職人マジック
★本話の作業用BGMは、
『モンキー・マジック』(ゴダイゴ)。
新緑が似合う曲ですよね(強引)。
ドラマ『西遊記(Ⅰ、Ⅱ)』(日本テレビ系列)OP主題歌でございます。
斬新でしたねえ。子供向け(?)ドラマで、歌詞が全編英語。
冒頭「アチャー!」と叫んでらっしゃるのは、当時ベースのスティーヴさんだそうで。
アドリブという噂(ウィキより)。
☆締めは『ト・レ・モ・ロ』(柏原芳恵)。
エロす(個人的な感想)。
鳥曇りと言ってよい、とある平日。
年度替わりギリギリで晋三が姿を見せました。
黒い長袖ポロシャツのポケットに、桜の花びらひとつ……そっと乗せて。
あらあら。
サクラチル――という暗喩でしょうか。
芸が細かいですね、晋三のくせに。
いつもの怪しげなスキップ(擬き)も無く、意外にもきびきびと椅子に腰を下ろしました。
頭髪が面白いことになっております。
板前さんのような、所謂「角刈り」と申しますか。
某か手拍子に、「感動で道を踏み外した」のでしょうか。
ちよと違和感……ぼんやり見詰めていると、さっとボタンを押下します。
フッと鼻で笑った、ような?
あそれ、カ・ッチーン。
『男は黙ってサ●ポロビ―ル』(声は高●健さんで)
古の慣用句ですね。
リアタイではないものの、当然耳にしたことはあります。
【ご無沙汰してます!】
「…………」
【あれ? こーんにーちはー!】
「…………」
【あの……お話しましょうよ】
「……不器用ですから」
【ああ、健さんだから?】
違うだろ。
貴様の押したボタンをよく見ろ。そして的確にツッ込め。
晋三は、ゆるりと卓上で両手を組み、ひとしきり、穏やかな視線を投げました。
ふむ。
気の所為か、妙な余裕が感じられます。
いや……「老けた」というのか。
それはまるで、淡い春の木洩れ日のような……木洩れ日って見た事ございますか、お母さま。
「お前、ひょっとして……『卒業』したのか?」
【……】
口元が波を打ちます。
高●純次さんのように目が回転……。
ああ……私を置いて、みんな卒業していきますよ、お母さま。
分かっていても、どうにもやりきれない……。
《友がみな 我より偉く見ゆる日よ――》
脳内の啄木さんが、今日はパンツ一丁で花と親しむよと、寂しげに笑いました。
【えと……それもアレなんですけど。大学受かりました。一応ご報告に】
「あ・そ。おめでと」
【ありがとうございます……素っ気ないですね、やっぱり】
「お前なあ」
【はい?】
「この店(御苑)のコンセプト理解してるか?」
【……えーと】
「えーとじゃない」
【……ツイてないを……】
「そういうことだ」
板前が視線を外し、薬指でカリカリ頭を掻きます。
「ああ、そのイカした髪型がツイてない?」
【まあ、その……】
「鮨屋に弟子入りしたのかと思ったぞ」
【ですよねー】
背を丸め、若干萎れてみせます。
「♪ パンキーストモンキー――」
【モンキー・マ●ックじゃありません】
「孫悟空ではないと?」
【ゴ●ゴですよ、ゴ●ゴ13】
「まさかのデュ●ク」
【彼女の理想らしいです。この髪型】
理容師見習いでしたっけ、彼女。
所謂、「カットモデル」にされたようです。
板前の面が、複雑な様相をミラーボールの如く浮かべます。
「愛しい彼女の手によるとしても、納得行かないワケか」
【いえ、その……】
「避妊したんだろ?」
【そこに戻るんですね、やっぱり】
「ど、どうだったんだっっ?!」
【急にキョドるし】
何かピヨピヨ鳴っているようです。
晋三が慌ててポケットをまさぐり、スマホを取り出しました。
瞬きもせず、青白く光る画面を凝視します。
ちらと顔を上げ、
【あ、あの――】
言い差したと同時、表戸がカランと泣きました。
☆☆
晋三と共にソファーへ移動した黒髪ショートの女性が、しきりに晋三のレバーへ肘をねじ込みます。
(なんやねん! あの写真は! むっちゃ恥ずいやんか!)
(ご、ごめん、お客さん増えるかと思って――うっ。マジで痛いよっ)
入り口脇の手配写真(ツーショット)ですね。晋三が調子こいて貼っていったヤツ。
当時は金髪でしたが……。
「店内マイクに切り替えますねー不器用ですからー」
まさかの彼女ご登場とは。
お写真より大人っぽい……時間というものは、「休む」ということを知らないのですね。
「小松崎蘭子」と名乗った美少女、丸顔を紅潮させてハフハフいっとります。
【声、むっちゃ健さんに似てますね!】
「健さんです。なんせ不器用ですから」
【映画でゴ●ゴ役もやってたんすよ!】
「らしいですね」
女性は鼻歌を奏でつつ、持参したペットボトルをキリリ開けると、ミルクティーを一気に飲み干しました。
晋三が口を開け、豪快に波打つ喉仏へ憐れむような視線を向けます。
【ぷはー。まっず】
「え?」
【ミルクティー嫌いなんす!】
「なんで買ったんです?」
蘭子さん、居住まいを正すと、
【お噂はかねがね。一度お礼をと思ってました】
ペコリ頭を下げます。
「これはご丁寧に。お礼とは?」
【え。「不知火型過激派」やって聞きました。お陰でしんちゃんと知り合えたんで】
「不知火……」
【SNSでいっとき流行ったんすよ。教祖様ちゃいますのん?】
「ああ……教祖ではないですが」
流行った? アレが? もっと早く知りたかった……。
SNS嗜まないからなあ。
「あれは全部タケオが――」※1
【タケオ? 誰やねん】
【さあ?】
遠慮がちに首を捻る晋三。
「学が足らんな晋三」
【無茶ぶりが過ぎる……】
「もっと青魚食べろ」
【そうそう! DDT大事やでー】
【DHAね。DDTじゃ頭悪くなるよ】※2
「誤差ナシッ」
【誤差ナシッ!】
【誤差だらけ……】
楽しい歓談のひとときですが、これは聞かずばなりません。
わかって~くださ~いぃ~(by 因幡晃)。
「ところで……彼の、どこが気に入ったのです?」
【ピュアなとこー】
「……ふむ」
即答ですか。
側の童顔角刈り、俯いて赤くなったり青くなったり。
【バレンタインのチョコ……人違いやって分かったら、めっちゃ悲しそうな顔して……】
「でしょうね」
【それ見たら、「キュン」て言ったです】
「どなたが?」
【あたしのここが】
ドヤ顔。
親指で鳩尾を指します。横隔膜?
ビシバシとイチャつく二人。
ふいに彼女がぽつり。漏らしました。
【……しんのすけ、怒ったことないんですよ】
「ふむ……『晋三』ですよね?」
小さい頃から、まあ、我慢しちゃう子でしたね。
あれ? 私の所為?
【……もっとあたしに、エロエロぶつけてくれてもええのに】
小さく口を尖らせ、晋三の手を握り締めます。
妖しげな目線に、晋三がにへらと相好を崩しました。
ちっ。
【ランちゃん……】
さすがの晋三でも、朝の起きがけはいつも「怒った状態」でしょ?
とは口にしませんでした。
下ネタの振りかなとも思ったのですが。
しかし、二人とも「M」となると……違うか?
「お幸せに」って言った方がよかですか? お母さま。
私も誰かに言ってもらいたいんですけど。
「ゴッド・ブレス・ユー……」
見詰め合って微動だにしない二人。
このままにして帰ってもいいですか?
なにせ不器用ですから、私。
※1 漫画『俺物語』(アルコ・河原和音 集英社刊)の心優しき主人公。ちょいちょい人助けするものの、感謝されるのはいつも一緒のイケメン幼馴染み。
※2 プロレスの技。マジ危険。