなバカな!】

「想像してみてくださいまし」

【…………】

「ちよと涼しくなりました?」

【……少しだけ……】

「よかったです。次は、冷凍みかんでも食んでみましょうか」


 若人は少しだけ口を開け、静かに唸り続けるエアコンに視線を向けました。


 ややあって。

 キュッと肩を竦めると、プルっとひとつ、微動して見せたのでございます。



【あの……笑わないでほしいんですけど……】


 口をすぼめて「ちゅっ」っと小さく鳴きます。

 え? 約束は出来ませんけど。


「フリですか」

【いえ……僕、こんなナリですが、「王子」と呼ばれてます】

「……どなたが?」

【僕です】

「玉子?」

【王子です】

「あ。華僑――」

【江戸っ子です。ワン()ヅゥ()じゃなくて】

「……北区在住」

【違います!……所謂「王太子」の「王子」です】


 王子の台詞に呼応するよに、ドアの向こうで影がふたつ、朧気に揺れました。



 ぽっちゃり王子――ご実家が財閥系で、お城のような豪邸(港区ですと。へっ)にお住まいだとか。

 一人っ子政策の恩恵か(※日本人)「チヤホヤ」で育ち、幼稚舎から大学生に至る今日(こんにち)まで、渾名はずっと「王子」。

 一度生徒会長やったら「会長」と言われ続けるようなものでしょうか。ああ、違いますか。違いますね。


 常にSPが脇を固める日常で、


【僕の財布をあてにした、所謂「取り巻き」連中とSPの所為で、いつも自由に身動き出来ません】

「左様で。それはさぞ窮屈でしょうね」


 監視の目と、あからさまに牽制を続ける取り巻きのお陰で、恋愛もままならぬ人生……だったそうですが。


【所用で立ち寄った警察署で……】

「警察署で?」

【人生初の「ひとめ惚れ」を……】


 とある窓口を担当する、若い婦警さんだそうで。


 王子が床を見つつ、両手でガリガリ頭を掻きます。

 眼鏡気を付けて。溶けて落ちそうですよ。


「まさに、一(ぎょ)()ですね」※1

【え? そ、そうですね?】


 身を捩りつつも、お顔は白いままです。


【僕が許された行動範囲からすると、彼女と遭遇出来るのはその警察署内だけと思われます】

「なるほど」

【でも、警察署にはそうそう用事もないし】

「ふむ」

【恋愛経験も皆無で、この先どうすれば良いのか……全く見当もつかないんです。周囲に相談出来る人間も……】


 占い師か陰陽師をご紹介いたしましょうか――喉元まで出掛かりましたが、飲み込みました。

 だって、元々そんな知り合い居ませんもの。



☆☆



 今、私が声を大にして言いたいのは。※2

 ここは「恋愛相談所」ではない、ということ。

『御苑に出逢いを求めるのは(やはり)間違い』であるということ。

 恋愛経験なんて、私自身乏しいということ。


 困った……。


 そんな、泣きそうな目でこっち見ないでクレメンス。

 (カレ)(カノジョ)を繋ぐもの――この世に存在するのでしょうか、お母さま。


「いきなり告白――」

【ムリムリムー!】


 千切れそうに首を振る王子。


「デートに――」

【無理ですっ!】

「ですよねー……いっそ、ルーレットで決めましょうか」

【JUDO団体戦?!】


 最重量級の代表戦になったらマズいですね(?)。


「その方、なんの担当窓口に?」

【古物商許可の担当なんです】


 ああ。全くの守備範囲外……。


【この間は、中古車販売を始める叔父に付いていっただけで、僕自身が会社を起ち上げる予定はないんです】

「なるほど。ますます接点が……」


 王子の縋るよな瞳が、薄青く潤んでおります。


 泣く寸前のお顔というものは、なぜこうも胸の裡をざわつかせるのでしょう。



「王子は、漫画を読まれますか?」

【……好きです】

「×××タレって漫画、ご存じですか」

【知ってます! 僕のバイブです!】

「セクハラだぞ(ワン)っ!」

【え?! ご、ごめんなさい! 「バイブル」です!】


 法学部生の王子、法律系の漫画が好物だそうで。

 それは重畳、良い算段が浮かびました。


「警察関係に顔が利く、(※端くれの)行政書士をご紹介しましょう」

【へ?】

「プロにアプローチ方法を相談してみてくださいまし」

【……はあ……】


 王道は、古物商に係る相談で足繁く通い、顔馴染みになる……というところでしょうが……。

 方便としての小芝居は必要になりそうですね。


 まあ、ここは春家に丸投げしましょう。

 私などより、警察の内情には詳しいでしょうし。

 許認可申請には、まあまあ明るいでしょうし(※一応その道のプロ)。


「会話も出来ないんじゃ、始まらないですよね」

【お手数をお掛けして……】

「でも王子。仮に上手いこと知り合えても、現状ではデートもままならぬでしょ」

【……ですね】

「そうなったら、覚悟を決めてくださいまし」

【…………】

「今の世に、『身分違いの恋』なんてあってはいけません(そうかな?)」

【…………】

「男を見せてくだちぃ」


 王子は下唇をすぼめ、マジックミラー越しにキリッと睨んでみせました。


「ゴッド・ブレス・ユー……神の御加護を」




「ひとめぼれ」って、偶然の産物でもないような……そんな気もいたします。

 電磁的な何かが、こう……繋がるべくして繋がってしまうような? そんな事もないかな? どうかな?


 ひとめぼれ・オブ・ザ・イヤー……王子が戴冠する日はやって来るのでしょうか。

 一応、お祈り申し上げます。

※1 ナイツ・土屋さんちの家訓との噂。ご子息が「さかなクン」のファンなのだそうで。


※2 『怒り新党』(テレビ朝日系・~2017年3月)内のコーナー、「新・三大~」塙さんのナレーション風。

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